『天狗の台所』田中相 著
背中に羽が。
「台所」という単語一つになんとなく購入したマンガなのだが、かなり面白かった。現在2冊まで出ているが、続きが待ち遠しい。
主人公のオンは天狗の子。そして次男。NYに暮らすオンは、天狗の末裔たちは14歳の1年は「人目につかず生きよ」というしきたりに従い日本へ行くこととなった。行き先は歳の離れた兄、基の家である。基の暮らしは都内でありながらも広大な森林のど真ん中にあり、まるで日本昔話の世界だ。この頃やたらと民藝好きになってきているせいか、昔ながらの台所に憧れる。このカラーのページが美しい。
天狗にはいろいろと宗派があるようで、どの宗派の末裔も14になるとこの家へやって来る。基も14歳の時、この家で過ごした。当時は基の祖母がこの家を切り盛りしていたのがだが、14になる直前のこと、基の背中に羽が生えた。
これは本当に奇跡的なことらしく、天狗たちは大騒ぎ。何百年ぶりの先祖返りだとかで「天狗をまた世に知らしめようぞ!」と大騒ぎするものもいれば、時代錯誤と笑うものもいる。基の祖母は、基をただの子供として扱った。そして基はそんな祖母のもと、この家で暮らしこの家を守る選択をする。
そこへ弟のオンがやってきた。小さかった弟は生意気盛りとなって戻って来るが、一つ一つを慈しみつつ、生活を送る姿が愛らしい。基の生活は庭で取れる野菜やハーブを使った素朴なものが多いのだが、そもそも基は食いしん坊で料理もうまい。料理の面でも楽しすぎる作品である。
さて、基の生活には相棒がいる。名をむぎと言う。むぎは白い犬で、非常に賢い。配達の人が来たら畑まで基を呼びに行くこともできる。そして、むぎは喋る。むぎの言葉は14歳であれば聞き取ることができる。というのも、14歳は天狗の血が最も濃くなるからだそうで、15歳になると普通の人間になってしまうことから急にむぎの声が聴きとれない。しかし基は今でもむぎと会話が可能である。
基とむぎとオンの生活は天狗がいた時代に戻ったかのようで、自然と共存しながらの暮らしだ。米を始め食材は全て自分たちで育てている。それをありがたくおいしく頂く。憧れではあるが、実際にやってみるとものすごくハードなはずだ。なんとなく、田舎のおばあちゃんの家に行ったような感覚。
次作がものすごくものすごく楽しみ。