Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#448 お金の使いかたは人を表す ~「三千円の使いかた」

『三千円の使いかた』原田ひ香 著

お金の大切さを学ぶ。

 

 

そういえば年末に読んだのにメモを忘れていたことに気付いた。たまたま書店に行った時に見かけた本書、手持ちの著者の作品を読んでから購入しようと読み始め、すぐに購入を決めた。

 

 

Amazonでの評価が高かったのも頷ける。テーマは誰もが常に心の片隅に置いている「お金」のことで、その使い方について「さあ、あなたはどんなお金の使い方をしていますか?」と問う小説になっている。

 

主人公の美帆は就職を契機に都内の実家を出て、会社の近くで一人暮らしを始めることにした。一人暮らしを始め、急に自由が増える。自分の思ったように、好きなように動くことができる。それがある日会社の先輩のリストラから美帆の周りが変わってきた。彼氏との諍い、心を温めてくれた動物との思い出、そして自分の実家との関わり合い方。後になれば「あれがターニングポイントだったな」と思えるようなことだが、美帆にとっては突然問題が降って来たわけだ。

 

美帆の姉、真帆は就職してすぐに当時付き合っていた消防士の彼氏と結婚した。そして結婚と同時に会社を辞め、今は専業主婦として暮らしている。娘が一人あり、実家の近くに暮らしている。もともとしっかりもので、証券会社に勤めていたせいかお金への対し方はシビアだ。実家は父と母の二人暮らし。実家の近くには祖母の家もあり、何かと行き来もしている。夫の収入は決して高いものではないので、コツコツとお金をためている。

 

美帆が急にお金について真剣に考えるようになったのは、犬を飼いたいと思ったからだ。動物が飼える賃貸はものすごく数が限られている上に高いから、それなら家を買おう!と思い立ったわけだ。そこでお金を貯めるにはどうすべきかを真剣に考える。そんな時に思い出したのが祖母の言葉だった。

 

それはティーポットの購入に見る祖母、真帆、美帆の違いに関わるもの。祖母はロイヤルコペンハーゲンのものを長い間大切に使っている。母は北欧ブランドのもので友人からの贈り物を使っている。真帆は琺瑯のケトルとしても使えるもので、気に入ったからとお金を貯めて購入したらしい。一方美帆はガラス製のシンプルなティーポットを購入しようと考えていた。お値段、ちょうど3000円。その金額を見て、昔祖母に言われたことが頭を駆け巡る。

 

「人は3000円の使い方で人生決まるよ。」

 

3000円という金額が重みを増す。まず、このくらいの金額ならば小学生でもお小遣いを貯めるとか、お年玉とか、手元にありそうな金額だ。大人ならばもしかすると考えずに使ってしまう金額かもしれない。手に届きやすい金額だからこそ、読者も自分の話として小説にシンクロしていくのだろう。登場人物の様子に「ああ、わかるわー」な所が一つ二つではない。とてもとても身近な世界が語られている。

 

美帆は結局このガラスのティーポットを買いはしなかった。もろくて割れそうで、祖母の話を思い出すほど、それがふさわしいとは思えなくなったから。お金の使い方は人を表すのかもしれない、という思いがふと心に湧いてから、美帆は自分のお金の使い方を真剣に再考する。節約の達人である姉に相談し、自分の今のライフスタイルを根底から変えていくことにした。

 

お金について、みな思うところがあるはずだ。美帆のように今現在、お金が無くて困っている人。真帆のように目標があって貯めている人。両親や祖母のように老後が心配な人。登場人物のお金事情に重なる部分が見られるせいか、つい自分のことが気になってしまい、通帳やら財布に思いを馳せることになる。そして読み終わる頃には美帆の成長に乗じて自分もしっかりやっていこう!と引き締まった気持ちになった。

 

収入が増えるにつれ貯金も増えるかと思いきや、使える額が大きくなると逆に貯めることが苦手になるというデータがあるらしい。美帆の祖母は夫と暮らした家と残してくれた退職金1千万が手元にある。70過ぎて1千万を持っていても「老後が心配」と思うらしい。美帆の両親や祖母の不安は、これから定期的に入ってくるお金が無いことや、増える要素が思い当たらないからだと思う。若い頃は「今」が楽しすぎて将来のことなんて考える余裕もないけど、結婚して子供が産まれたなら子供の将来を通して自分たちのお金事情を考えるはず。そして退職する頃になれば、今あるお金を切り崩して暮らす以外の方法はないに等しいだろうから、もっともっとお金を切り詰めるのかもしれない。

 

ところで、今までお金の使い方に関する本で感銘を受けた本が1冊ある。

 

 

この本を読み、私の衝動買いは激減した。自分の血となり、肉となり、知恵となり、喜びとなるものに集中しよう!という思いを強くしたからだ。何にお金を使い、その買ったものをどう使うかで物の価値は大きく変わり、費用対効果に大きな差がでる。

 

私はどちらかというと自分の意見というものが薄くて好き嫌いくらいもぼんやりしてたし、信条や社会についての意見もものすごくざっくりした表現しかできなかった。人に反対されたり、感情をぶつけられたり、否定されるとすぐにひよってしまい、迎合してしまう。そんな弱さを表に晒さないようにするには、周りに合わせてしまうことが一番楽だ。とりあえず悪目立ちしないように流行から反れない程度の物で身の回りを固めていたけど、その頃は本当にお金の使い方はひどいものだったと思う。どうして「欲しい」のか、流行ってるからだ。それ以外の理由はなかったように思う。

 

それが変わってきたのは外国に暮らしたことが大きかったし、就職して定期収入を得、自由に使えるお金ができたことも一因していると思う。海外では「同じ」である必要はないし、そもそも日本から持参したものを身に着けていると、周囲と「同じ」になりようがない。現地の通貨を円換算して「こんなに高いの!?」とか「この質でこの価格?」など価値観とお金を結びつけるようになった気もする。

 

ただ一つ、逃げていることがあるとすればやっぱり老後の漠然とした不安のせいで、逆に怖くて計画を立てずにいることだろうか。保険の見直しとか、年金なんて出ないだろうから生活費をどうするか、今から準備しておかなくちゃ。頭ではわかっているのに何もできずにいる。今年はお金の使い方を考えることを目標にしているので、今だからこそしっかりやっておきたいと心新たにした。

 

美帆がお金について考えるようになり人として成長していく様子、そして美帆の家族の問題も全てが成長につながるようなポジティブなストーリーなので、自分のお財布事情がどんなにギリな状態であっても「これからがんばるぞ」と思えるし、もっと言えば就職など定期的なお金が入ってくる時期に読んでいたらと思える一冊だった。

 

 

#447 こういうリーダーがいたらなあ ~「善人長屋」

『善人長屋』 西條奈加 著

千七長屋には裏の顔がある。

 

年末年始に長く休んでしまったせいか、気持ちがなかなか通常業務に追いつかない。困った困った。そんな時は小説で気分転換が一番!ということで、ブラックフライデーの時に山のように購入したKindle本の中から、西條奈加さんのシリーズものを読むことにした。現在3巻まで出ているから楽しく読んでいるうちに日常に慣れて来ますように。

 

タイトルの善人長屋は実は属名で、本当は千七長屋という。差配を務める千鳥質屋にちなんだ名前だが、通名のほうがすっかりメジャーになってしまったそうだ。

 

主人公のお縫はまだ10代半ばで実家の千鳥質屋を手伝っている。千鳥質屋は祖父の時代に深川に移り、現在の家主の儀右衛門は3代目となる。母のお俊は美貌で有名だが、その美しさを継いだのは5歳上の兄のみ。お縫は3人兄姉妹で、一番上の姉も、美形の兄も、すでに家を出ている。

 

実はこの善人長屋と呼ばれることをお縫は快く思っていない。むしろ言われる度に嫌な気分になるほどだ。というのも、住人はみな善人どころか裏稼業を持つ悪人ばかりが集っているからだ。実家の質屋は一見普通の質屋だが、裏稼業として盗品を売りさばく窩主買いを営んでいる。古株の髪結いも情報屋。美人局やら、巾着切りやら、代筆やらの裏稼業を持ちながらも、表の仕事で生計を立てているどこにでもいる町人然として暮らしている。が、裏の仕事のほんのり後ろ暗い部分を知っているお縫としては「善人長屋」と言われる度に苦虫を嚙み潰したような顔になってしまうようだ。

 

ストーリーはいくつかの短編で組まれており、それぞれの住人の裏稼業を紹介するような流れになっている。特に面白いのが唐𠮷と文吉兄弟だ。二人は季節の品を売る仕事をしているが、裏稼業は美人局。文吉がおもんという絶世の美女に化ける。二人はお縫とも年が近く、千鳥質屋にも頻繁に顔を出す。

 

父の儀右衛門の人柄と知性もあって、長屋はしっかり統率されている。1巻目はまずは長屋の自己紹介のようなお話。さて、この話をどう日常に活かすか、だ。儀右衛門はしっかりと長屋の住人を守っている。表稼業で暮らしているという「前提」をちゃんと支えつつ、裏稼業でもリーダーとして悪の部分が行き過ぎないように管理もしている。作戦はいつも儀右衛門が考えており、たいていそれにミスはない。リーダーとしての人柄も良く、安定感がある。仕事もなー。こういうリーダーがいたら俄然やる気が出るのになー。

 

本書は悪人が山ほど登場するが捕物のお話ではない。悪事を働くことを裏稼業としてはいても、やはりそこにも人情があり人を助けるためのものであることが多い。それぞれ専門分野が異なるから互いの距離の取り方も絶妙で、儀右衛門の差配としてのまとめ役のおかげか、事はいつもまるく収まる。それがどんな手段であっても人を物理的に傷つけないだけではなく、心にしこりすら与えないような温かさがある。こういうところが時代小説の良いところなのよね。

 

さて、少し心に栄養が注がれたので3冊読み終わるまでに社会復帰できるようにしなくては。

 

 

#446 苦手な漬物以外の発酵食品について学ぼう! ~ 「白崎茶会の発酵定食」

『白崎茶会の発酵定食』白崎裕子 著

発酵食品で健康に。

 

体に良いレシピを探すと白崎茶会に行く着く。本もたくさん出ていて、私も手持ちの書籍がそろそろ10冊程になる。

 


完全にヴィーガンの食生活を過ごすつもりはないし、何が何でも無添加生活!というわけではない。海外で暮らしていた頃は材料が手に入らなくて本書を参考に憧れの和食を作っていたけど、今は完全に体が欲するから作っている。

 

本書は「発酵」がテーマになっている。納豆、漬物、味噌などなど。発酵はコロナ禍以降より一層注目されているように思う。免疫をアップさせる効果があるとして発酵食品を取り入れる生活を続けている人も多いし、日本人の長寿の秘訣は発酵食品にあるという説もある。

 

実はあっさり以外の漬物が苦手だ。ぬか漬け、粕漬はとくに苦手。なので発酵食品なら納豆、甘酒、塩麹、ヨーグルトを取り入れるくらいしかなかった。どうやって美味しく上手に取り入れれば良いのだろう。発酵をテーマにした白崎茶会のご提案はまさに今読むべき一冊!という気がしてならない。

 

さて、白崎茶会のレシピには牛乳や卵が使われることがあまりない。牛乳は豆乳に置き換えられ、その豆乳がヨーグルトにもなり、バターにもなり、マヨネーズにもなり、とにかくすごい。ヴィーガンレシピの工夫のすごさは白崎さんの本で学んだことが多く、とくにレシピ本には作り方だけではなくおすすめの食材も紹介されていて使い勝手が良い。

 

表紙にもなっているこちら。赤い器にあるお野菜が美味しそうで本書を買うに至った。このお料理は「青菜の古漬け炒め」だそうだ。まずは漬物から作らなくちゃ。

 

器や調理グッズが大量なのにすっきり。料理家の台所収納 | antenna*[アンテナ]

 

こういうお料理が体に良いんだろうな。これは撮影用だからてんこ盛りなんだろうけれど、適量を美味しく食べていれば体も整ってくるに違いない。

#445 粋な姉妹の江戸の話 ~「世直し小町りんりん」

『世直し小町りんりん』西條奈加 著

女性が活躍する江戸の話。

 

今年も江戸に浸る予定。去年のブラックフライデーの時、西條奈加さんの小説をいくつか購入した。一番最初に読んだ本がお菓子の本で、それ以来楽しく読んでいる。

 

この作品も続編出るといいなあ。

 

さて、本書は主人公が同心の妹と妻という女性が大活躍の作品だ。ものすごく強い!本書は吉川英治文学新人賞を受賞した作品とのこと。確かに江戸が舞台の捕物とは違う世界が広がっている。

 

お蝶の父は同心、母は辰巳芸者。兄とは母親が異なるがとてつもなく可愛がられている。辰巳芸者のきっぱりした性格を引き継いでか、両親が亡くなった後も一人で長屋に暮らし長唄を教えることで暮らしを立てている。義理の姉の沙十は武家の娘で今は同心家を切り盛りしている。

 

父の他界には秘密があった。それがこの本のキーとなる。

 

とにかく登場人物のキャラクターが面白い上に、話の先が全く見えてこないストーリーで一気に最後まで読めてしまう。きっと時代小説を読んだことのない人でも楽しく読めるものに違いない。というか、時代小説、私は「しゃばけシリーズ」と「みをつくしシリーズ」から読み始めたけれど、江戸という「過去」を経験できない今、江戸=ファンタジーと思い始めたことから俄然興味が湧いたので、本書のような作品で面白さを体験すればどんどんハマる人は増えるはず。

 

さて、私が一番好きだったキャラクターは姉の沙十。武家の娘らしい凛とした心に方向音痴という天然っぷり。行くべき方向の全て逆を行くので徒歩10分の距離でも数時間かかる。そして嫁いだ時に実家からついてきた爺やがまたナイス。薙刀の達人である沙十が暴漢に襲われる度に離れたところから拍手喝采。それがまた笑えてくる。

 

お蝶の下町娘として、芸者っぽい気風の良さも魅力的。父親が同心であり、母との再婚を強く望んだものの、辰巳芸者のさっぱりさというか強さというか、母は再婚を選ばず芸者として三味線を弾き続けた。そこには父への愛も、優しさも全てが詰まった結果だと思う。お蝶の心には両親の思いがしっかり引き継がれており、愛されて育ったが故の安定した生き方が見える。周りにいる長屋の友人もみなお蝶の純粋な部分に惹かれて支えながら生きている。

 

そこへ義姉の沙十の柔らかくもあり、地に足の着いた生き方がお蝶の支えにもなっている。二人とも真っすぐ前を見ているような、真摯な生き方が魅力的だった。江戸の女性の魅力は「凛」の一文字に尽きると思う。今の時代にも凛とした女性の粋さが必要!! 

 

ところで長唄について素晴らしい動画を見つけたので貼っておく。

 

#444 お弁当生活~「六甲かもめ食堂の野菜が美味しいお弁当」

『六甲かもめ食堂の野菜が美味しいお弁当』船橋律子 著

今年もおいしいお弁当。

 

仕事始め。ついに2022年がスタートだ。今年も暮らしを、料理を楽しみたい。仕事始めはやっぱり手作りのお弁当から。世の中便利になったのでお弁当も買えば済む。一人暮らしだと材料を使い切れない問題があるので、むしろ購入したほうがお財布に優しい場合もあるだろう。

 

とはいえ、毎日ごはんは食べる。家でも食べる。どうせなら好きなものを食べたいし、健康にも気を使いたい。ダイエットだって続行中だし、新しい鍋も届いた。あ、バーミキュラをついに購入したのです、クリスマスの自分へのご褒美に。

 

 

さらにはビタクラフトの福袋も買ったのです。

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このスーパー鉄フライパン20cmがステキすぎて、大き目のフライパンとウォックパンも欲しくなった。いや、きっと買ってしまいそう。いや、買うなこれ。買うわ。

 

素晴らしいお道具を持っているのだから、お料理ももっともっと楽しみたい。それにはお弁当が最適なのではないだろうか。朝はあんまり食欲もないし、さらっと食べるだけで十分。今は手作りグラノーラを食べているので準備の必要がほとんどない。一方夜もそんなにボリューミーなものは食べないようにしているので、健康(というかダイエット)優先で1品作る程度。となると、やっぱりお弁当で楽しむのが一番だ。

 

お弁当の中でも上手に入れたいのが野菜料理で、ずっとずっとこの本が欲しかった。年末にやっと購入して早速試しにいくつか作っている。

 

六甲かもめ食堂の野菜が美味しいお弁当: 少しの仕込みで生み出す毎日食べたくなる味 | 律子, 船橋 |本 | 通販 | Amazon

 

この本の素晴らしいところは冒頭にある「美味しいお弁当のための7か条」にある。

 

  1. 味、食感、調理法が重ならない組合せに。
  2. 野菜の皮むきはまとめて、できる仕込みは前日に。
  3. 時間が経っても美味しいように。~その1:ひと手間を大事に
  4. 時間が経っても美味しいように。~その2:サラダの野菜は蒸して使う
  5. 時間が経っても美味しいように。~その3:下味をつけておく
  6. 素材を生かし、食感にメリハリをつける。
  7. まとめて作っておいて、冷凍保存を活用する。

お弁当作りの本はたくさんあれど、素材の扱い方をしっかり説明している本はあまり無いように思う。食材をいかに美味しく最後まで食べつくすかに重点を置いた説明で、読めば気持ちが引き締まる。

 

各レシピはお弁当だけではなく、日々のお惣菜としてもかなりおススメなものが多い。私は持参したお弁当を会社の中の冷蔵庫に入れており、食べる前にはレンチンして食べることが多い。なので漬物系のものはあまり入れないようにしているし、香りの強い野菜も入れていない。サラダ系は同じ容器ではなく別にしている。この本は常温でおいしく食べるレシピが多いので、温める必要はないのかもしれない。食感を楽しむためにも温めない方が良いのかな。

 

とにかくレシピが多いのであれもこれも作ってみよう!という気持ちになり、いざ作ってみるといつもの弁当箱が小さいような気がするほどで楽しさが増す。洋より和のレシピが充実しているけれど、写真で見ると彩美しく和一色のお弁当という感じではない。見ているだけでお弁当のメニューがどんどん湧いてくる楽しい一冊。どんどん活用していきたい。

 

神戸「六甲かもめ食堂」の店主が教える、“ 野菜 ”が美味しいお弁当とお惣菜レシピ集!  時間が経っても美味しく、毎日食べたくなる味の秘密とは?…【誠文堂新光社】|食品業界の新商品、企業合併など、最新情報|ニュース|フーズチャネル

 

かもめ食堂といえば映画の「かもめ食堂」を思い出しちゃうけれど、フィンランドではなく六甲のかもめ食堂フェリシモに「今日の献立」をアップしていたようだ。

 

 

そして年末には六甲から西脇市にお引越しされている。


献立の本も欲しいし、いつか店舗にも行ってみたいなあ。

#443 家計の管理で社会を把握~「羽仁もと子著作集 第9巻 家事家計篇」

羽仁もと子著作集 第9巻 家事家計篇』羽仁もと子 著

家計のやりくりを学ぶ。

 

新年あけましておめでとうございます。

本年度も日本にとって多幸な一年となりますように。

 

一年の計は元旦にあり、ということで我が家は三が日はお金を使わない習慣が続いている。もともと商家だったこともありこんな家風なわけだけど、学生の頃などは初売りにも行きたい、バーゲンにも行きたいと不満たっぷりだった。自分で稼ぐようになってからは何となく理解が行くようになったと思う。今はネットショッピングも楽にできる上に品物の到着も早いから不便を感じなくなっただけかも。でも福袋は惹かれます。好きなメゾンのお菓子の福袋とか、キッチン雑貨の福袋とか、化粧品とか食器とか、あと1日自制しなくては!!!必死に「感染を避けよう!Stay Homeだ!」と自分に言い聞かせているところだけど、今年は書店に走ってしまいそうだ。

 

さて、年始にあたりこの本を読んだ。著者は明治、大正期に活躍した方で婦人之友社を創立した方だ。年末に掃除関連、お金関連のことを調べている時に知り、早速購入した。著作集となっており、購入したのは9巻目の「家事家計篇」のみ。買ってみようと思ったのはこの本でもバイブルとして扱われたから。

 


江戸時代が終わり、明治期は海外の思想や習慣がどっと日本に入って来た時期だ。本書でもアメリカ、フランス、イギリスで生活した人たちによるライフスタイルに関する海外の風習が紹介されている。江戸っ子は宵越しの銭は持たねえ!と床下の甕に小銭を貯める程度だった。それでも町人には帳簿をつける習慣があった。ただそれは商売に限られることで一般家庭の収支で帳簿を用いることは少なかったのではないかと思う。

 

そこへ登場したのが羽仁もと子家計簿だ。表紙も超シンプルでこの形態が長く続いている。

 

この家計簿は1904年(明治37年)に創刊され、令和の今まで長く続いている。なんと戦時中にも続いていたというのがすごい。当時の日本人の家計のデータを取るにも役立ったという背景もあるらしいから、かなり完成度の高いものだったのだと思う。

 

本書はこの家計簿を使っているという前提で書かれているので、日頃ざっくりとExcelで家計簿をつけている私には、まず「細かいなあ」という印象が強かった。年始には必ず1年の予算を立て、年→月→週→日とダウンキャストしていくのだが、予算の項目もかなり細かい。

 

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例えば「食費」は口に入るもの全部を考えていたが、本書の中で「副食費」という言葉が多用されており「なんだこれ?」となった。どうやらこの家計簿では調味料と米は別カウントで、それ以外が該当するらしい。

 

本書ではこの家計簿を用いることで、主婦が一家のお金のやりくりを効率的に導き、さらには生活も同時に管理するということができると説いている。決してその日暮らしにならないように、一家に万が一のことが起きても生きていくことができるように。例えば、貯金は年にかかる費用の1年分はしっかり持っていなくてはならないと言う。もし夫の仕事が無くなったら?給料が減ったら?病気になったら?そんな事態に慌てることなく対応するためだ。

 

たしかに貯金には目的が必要で、例えば「老後のため」という目的があるにしても「では1年に使うお金はいくらだろう?」ということがわからなければ江戸時代の床下貯金と変わらない。学業のため、家を買うため、夢を叶えるため、家族の健康のため、いろんな理由があるなかで「目標」をクリアにするには現状把握が大切なのかも。本書を読んで家計簿買っちゃおうかなという気になりましたよね。

 

そして家の管理についても身を引き締められるような助言が多い。私が本書を購入するに至ったきっかけは掃除関連の本からだった。掃除の管理については「主婦日記」というもので管理したようで、家のことをまとめるノートと言う感じだろうか。明治頃は家に女中さんがいたり、ガスや電気ではなく炭で調理したりと家庭の有り方は変わっている。

 

本書で触れられていることで改めて感じたことは、気候の違いもあるが日本の昔の家は障子や襖1枚で部屋を区切り、通常は開けっ放しで暮らしていたからプライバシーは皆無に近い。しかも「うさぎ小屋」と言われるくらいに狭い。明治時代に欧米に出た人たちは、欧米の住宅は壁で一部屋一部屋が区切られていることに驚いたとのこと。靴を履く脱ぐの違いのほうが驚きでは?と思ったが、この区切られた空間というのは確かに驚きに値するかも。

 

「区切る」という欧米の考え方は空間を区切るだけではなく、時間や、人との関係などにも影響を与えていたのかもしれない。その哲学が日本に入って来たことで明治は一気に変わるわけだが、洋服にしても帯で1枚の作りのものを留める着物とは異なり上下で分かれていたりとか、ポケットがあったりとか、当時の日本人は「なんと効率的!」と思ったことだろう。当時、盛んに読まれた本として『簡易生活』という本の話がでてくる。シャルル・ワグネというフランス人の書籍を翻訳したもののようだ。現在は和訳は販売されておらず、英語版があるようなので読んでみようかと思う。

 

 

明治の人たちにすれば強烈なライフハック本だったのではないだろうか。そもそも椅子とテーブルを知らなかっただろうしね。「区切る」=合理的、効率的という考え方が生まれたのは明治期なのかもしれない。こういうことを一つ一つ学ぶとより歴史に関心が出てくる。明治の合理的に過ごそうというブームが一気に日本に西洋風のライフスタイルを持ち込み、大正期にはモダンが流行り、そして昭和に突入する。戦争があり、何もなくなったところから復興し、世界にならぶ経済基盤を得たはずがバブル崩壊。その後なんとか盛り返しつつある私たちだが、学生時代には「歴史なんて!」とあまり興味を持てなかったのに自分の身近なトピックに置き換えると俄然歴史が好きになる。

 

目指すところは茶室のような整然とした空間で、明治のこの時期ですら断捨離の話が出てくるのが面白い。断捨離という単語ではなくて、「物持ち主義」と言っている。物がたくさんあって整理整頓が出来ていないという状態のことだ。逆にミニマリストは「一張羅主義」。物が多くては片付かない。じゃあどうする?単純明快で「買わない」という答えだった。

 

著者の「家」で起きることの全般に関する考え方は明治時代にしてすでに完成されたものがあり、今の世でも十分に通用すると思う。今までは『楽しく、貯まる「づんの家計簿」 書きたくなるお金ノート』を参考にルーズリーフとExcel表で管理していた家計簿を婦人之友社のものに変えようかな、という気になっている。うーん。3が日だけど家計簿なら消費してもいいかな?図書カードあるしね。

#442 今年もたくさん読みました~「はなの味ごよみ10」

『はなの味ごよみ 10』高田在子 著

シリーズ最終巻。

 

去年の年末は「2021年になればコロナも落ち着いてるでしょ」くらいの気持ちでいたのに、実際こうして2021年の幕を閉じる今振り返ると、年末になってオミクロン株が発生。なかなか終焉とはいかないけれど、今年はワクチンが作られたおかげでずいぶんと蔓延を食い止めらたように思うし、それは大きな進歩だったように思う。あとはなんといっても東京オリンピック!そう、あれは今年の出来事。2021年、本当に皆さまお疲れ様でございました。

 

さて、今年を締めくくるにあたり、年末から読み始めた本シリーズの最終巻を読む。

 


9巻では良太のもとへ嫁ぐため、はなが駒場武家に赴き養子になるべく修行する。もともと鎌倉の百姓の出であるはなにとっては喜楽屋での町人生活も慣れないものがあった。そこへ今度は武士の生活なわけだから、世界観も価値観も異なるなかで大変な苦労だったと思う。今でいえば庶民が貴族に嫁ぐようなもの。よくわからない上に想像すらつかない「日常」にはなは困惑する。

 

さて、私の中で本シリーズの主人公はいつのまにかはなから弥一郎になっている。10巻の最終章ではその弥一郎の素敵さがあまり目立たない。それどころかあんなにも強かったはなへの思い、絶対に自分のもとへはなを連れて来るという熱さが、あれ?というくらいに萎んでいて個人的にはちょっぴりがっかり。弥一郎、君はDarcyではなかったのか!!!

 

でもやっぱりそんな弥一郎ファンは多かったのだろう。巻末に弥一郎の話がストーリーとは別に収められている。これ、きっと弥一郎シリーズはじまるよね?と思わせるに十分な前振りなのだけれど、いやいやいやいや、弥一郎の嫁取りの話とかだったら逆に弥一郎のイメージを壊してしまいそう。

 

欲を言えば10巻は急いでまとめた感が否めない。ストーリーの終わり方にも疑問が残る上に、説明が足りないから辻褄が合わないような気がしてしまった。小説とはいえ、その設定には無理あるよね?と他の時代小説にはないシチュエーションに首をひねる。とは言え、ひとまず読み終えて感無量。

 

来年もたくさんの本を読んでいきたい。料理の本、語学の本、時代小説、ライフスタイルの本などは来年ももちろん読んでいくつもりだが、2022年は少し仕事のための本も読んでいきたい。

 

2021年、楽しい読書をありがとうございました。

来年もステキな本との出会いに恵まれますように。