Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#601 秋の読書、やっと本格化です!~「室の梅 おろく医者覚え帖」

『室の梅 おろく医者覚え帖』宇江佐真理 著

医者と産婆の夫婦。

 

週末の雨を引きずって三連休最終日は寒い朝となった。この頃は毎年気象状況が異なるので一体例年どんな天気だったのかが全く思い出せない。

 

さて、今日でやっとお客様がお帰りになり、自分の時間が持てそうだ。合間合間に本を読んでいるのだが、忙しいタイミングで気分転換に読んでいる本は後から内容が思い出せないことが多い。読んですぐに記録するようにしているのも、数日経っただけですでに忘れてしまうことがあるからだ。

 

本書に限って言えば、きっと忘れてしまうだろうなあ、という予感がすでにある。著者の作品にはものすごく印象に残る素晴らしい作品が多く、本書が決して面白くなかったというわけではないのだが、あえて言うならキャラが薄い。

 

主人公の美馬正哲は医者の家系に生まれた三男坊で、おろく医者として生業を立てている。「おろく」とは、人が亡くなった時に唱える経文の南無阿弥陀仏が漢字6文字からなることから、亡骸のことを指すようになったらしい。正哲の仕事は今でいうところの検死官だ。事件があれば駆け付け、その死因を探り身元を割るヒントを得る。

 

そんな正哲には年の離れた妻がいる。名をお杏といい、産婆が本職だ。お杏は美馬家の近くで暮らしていた。もともと祖母が産婆で、お杏は祖母の元へ預けられたことから、産婆の知識を学んでいった。その祖母が亡くなり、一人で生きていかなくてはならなかったお杏に、正哲の父親が「正哲と一緒になってはどうか」とたきつける。まだ16歳であったお杏は一回りも上の正哲に嫁ぐことになる。

 

正哲は長崎で蘭学を学び、今で言う外科の分野に興味を持っている。切れば治せる。とは言え、江戸ではまだ手術は公的には禁止されていたので、正哲はおろく医者である。検死官であれば、人の体にメスを入れることもあるだろう。

 

事件があれば同心と共に現場に向かうも、その事件自体も印象が薄く、産婆のお杏が少しずつ正哲の手伝いをして死因を探るようなシーンもあるが、かといってそれもそれほど大きな軸ではない。

 

謎なのは表紙の絵で、本書が文庫になってこちらになったようだ。単行本の時は正哲と思われるどっしり構えた男性の姿が描かれている。そうそう、正哲は兄弟で唯一20代のうちからハゲてしまい、髷を結えないことから頭を丸めている。西郷さんを彷彿させるような迫力があったのだが、文庫本で全く異なるイラストを採用した理由はなんだろう。

 

本当はシリーズものとして考えていたのでは?と考えた。もっと読みたいと思わせるストーリだし、なんとなく物足りなさが残ったからだ。事件の謎解きと医者としての2本立てで話を盛ることができるはずだし、お杏と正哲の実家も大変関係がよいので子供が生まれてからの話なども描けそうなのに、あっという間に読み終えてしまう。

 

おにぎりをぎゅっと手で固めて無理やり小さくしたものを食べた後、みたいな読了感。