Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#130 いろいろな傷や絶望感を乗り越えたくさせる小説を読んだ

 『君は永遠にそいつらより若い』 津村記久子 著

京都にある大学が舞台。4年生、最後の一年に起きた話。

君は永遠にそいつらより若い (ちくま文庫)

君は永遠にそいつらより若い (ちくま文庫)

 

 

なんのきっかけか忘れてしまったけれど、笑える本として著者の作品が紹介されていて、それではまずはkindleで購入できる作品から読んでみようと笑いとは遠いこの作品から読み始めた。大学生が主人公で就職もきまり、最後の1年をバイトや少しの講義を受けるだけのゆったりをした日々を過ごす主人公、ホリガイ。背が高く、ちょっと風変わりなところがある。

 

大学は京都にあるが主人公は京都の出身ではない。就職先は出身地の公務員となるらしく、京都で過ごす最後の一年なわけだがなんとなくパッとしない。彼氏もなく、会うのは大学の友人くらでその登場人物はそれぞれ異様に印象的だ。

 

大学生が主人公なのでアンニュイな日々にも生き生きとした息づかいが感じられるのだけれど、哲学科(ホリガイは社会学科)の学生が多いせいか、学生の吐く言葉としては深みがあるように思えた。

 

ホリガイの言葉はひとつひとつに感慨深いものがあり少し憧れる。例えば、彼氏のいないホリガイは未だ処女である。処女を女童貞とかポチョムキンと言い換え、少し自分を笑いつつ、鼓舞しながら、やっぱりどこか現実逃避しつつも切実な様子がうかがえる。そんな考えが浮かんでくる個性が羨ましかった。ユーモアのセンスが独特なのだけれど、そこが良い。個性的な人に出会うたびに必ず思うのだが、思考回路がナチュラルに面白いので出てくる言葉に笑わせてもらいながらも感動してしまう。

 

そして内容が極めて重い。まず絶望があり、それをちょっと脇に置き、その上に学生の日常があるのだけれど、突然その絶望がホリガイの前に飛び出してくる。それはホリガイ本人のものだけではなく、周りの人が抱えるそれぞれが前触れもなく現れる。主人公が40代のサラリーマンとかだったら、ヘビー級すぎて気力が奪われる類の内容だ。途中には暴力的なシーンもあるのでハラハラするところもある。

 

絶望には小さなものから大きなものまであって、小さなものには笑える要素があるけれど、きっと本人にとってはとてつもなく大きな悩みなはずなのに、でもやっぱり面白い。一方大きなものは生死にかかわるものだ。

 

全体的に思いっきり考えさせられる内容で読後はちょっぴり呆然としてしまったのだが、津村記久子さんの作品をもっと読んでみたいと思うに至った。なんとなく気の抜けた日々を送っていたけれど、がつんと衝撃を受けるような一冊で小石を飲み込んでしまったみたいにおなかの中にずっと残ってそうな作品。