Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#623 過去と今を繋ぐ花~「彼岸花」

彼岸花宇江佐真理 著

人の性。

 

私は静電気女である。PASMOをタッチする時ですらビリっと来るし、エレベーターのボタンを押す時、ドアを開ける時、お店で現金支払いでコインを受け渡しする時、ちょっと腰が引けている風の人を見かけたら、きっと私です。冬は特に静電気パワーが炸裂し、すれ違った時にかすかに触れただけでもものすごく痛い。(そして相手はもっと痛いと思います。ごめんなさい。)

 

ということで、ハンドクリームを塗って対策を講じているのだが、この頃のハンドクリームはすてきな香りのものが多く、癒されすぎて眠くなるのが困りどころだ。そして謎なのは、Kindleに触れていて一度も静電気が起きないこと。たまーに紙の本を読む時に使っている金属製のペーパークリップでも静電気が走るのだが、Kindle益々偉大なり。

 

そのKindle、ものすごく便利なのだが一つ困ったのが読みたい本を探す時だ。というより、私の整理法が悪いのだろうと思う。とにかく毎度毎度次に読む本を探すだけでも10分くらいかかってしまう。なぜなら、未読の本がものすごい量で納まっているからだ。セール時などにわーっと買っており、それが積もりに積もっている。読書好きとしては幸せな悩みだが、こちらも紙の本も、早々に読んでいかなくては。

 

さて、本書。困った時には江戸だな、とKindle内を見渡していたら出て来た本。季節的には夏に読むべきのものなのだろうが、著者の作品は季節を問わず深い読書を味わえるので早速読み始める。

 

タイトルの彼岸花、私は実物を見たことが無い。Wikipediaで調べるとこんな花が出て来た。

背景黒だと迫力ありますね。一方で本書の表紙の絵はのどかな田園風景の中にある。

 

本書は短編集で、6つの話が収められている。彼岸花はその中の一つの話で、今やスカイツリーで賑わう押上界隈が舞台となっている。かつて、押上は農地だった。日本橋を中心とするあたりまで船で農作物を持ち込んでいたそうだ。

 

主人公一家はそんな押上の庄屋である。3人姉妹の長女ということから家を継ぎ、二人の息子を産んだ。妹たちはそれぞれ嫁いだが、生活苦に実家を頻繁に訪れる。それぞれの生活、それぞれの想い。

 

彼岸花は「彼岸」という言葉があるように、仏教的には極楽浄土や涅槃の世界を連想させるもので、なんとなく恐々しいイメージがある。別の小説にも彼岸花の話があった。

 

 

この小説でも彼岸花を着物に絵付けするという話があり、それを「縁起悪い」という見方で書かれていた。亡くなった人とを結びつける花。過去を呼び起こし、忘れられない思い出を心に起こす花。そして彼岸花には毒があるという。やはりどうしても死をイメージさせる花だ。

 

本書はそんな人の性、世代のつながりを思わせる少し悲しいストーリーが多い。本書は2008年に初版が出ているので、まだ著者が病に侵される前の作品と想像するが、生き様を感じさせる作品が増えるのはこの時期からのことではないかと考える。

 

ところが本書では彼岸花が別のイメージをもたらしている。畑にネズミが現れた。ネズミの穴をどう埋めるべきか。そこでこんな知恵が出る。「ネズミの穴を見つけたら、そこに彼岸花を植えろ。」ネズミは毒の存在を知っており、決して畑に踏み入らないそうだ。

 

彼岸へ通り抜けることを禁ずる花でもあるということか。やはり著者の作品は全てが深い。