Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#037 四国は観光立国日本の代表選手

四国といえばお遍路。旅行感覚でぼちぼと進んだお遍路日記。 

だいたい四国八十八ヶ所 (集英社文庫)

だいたい四国八十八ヶ所 (集英社文庫)

  • 作者:宮田 珠己
  • 発売日: 2014/01/17
  • メディア: 文庫
 

旅行記が好きになったのは、なんと言っても沢木耕太郎の「深夜特急(1~6)」がきっかけで、新潮社の単行本に至っては3回くらい買い替えたし、ついにはkindle版も購入して海外に出る時ロビーで出発待ちの間をのんびり過ごす時に役立っている。

 

とはいえ、あの本も文庫本が1994年刊で実際の旅は80年代であるからすでに30年ほど前のお話となる。しかもネットや携帯電話が一般的ではない時代なので時代感が今とはかなり異なる。しかしバスでインドからロンドンを目指す沢木の旅はいつ読んでもかっこいい。かなり、かっこいい。

 

その後私は長く海外を行き来する生活が続き、イギリスとフランス以外の国については全く旅行記に手を出す余裕がなく、もっぱらガイドブックを参考にしていた。イギリスとフランスはむしろ行きたいのになかなか行く機会に恵まれなかった。ライフスタイルに関する書籍を読んでは憧れを、食の本を読めば今度行く時これを買う!とメモを作る。すきあらば必ずや訪問したいと熱く思っているのだが、それすら思うように行っていない。

 

旅行バイブルに「深夜特急」を上げる人は多いだろうし、私もそんな一人である。旅だけではなく、留学記などもたくさん読んだ。たまにヨーロッパ以外の旅行記も読んではみたが「深夜特急」のように何度も読みたいと手元に残して、kindleも買わなくてはと思うほどの本にはそう簡単には出会えなかった。今後またゆっくり読み返す機会があった時にここにもメモを残して置きたい作品があるのだが、その作品をきっかけに国内の旅行記も読むようになった。そんな時に偶然みつけた「わたしの旅に何をする。」。

 

わたしの旅に何をする。

わたしの旅に何をする。

 

 イラストがシュールだし、タイトルからもただならぬものを感じる。確か香港のホテルで暇を持て余していた時にkindleで購入した記憶がある。まあ、本当に笑った!とにかく笑った。それ以来kindleで購入できる宮田作品をいくつか購入している。そして、満を持しての四国だ。

 

四国にはちょっとした思い入れがある。昨年仕事を通じて初めて四国を訪問したのだがあまりにも感動することが多かった。むしろ四国に移住したいくらいに思ったし、実際移住の手続きを調べたほどである。何に惹かれたのかというとその自然と食。土地が肥沃で山も海もある。しかも九州も本州も数時間あれば移動圏内という意外な交通の便も魅力である。多分移住しちゃいそう。いや、するだろうなという予感がある。とにかく魅力的なのだ、四国!!!

 

さて、私の四国訪問はすでに10回を軽く上回っているがあくまでも出張なので滞在日数はそれほど多くはない。行き来するのも空港から目的地の往復なのだが、思えば一度もお遍路さんを見たことがなかった。四国といえばお遍路が最も有名だろうと思うのに、いざ四国の大地の上では毎度頭からすっぽりお遍路のことが抜けていた。見かけないのだから頭の中をよぎることもなかったはずだ。

 

nippon.comで検索してみると、お遍路の工程はざっとこんな感じらしい。

 

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数字順で進めば四国→高知→愛媛→香川と時計周りに進んでいく。著者はこの88箇所を短く区切りながら徒歩でのお遍路の旅にでる。宗教心からの巡礼ではないので「だいたい」がタイトルについているとのこと。

 

面白いエピソードは尽きない。真剣に信心よりお遍路をと考える人にとってはふざけすぎだ!と喝を入れそうな部分こそが何よりも面白い。ふざけているからといってお遍路志願者が手に取らないという法はない。なぜならちょっとした旅のtipというものは思いがけないところからあるものだし、どうせなら楽しみながらお遍路したいはず。

 

例えば、豆。食べる豆じゃなくて、足にできる方。歩くわけだから豆もできる。巷にいろいろな豆対策があるのかもしれないけれど、著者の考察には一読の価値がある。その考察過程がユーモラスでつい自分の旅を思い返してしまった。私はこんな風に楽しく自分の旅を人に語ることができるだろうか。やっぱり著者の観察ポイントの可笑しさは、著者のキャラクターが何よりも面白いからなんだろうなと思った。普通の人のお遍路日記ならばきっと触れられてもいないだろう笑いがある。

 

私が好きなエピソードは2つ。東洋大師でのチベットの話。

東洋大師という小さなお寺があり、荷を下ろし休んでいると住職に声をかけられたので、ここはチベットの感じがしますね、と言ってみた。「わかる?」間髪容れずそう返されて、面食らった。「浄化してるからね」「浄化?」「そう。ここは前は悪い気が溜まってたんだよ。それを私が浄化したんだ。でも、チベットと言われたのは初めてだな。ふむ、チベットねえ」

 

そうか。浄化って清潔ってことなんだなと思った。断捨離とかkonmariとか共通項がちょっと見えた。

 

そしてもう一つは日本の旅をプロデュースするということにおける大ヒントがお遍路にあると気づけたエピソード。長いので抜粋はできないが、ヘレナさんというNY在住オランダ人との出会いは、まさに日本が抱える観光立国プロジェクトの参考となるエピソードだと思う。

 

最近読んだ本で「グローバルエリートが目指すハイエンドトラベル 発想と創造を生む新しい旅の形」という本がある。

この本によれば、富裕層が欲している旅とは「類まれなる経験」ということだった。外務省のHPによれば、日本にはR2年現在23箇所もの世界遺産が登録されているという。

 

我が国の世界遺産一覧表記載物件|外務省

 

素晴らしい建物、素晴らしい芸術を見て「私は今ここにいる!」という臨場感を味わうのも乙なものだが、富裕層の求めるものはもっと別のところにある。この67歳の日本語ができないNY在住のオランダ人女性は、四国を一周するお遍路の間「日本語」が旅を困難にさせていたということがキーだろう。「まあ、それも経験だよ!」で片付けることもできるけれど、それでは絶対にリピーターも来ないだろうし、何より楽しみが半減するだろう。もっと言えば、本来お遍路はカンタベリーとかメッカとかサンティアゴ・デ・コンポステーラとかイスラエルとか、要は「巡礼」なので教えに身を寄せる人に親身なサービスもあるべきではないかと思った。ヘレナさんは看板が読めないから巡礼コースを間違える。旅館が探せない。調べ物をしたくてもネット環境が提供されていない。そもそも私が出張中にお遍路コースの近くを何度も通り過ぎていたというのに一度もお遍路さんを見かけたことがないのは日本国内でもお遍路の魅力が伝わっていないからではないだろうか。歩かずとも車で自転車で方法はいくらでもある。もしかすると日本人にとってもストレスフリーとは行かない旅の原因がお遍路にはあるのかもしれない。今やネットがつながらないというだけで旅行を取りやめる人だっているのかもしれないから。

 

このエピソードを読み、日本はもう少し旅人に寄せた観光スタイルを提供すべきだと考える偉い方々に「四国ならハイエンドも取り込めますよ、日本文化を楽しみたい方にも最適ですよ。ただし、あなた達が環境改善に臨むなら!」と伝えたい。

 

とにかく四国の魅力はこの本だけでは伝わらないけれど、つっこみどころ満載であることは確実に伝わると思う。