Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#785 再読で自分の成長に気が付けました~「からくりからくさ」

『からくりからくさ』梨木香歩 著

新しい模様。

 

私にとって本日8月29日は特別な日である。それは私の人生を陰に日向に支えてくれている方のお誕生日だから。別の意味で6月25日もまた特別な日でもある。その人が世を去った日だから。これを読んでピンとくる方、あなたもMJファンですね。

 

MJを名乗る人が我が日の本にも数名いらっしゃるが、某アイドルグループの方でも、「飛び出し坊や」で有名なあのおじさまでもない。MJといえば、常に私の心に灯を照らしてくれるMichael Jacksonその人以外考えられない。昨日の夜、ふともしMichaelが生きていたら65歳かーとぼんやり想いつつ、同い年のMadonnaはどうしているだろうと検索してみた。ご健在ではおられるが、どうやら体調を崩しておられた模様でちょっと心配になる。

 

なんとなく昔のことを思い出しつつ、ふと梨木香歩さんの作品が読みたくなった。出版された文庫本はすべて持っているが、この間Kindle版も購入したばかり。そういえばここ数年全く読んでいないものがいくつかあったので、初期の作品から読んでみようと思い立った。本当は書籍としての第1号からと思ったのだが、こちらを選ぶ。

 

この作品はタイトルにある唐草模様のように時代が、人が、長く絡み合って伸びていく様子そのものと言っていい。物語は亡くなった祖母の家が舞台となっている。今後の管理も兼ね、孫の蓉子はそこにアトリエを持つことにした。蓉子は染めものを専門としている。父も画廊を経営しており、芸術に深い理解のある一家だ。両親も蓉子が祖母の家を継ぐことに同意し、一人で暮らすには広いことから下宿も兼ねようということになった。そこで蓉子の心当たりの人々をたどり、織物を専門とする学生2名とアメリカ人で鍼を学ぶマーガレットが蓉子のもとへやってきた。

 

紀久と与希子は織機を持ち込み日夜作品作りに励んでいる。マーガレットは東洋の文化を習得しようとしており、日本語も達者だ。蓉子も毎日先生の元へ通い染色について学んでいる。そんな4人の真ん中にはいつも「りかさん」という市松人形がいた。

 

「りかさん」は蓉子が祖母から譲り受けた特別な人形だ。蓉子はりかさんと意思疎通ができる。しかし祖母が他界した際、りかさんは祖母を見送ると一度眠りについた。りかさんは常に家族のように4人の近くにいる。人形でありながらもその存在感は大きく、最初のうちこそ違和感を感じていた3人だが、りかさんはりかさんとして受け止められ始めた。蓉子があまりにも普通にりかさんを自らの傍に座らせ、当然のこととして接していたからかもしれない。または唐草が伸び、彼女たちの心へと蔓が伸びたのかもしれない。複雑に絡み合い、それが織物用に世界を広げていく。そこへそれぞれの思いが色となり飾られていくかのように、彼らの日常はみるみるうちに独特の世界を織り上げていく。

 

本書はファンタジーの要素を持ちながらもぐっと大人の世界に近く、かといって純文学に属するかというとやっぱりそれも違うような気がする。時代設定は恐らく昭和の後半で、まだまだスマホなどが日常にない時代のことだろう。読んでいると時空がぽんと過去へ引き戻されるような感覚に陥る。

 

初めてこの本を読んだ頃、特に面白かったという印象がなかったのだろう。全く内容も覚えていなかったし、それゆえに長い間手に取ることも無かった。それが時を経て、自分も多くの経験をし、多くの学びを得た今、本書の世界観に圧倒された。

 

しばらくぶりに読んだがものすごく読み応えのある作品だった。すっかり内容を忘れていたせいもあり一体この先どうなるのかと感情移入しながら読み続けたが、読み終わってもなかなか余韻が解けない。ああ、そうか。あのシーンはあの場面の布石だったのかと読了後に気付くこともたくさん。とにかく、濃い山の霞の中を歩いてきたような気分になれる作品。