Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#810 知性がのり移る時代小説かも~「眠れない凶四郎 3」

『眠れない凶四郎 3』風野真知雄 著

十手を。

 

今読んでいるシリーズもの。これがもう面白過ぎて止まらない。夏休み今すでにカウントダウン状態なのだが、この本のおかげで会社のことを思い出さずにいられるほどだ。

 

とにかく、人が良い。キャラクターが魅力的で「できる」感があちこちに散りばめられており、なぜか読後に達成感がある。まるで自分までできる人になったような感じ。

 

3巻目、ついに源次は正式な岡っ引きとして認められ、凶四郎より十手を預かった。これには奉行である根岸肥前守の一言が原因となっており、源次の活躍を認め「少し早くてもよい。十手を渡してやれ。」の言葉に凶四郎も源次も次の一歩を進むこととなった。

 

相変わらず二人は夕方から翌朝まで、夜回りの業務を請け負っている。毎日いろいろな街を歩き、遠くから町方の姿が見えるだけでも夜の事件が格段に減っているようだ。単にその姿が悪事を抑えるだけではなく、凶四郎の推理が理にかなっており、実際にいくつもの事件を解決しているからだろう。そもそも凶四郎でなければ気が付かないであろう事件の糸口もあったことから、すでに凶四郎が江戸の夜にもたらした安心感は大きい。

 

凶四郎は凶四郎で、「もしお奉行なら」と根岸の考え方を踏襲することで成長しているようなところがある。そして3巻目ではついに小さな小さな変化から大事件を解決してしまう。しかもその事件は凶四郎の殺された妻、亜久里の事件にもつながっていた。

 

そのきっかけは本当にかすかなもので、一瞬表に現れたような微小な証拠であった。凶四郎だからこそ感じることのできた「気」の違いとも言えるだろう。凶四郎の推理はいつも静的だ。情報に流されることもなく、地に足がついた捜査というべきだろうか。まずはしっかりと仮説を立て、その可能性を一から探り、そして動く。

 

例えば身内がからむ事件というのはどうしたって個人の感情が動いてしまう。たとえ同心という立場でいても、江戸時代には身分制度もありなかなか落ち着いて対応することは難しい。しかし凶四郎は「私」を抑え、すべてを事件の解決に傾けた。その心の強さも並ではない。

 

加えて知性だけではなく剣の腕もある。今、源次は十手を受け取ったが、彼ももとはやんちゃで慣らした腕がある。二人の動きはすでにあうんの呼吸ができており、たった一度だけ凶四郎が妻のことで理性を失いかけた時も源次がすぐに救いの手を差し伸べた。

 

この二人の様子が読み手にやたらと自信をつけさせ、爽快な気分をもたらす。ああ、これはまだまだ読みたい作品。