Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#747 江戸の街、魅力尽きず~「新宿魔族殺人事件 耳袋秘帖」

『新宿魔族殺人事件 耳袋秘帖』風野真知雄 著

第7弾。

 

この頃楽しんでいるシリーズもの。


ずっと不思議に思っていたことがある。時代小説の中で新宿が登場する際、その地名は「内藤新宿」と呼ばれている。この「内藤」って何?それが本書で解決され、ちょっとスッキリ。

 

内藤新宿とは、そこにかつて内藤家という武家屋敷があり、その周辺地域であった事からそう呼ばれていたそうだ。今で言う新宿の中心地ではなくちょうど新宿御苑あたりだそうで、小説の中だと「めっちゃ遠いところ」なイメージが添えられていることが多い。確かに半日歩く距離は「遠い」と言われてもおかしくないだろう。

 

しかも、内藤新宿は「四宿」の一つだったそうで、品川、内藤新宿、板橋、千住は遠くへ行く街道沿いで江戸のちょっと外れの方な印象であるから、江戸時代の人が言う江戸は山手線の内側よりもちょっと狭いのかもしれない。

 

さて、今回新宿で何が起きたのかと言うと、ならず者らが殺されたという。それも街を仕切っているような大やくざらで、ものの見事にその上を行く何者かにとらえられていた。南町奉行所の根岸らが月番の頃、事件は起きた。深川でのことである。たまたま根岸の恋人である深川芸者の力丸が座敷に上がっていた時のことだった。窓の外を眺めていると、向かいの建物から二つの影が去っていった。軽々とした身のこなしで、あっという間に屋根の奥へと姿を消してしまったという。その者らは内藤新宿から遊びに出て来たならず者の長男で、一瞬にして首に刀を立てられ命を落とした。それをきっかけに次々と謎の死の知らせが奉行所に届く。

 

もちろん、根岸やお付の者である坂巻や栗田も知恵を働かせ内藤新宿での見張りを続ける。その間、根岸の元へ先の老中松平定信が暇を見つけてはやって来る。今度は平戸奉行の松浦まで同伴で、あれこれと面白い話とやらを根岸に落としていくのだが、やはり事件を見極める目は根岸の方が勝っていたようだ。

 

7段目にして嬉しい話があった。根岸の部下の栗田の嫁、雪乃に子供ができた。嬉しすぎて浮かれる栗田。浮かれすぎたのか街での見回りの際に五両という大金を落としてしまう。大切な虎の子で、子供が産まれるため家の普請をと考えていた矢先のことだった。失った五両をもう一度貯めるのだと一風変わった節約に励む。このあたり、かなりほっこりな話である。

 

話しは戻るが内藤新宿だ。江戸四宿の今現在、確かに乗り入れている路線も多く、今も昔も賑やかな場所である。大き目の商業施設なんかもあるし、人の出入りも多い。本書でも(本書が書かれたのは平成ではあるが)現代の様子なんかが時々解説される。これもまた好みの問題だと思うが、江戸に浸っている時に現在の東京の話なんて要らないと思う人もあるだろう。私もどちらかと言うとそういうタイプなのだが、今回は江戸と東京はやっぱり同じ場所なんだというつながりを感じられて楽しかった。

 

それにしても、このシリーズを読むとかなり心が緩むというか、リラックスができるので助けられているのだが、これもきっと時代小説は何も新しいことが起きないという安心感があってのことなのだろう。予想の範疇内の事件しか起きないし、新しい事柄が何一つ出てこない。それが読書のせいで変な神経を使わなくてよいというところが、リラックスになっているのかな、とぼんやり考えていた。ただ時代小説には人を知る良さがあり、情操的にはとても学びが多いということも付け加えておこう。