Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#190 50年前のお母さんのメニューにほっこり

 『母のレシピノートから』伊藤まさこ 著

 

母のレシピノートから (ちくま文庫)

母のレシピノートから (ちくま文庫)

 

 

少し前に伊藤まさこさんの書籍をいくつかまとめて購入した。この1冊もその時に購入したもので、お料理本だけれど文庫という気軽さが気に入った。

 


伊藤まさこさんのご職業は「コーディネーター」というイメージがある。ファッションであれ、食事であれ、ベストマッチを紹介して下さる方。この本はお料理についての本なのだが、お料理するのはまさこさんではなく、お母さまの靖子さん。古い古いノートに書きためてきたレシピだ。

 

↑ も母の味を紹介している一冊だけれど、この本は母の立場から書いたもので、引き継いで欲しいお料理が載せられているが、伊藤さんの本は娘の立場からレシピノートを見て「ああ、これ懐かしいなあ」と母の料理を振り返っているという違いがある。読んでいると小さな伊藤さんが台所に立つお母さまの側で、ぴょんぴょん飛び跳ねながらお料理ができるのを待っている姿が目に浮かぶような温かさがある。今はご本人も母親であり、写真に娘さん(?)が映っているものもあるが(その娘さんはすでに20歳を過ぎたそう)、文章にはお母さまへの愛情が溢れており、読み手にも子供の頃の台所を思い出させる不思議な本だ。

 

どの家にもその家ごとの思い出の品があるのではないだろうか。日本列島津々浦々、例えばお節やお雑煮は地域ごとに異なるし、その世代の当主の好き嫌いなんかも反映してどのおうちもそれぞれの味がある。

 

例えば海辺に住む人たちは自ずとお魚メインのお料理が増えるだろうし、山間に住む人は山菜などを楽しむ術を熟知している。寒い地域は味が濃くなり、温かい地域は甘味を好むらしい。味噌や醤油も地域で全く味が異なる。そもそも味噌は素材も異なる。焼酎だって芋麦米蕎麦、その地域で取れる原料によりそれぞれの味わいがある。

 

伊藤さんのお宅は住んでいた地域が横浜ということもあるせいか、洋風のメニューが多い。お母さんの味というと少し和風のものを想像していた。伊藤さんは1970年生まれとのことなので尚更だったのかもしれない。昭和世代のお母さんのお料理だから和食だろうと思いがちだが、考えてみればピザもハンバーガーもすでに日本に登場していた。よって、伊藤さんの紹介されている母の味にはレバーペーストだの、ポタージュだの、クラムチャウダーだの、カタカナが並ぶのだが、それがまた「ああ、これが横浜か!」と思わせるものがあり、また別のところで関心してしまった。

 

肝心のレシピだが、そのレシピへの思い出と材料についての記載、それから写真が添えられている。写真がまた「おうちスナップ」という感じで伊藤さんの家族への思いが伝わるものが多い。登場人物だけではなく、ご自宅のキッチンで撮った1枚に母の味がしっかり込められているものが多い。

 

お母さまはお料理にひと手間ふた手間を惜しまず、鮮やかにさっと拵えてしまったそうだ。50年前だから今のようなキッチン便利グッズもなかっただろう。おいしく食べるために面倒だと思わずに颯爽とキッチンに立つ。見習いたいと思った。

 

なんとなく「暮らしの手帖」読んでいるような懐かしいノスタルジックなメニュー。