Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#036 やはり私は漢字に魅了される

山月記の中から「李陵」が収録されているKindle無料本。 

山月記

山月記

 

急に仕事が立て込んできたせいで、なかなか読書する余裕がない。会社の管理体制がゆるいのを良いことに毎日1冊は読破してきた。また出勤する日が復活すれば200ページ以上の書籍を1日1冊読むのはむずかしくなると思う。ただ、このKindle青空文庫は(1)名作が、(2)無料で、(3)短編である、という長所があることに気がついた。読むべき本として紹介されていたが、なかなか食指が動かずにいた作品もこれなら気軽に読める。そんな作品のうちの一つが中島敦の『山月記』だった。

 

中島敦は明治後期から昭和初期に活躍した小説家で、33歳という若さで病没した。題材が中国を連想させるものが多いが東京生まれである。ただ、親の離婚や転勤で居を転々と移し、11歳からは京城(今のソウル)に移り5年半の時を過ごしたり、満州や南洋も訪れているので、作風もどこか独特なのかもしれない。

 

この『李陵』は遺作で没後に評価を受けたとのことだが、この作品を読んでむしろ他の作品も読むべきだと確信できた。舞台が中国であるせいか主人公は人が虎に変化したという内容で、ありえないシチュエーションでも神秘の為せる技が有り得ることのように思わせる。虎が語る詩がある。もちろん漢文で、虎の語る言葉も元々は役人のような優秀な人物であったことから哀歌的な美しさがある。

 

重厚な言葉の綴られ方に魅了される。日本語が豊かだと思えることにひらがな、カタカナ、漢字という表現法があるからと思うのだが、漢字を発明した中華文化に昔から敬意を込めた憧れのようなものがあった。現在の中国の文学はよくわからないけれど、昔学校で学んだ漢文の授業も大好きだった。そんな昔の憧憬をこの本に懐かしく感じられた。