Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#817 何気ない一日に込められた思い~「本当に大事なことはほんの少し」

『本当に大事なことはほんの少し』ウー・ウェン

力強さ。

 

この春から時代小説のシリーズものを続けて読んでいたことや、夏の暑さに参ってしまって料理が出来なかったことや、1か月ほどキッチンのないところで生活していたこともあり、料理本から遠ざかっていた。料理関係の本は落ち着いて味わいたい。心がざわざわしている時や忙しい時に本を開いても、まるで広告でも見ているかのように目が滑るというか、内容が心に届かない。ずっと手にかけていたプロジェクトがあまり良い方に向いていないこともあり、なんとなく落ち着かない日々が続いているのだが、たまに早く帰れたことから本書を手に取った。

 

ずっと読みたいと思っていたのに、山の中に埋もれていた一冊。表紙を見て、すっと心が落ち着いた。「整頓」という言葉が頭に浮かび、とにかくこの本を読めば落ち着いた生活を取り戻せるかもしれないという気持ちにすらなる。

 

ウー・ウェンさんは北京出身の料理家だが、本書で紹介されるレシピはほんの数個で、あとは日ごろの生活で作る家庭料理の説明が文章の中で簡単に紹介されている。そしてウー・ウェンさんが外国人として日本で暮らす中で感じられたことや、プライベートにかかわることも随分と素直に語られているのが印象的だ。

 

生活の中で、ウー・ウェンさんは毎朝お掃除を欠かさないそうだ。床を拭くことから始め、キッチンなどもいつもきりっとしている。

お気に入りのふきんを使い、それが古くなれば雑巾として使う。タオル類も同じ色のもので統一し、お客様用などは準備なさらずに年度単位で交換しておられるとのこと。とにかく無駄がない。キッチンの中でのご自身の動線に1mmの無駄もない。

 

そして北京のお母さまに関するお話も非常に読んでいて温かい気持ちにさせられた。とてもエレガントな方なのだろう。中華料理と言えば、大きな道具で大きな音を立て大きな声でお話しながらがちゃがちゃと道具の音を鳴らしながら作っていくという印象があるが、お母さまは全く逆だそうだ。むしろキッチンにいるかどうかわからないほどに静かにお料理をするので、ウー・ウェンさんもいつしかお母さまのスタイルが身についておられたそう。

 

ウー・ウェンさんのレシピで私が最初に作ったのは卵とトマトの炒め物で、季節にかかわらず体にやさしいものが食べたくなる度に作っている。



ウー・ウェンさんのお話の仕方、お料理の様子は確かに回りに安心感を与えるような落ち着きがある。

 

息子さんが結婚されたそうで、この本はウー・ウェンさん今までを振り返ってのエッセイ本という位置づけになるのだと思う。自分の心が弱っていたせいか、ものすごく勇気づけられた。ふと自分の家の中をみると、視界に入ってくる物の多さに驚く。だから穏やかにいられないのかと反省し、ストレス解消で買い込んでしまったお菓子類を見ては自分の体は自分が食べたものから作られるということを思い出す。

 

そうか。今自分が抱えている疲れや怒りや不安は、自分が蒔いた種なのかと改めて知るに至った一冊。