Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#922 エッセイの女王(マンガ作品もおもしろいよ!)~「貧乏ピッツァ」

『貧乏ピッツァ』ヤマザキマリ 著

イタリア。

 

たまにエッセイを読みたくなることがある。エッセイの良い所は4コママンガのように短いストーリーではありながらも水面下で綿々と舞台がつながっているところだろうか。そこだけ読んでも面白いけれど続けて読むともっと面白い。そして1章完結なところが乗り換えの多い移動にはもってこいだ。短期集中型で読み進められるので、気持ちが書籍から離れることなく楽しく読み続けられる。

 

没頭できる小説を読みながらの乗り換えの多い移動というのは苦痛そのもので、話に集中すれば乗り間違えるし、乗り換え駅を気にしていると走り読みしてしまってせっかくの楽しいストーリーなのにもったいなく感じてしまう。

 

ということで、本書を読みながら実に4回も乗り換えのある距離へと出かけて来た。食のエッセイをお供に電車に乗るのは大変楽しい作業である。自分が住む地域とは異なるエリアへ出かける楽しみの一つに食があり、おいしい食事との出会いのおかげで旅や出張がより充実したものとなる。そんな期待を込めつつ読んだ本書は過激な食レポぐらいのインパクトがあった。

 

本書を読む前に、こちらにも目を通しておくとより本書の満足度が高まるだろう。


著者はイタリアで絵を学び、現地に長く滞在していたことで有名だ。イタリアをテーマにした作品も多いし、イタリア人のご家族のお話が描かれた作品は本当に笑えるので私のお気に入りの一冊だ。今日本で「イタリア」と聞いて連想する人ベスト3に著者が入っていると言っても過言ではないだろう。

 

著者は漫画家としてデビューし、その間に綴っておられたブログを読んでいたことがあるが、それは衝撃的なほどに面白かった。漫画家さんなのに文章も最高に面白い。「テルマエ・ロマエ」が大ヒットとなった後エッセイなどでも活躍するようになられたが、あのブログを読んでいたファンとしてはもう当然至極である。

 

物を見る視点と考察が独特で、それを文章にするという能力がまた素晴らしい。誰もが著者=イタリアという関係性を知っている中で「パスタ嫌い」「貧乏ピッツァ」とどこかイタリアの代表的な食事をディスるようなタイトルではあるが、決して辛辣ではなくどこかにユーモラスを秘めたブラックジョーク的なタイトルもまたすごい。

 

ということで、貧乏+ピッツァという単語2つが何を表すかというと、まずPizzaはピザではなくピッツァであり、地理的に南北に細長いイタリア半島では地域によってこのピッツァに違いがあるというお話だった。アメリカに渡ったイタリア人がピッツァを広め、今やアメリカ人の国民食的な立場にあるが、あの厚めのクラストで「シカゴ」の名前を背負ったボリュームたっぷり感はイタリア南部でよく見るタイプとのことだ。南部は比較的貧しいらしく、小麦粉をパンのように厚めに作ることで満腹感を与える。一方で北へ行くと薄いクラストに取って代わる。更には具材もより高級感が増す。北部では具材を楽しむための受け皿的な役割に過ぎないクラストは、厚くなればもそもそと具材の邪魔をするので、耳の部分も食べない。

 

著者は絵を学ぶ学生時代、生活するにも一苦労だったそうだ。一人でも大変なのに詩人の彼がいて、これまた自称「文化人」あるあるだが一切働かない。学費の捻出、生活費の捻出も大変だっただろう。そのうちに著者はイタリアでの生活苦を乗り越える貧乏飯に行きつく。それが具がほぼ無いニンニクとオリーブオイルと塩だけのパスタだったり、お腹にたまるピザだったりするわけだ。

 

日本に帰国した著者は、日本のイタリアンの価格に驚く。ご自身がイタリアでお金が無くて食べていた具無しのスパゲティが単価の数十倍で売られており、それを恭しくありがたがって食べる日本人。そのうちテレビに出るようになり、ご自宅で簡単に安く作れるイタリアンを紹介するが「これは〇円で作れます」と種明かししてしまうので、イタリアンのシェフから「金額言うな!」とクレームがあったそうだ。

 

本書はちょうどパンデミックの頃にかかれているが、ほんの数年前のコロナ禍がすでに遠い昔のように感じられた。

 

小学生の頃に学校で読んだ米原万里さんのエッセイに惚れ、彼女の作品は全て読んだ。米原さんこそがエッセイの女王と思っていたが、このところヤマザキマリさんが迫って来て同点首位に付きそうな勢いである。二人の共通点はお名前が「まり」さんであることで、仕事で「まり」さんにお会いするとどうしても「この方も絶対面白さを秘めてるに違いない」と邪推してしまう。著者の作品、もう少し読みたくなってきたのでAmazonへ行ってきます。