Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#782 ポスト天狗のフレッシュさ ~「誰がそれを」

『誰がそれを』田中相 著

短編集。

 

この間来ていた外国のお客様と一緒にスタバに行った時の話。事前にモバイルオーダーして行ったのだが、私はいつも名前は指定せずに行く。するとコーヒー生産地に数字のくっついた名前が自動で与えられるのだが、その外国からのお客様が「なんで名前自分で入れないの!?」と結構な勢いで聞いてきた。その方の国では、たいてい何かを入れるのだそうだ。自分の名前に関連するものではなく、ちょっと笑える名前を入れるらしい。

 

例えばショット追加のラテを頼んで「眠いから帰りたい」とか、キャラメルマキアートにトッピング追加で「ダイエット中」みたいなものにするそうだ。日本ではモバイルオーダー用の場所にドリンクが置かれている形式だが、その方の国では店員さんが「ショット追加のラテ、トールサイズをお待ちの『眠いから帰りたい』様、ドリンクができました!」とお声掛け下さるらしい。そしてたまに卑猥な単語を入れたりする人もいるらしいのだが、その場合は店員さんは無言とのこと。

 

で、その方はマンガが大層お好きで、私以上にいろいろなことを知っていた。それで最近読んで面白かったマンガについて尋ねられ、私はこちらを推薦した。

 

 

今や日本のコミックはあっという間に翻訳されて合法にも不法にも世に出ているようだ。こちらの本については全く知らなかったとの事だったが、いつかいろいろな言語に翻訳されればと思う。

 

そんな話をした後に、同じ著者の作品を読んでいたのだが記録し忘れていたことを思い出した。それが本書だ。

 

おそらく「天狗の台所」よりも先に出された作品かと思わせるフレッシュさがある。短編であるからかもしれないが、ストーリーもぐいぐいと読者を引き寄せるというより起承転結が早すぎてあっという間に終わってしまう感が残った。

 

表紙は恐らくこの作品のもので、ベトナムを思わせる地域での話になっている。

 

親を亡くし、子供たち3人だけで暮らしていた一家に変化が訪れるという流れなのだが、飛び石を渡っているかのようにぽんぽんとストーリーが飛ぶのが少し残念。

 

登場人物の心の機微も曖昧さを残したまま次の作品へと移ってしまうので、1冊でおなかいっぱいになる感はあまりなかったかもしれない。加えて画力は「天狗の台所」に至るまでどんな修行を積まれたのだろうかと思うほどにシンプルかつフレッシュである。というより、天狗シリーズの画力が素晴らしすぎるのだ!ここから一体どんな風に想像力を膨らませ、画のオリジナリティを確立し、楽しいストーリーを産んだのだろう。素晴らしい作家さんだなと改めて「今後も推す!」と決める。

 

作家にとって、連載物を受け持つということは大変な負担かつストレスだろう。週次または月次で読者のリアクションが届き、即座におもしろい/おもしろくないが手に取るように伝わって来る。それが長い作品の布石になる大切なシーンであったとしても、読み手と言うのは概して自分本位の判断をするものだから、大切=面白いではない。一方短編であれば、頭の中でストーリーの組み立てもしやすいはず。それが何冊も続く作品となると、その設定を維持するだけでも大変だろう。

 

たまにマンガを読むと、ものすごく心ゆったりでリフレッシュできる。もう一回「天狗~」読んでこよう。