Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#883 今「伝統工芸」となった私たちの文化が普段使いの「道具」であった頃のお話~「神田ごくら町職人ばなし」

『神田ごくら町職人ばなし』坂上暁仁 著

働く江戸の女性たち。

 

この連休はずっとお客様の対応をしていた。ゆっくり寝たいとか、整体行きたいとか、掃除したいとか、ドラマ・映画見たいなどなど、3日も休めたら何ができるかとホテルのロビーでぼーっと考える。まあ、3日あっても家でゴロゴロしているだけだろうから、こうして外に出ているのも悪くないと空き時間はほぼマンガを読んで過ごしていた。

 

自己満足かもしれないが、今回も時代小説から得た知識のおかげで大変役立ったことが多々あった。雑学だのトリビアだの言われそうな内容かもしれないが、旅行でいらっしゃる方は視界に入った気になるものはなんでもこちらに聞いて来る。石碑の内容、地名や橋の名前の由来、風習、文化などなど、こちらが普段気にも留めてない普通のことをいとも珍しいものとして尋ねてくる。日頃歴史に関心がなければ絶対に答えられないであろうことが、時代小説のおかげで「一つの説ですが」との前置きとともに説明できたことでちょっとしたガイドさん気分を味わえた。

 

今回も知識を補填すべく江戸についてのマンガを読む。本書、とにかく絵が繊細で美しい。5つの職が取り上げられており、そのうち4つは女性の職人が中心となった話である。桶職人、刀鍛冶、紺屋、畳刺し、左官のうち、畳刺し以外は全て女性が組織の長として活躍している。

 

それぞれが力を必要とする仕事である。しかし頭として活躍する彼女らはしっかりと町に溶け込み「職人」として存在するのであり、そこに性は求められていない。本書の中では技量のあるものならば誰でも認められ、男にも勝る腕こそが彼女らを一人前の職人として迎える第一条件となっている。

 

とにかく絵の迫力がすごくて、まさに江戸の「粋」を匂わせるインパクトある作品だった。私が好きなのは紺屋の話で、これがストーリーも絵も素晴らしい。見て下さい、この芸術的描写を。

 

私のワードローブはダークカラーが多く、黒、グレー、ネイビー、濃い目の青とコーディネートを考えずに着合わせても無難なデザインと色合いのものが並んでいる。唯一の差し色が白と「制服か!」な色ばかり。こういう色合いが集まっているのは自分が好きだからでもあるのだが、特に万年筆のインクにあるブルーブラックなどを見かけるとつい買ってしまうので似たようなものばかりが集まるのです。

 

中でも藍染は昔から好きで、よく老舗店舗の暖簾のような色には憧れすら抱いている。袴の色合いといえばわかるだろうか。制服でも多用される色合いだが、大人の衣装にあの色合いを探そうと思っても着てみたいと思うデザインがなかなか見つからない。同じようなネイビーの染めで言えばデニムによく使われるインディゴ染があるが、和テイストを楽しみたいのと伝統産業を支えたい気持ちもあり、出張に行く度に地域の博物館やお土産屋さんなどを除いてはショップの情報を仕入れている。

 

その藍染、華やかな友禅が出て来たことで藍はどこか重い印象となったのかもしれない。そこで新しいデザインを取り入れることで新しい息吹を吹き込もうというストーリがぐっと来た。最終的に藍の色が引き立つデザインとなるのだが、その図柄が本書の中でも扉のデザインとして登場する。それがこちら。

 

 

これが着物になっているところを想像してみよう。濃い藍色に渋めの帯を併せてみたい。じっとこの図柄を見ていると益々藍染についての想像が膨らんでくる。これがカラー版だったらきっとこのページは見事な風格を持っていたに違いない。

 

眼福な一冊でした。