Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#701 長命寺の桜餅~「居眠り磐音24~26」

『居眠り磐音24~26』佐伯泰英 著

佐々木家へ。

 

2月の頭に体調を崩して以来、咳が止まらない。これがなんとも辛くて、恐らく乾燥のせいだろうなーと思ってはいるが、いったい何の薬を飲めば改善するのか早く良くならないかと願うばかりだ。

 

さて、この頃楽しく読んでいるシリーズ。3冊ごとに記録を残している。

 

 

磐音は佐々木道場の養子となり、その頃西の丸には家基が暮らしていた。西の丸は将軍の嫡子が暮らす屋敷で、家基は明晰であることから江戸を立て直してくれると大きな期待がかかっていた。その次代が着任することで不利益を被る者もいる。それらは躍起となって家基の命を狙い、佐々木道場の面々や将軍家を守る者らは必至に家基を守る。

 

時の将軍が日光参詣に出た際、家基は密かにこれに同道していた。本来は嫡子は江戸にて将軍の帰還を待つものだったが、世の中を見知るためにという親心が家基を旅立たせたと言えるだろう。道中の警護に、まだ坂崎を名乗っていた頃の磐音が加わり無事に参詣を終えて江戸へ戻ることができた。敵にとっては家基を襲う絶好のチャンスだったわけだが、全ての作戦を磐音に悉く潰され、家基が無事江戸に戻ってからはその怨念をどう磐音に晴らそうかと画策している。

 

この3冊の間に、磐音は坂崎姓から佐々木姓へ、おこんは速水家へ養女となり、速水こんとして佐々木家に嫁いだ。磐音の実家である関前では仮の祝言を上げたが、江戸でも道場を上げての大祝賀となった。ついに二人は夫婦となり、佐々木道場の離れで新生活を始める。祝言はものすごい数の人が集まることから、道場につまみを置き、各自祝い酒を楽しもう。御膳を出すまでは叶わないのでお弁当を用意して、つまみとして道場で食べるも良し、持ち帰って土産とするも良し、という形を取った。当日は祝として磐音が長く鰻さばきの仕事をしていた宮戸川からも親分自らがやって来て道場で鰻を焼いた。

 

さて、磐音は家基との江戸ー日光の道中で、ひとつ約束をしたことがあった。当時磐音は毎朝鰻をさばいていた。唯一の定職であり、大事な収入源だ。宮戸川はどんどんと有名となり、今や遠くから深川まで食べにくる人もいるほどだが、大名など身分の高い者はふらっと深川に来て鰻を食べることなど儘ならない。そこで磐音はたまに鰻を差し入れとして持参したことがあった。関前の殿などは鰻が好物となり、磐音に会うことの他、鰻土産を楽しみにしていた。その話を聞いた家基が是非鰻を食べたいと言い、いつか差し入れることを約束していたのである。

 

ある日西の丸に勤める道場師範の依田鐘四郎は、勤務中に呼び出しを受けた。どんどんと屋敷の奥へ奥へと進み、ついには庭で待機するように命ぜられる。加えて「顔を上げてはならぬ」と厳重なる注意を受けた所で、声が掛かった。その声は磐音に約束を果たすよう伝えろ、と言う。磐音の友人で蘭医師の桂川が西の丸へ登城する日を知らせ、必ず伝えるようにと言い残して声は去った。何のことやら全くわからない鐘四郎はともかく磐音へこれを伝える。そこからが大変な準備となる。

 

江戸の頃から愛された菓子が令和の今でも私たちを魅了している。深川にはそんな老舗が多く、和菓子屋らしいほっこりとした温かさがある。当時のままに添加物もなく口に広がる幸福感を思い出しつつ本書を読んだ。

 

そんな幸せ感に雲が押し寄せるのが26巻だ。おこんとの暮らしに満足する磐音に、久々に吉原からの知らせがあった。元許嫁で吉原の太夫であった奈緒は、山形の紅花商人前田屋に身請けされた。そして今、その紅花に異変があったという。山形藩は紅花の商いを藩で一括して執り行うと宣言し、その統括を行う前田屋を潰しにかかった。なんらかの悪の気配が漂い、磐音は山形へ向かう。

 

磐音の気持ちはおこんを娶り、すっかりと切り替わったかのように見える。おこんの美貌については幾度となく書かれ、江戸のみならずその名を轟かせていた。恐らく奈緒の耳にも届いていたことだろう。吉原からの話を聞いた佐々木家は磐音に山形行きを進める。一体磐音はどのような気持ちで出向いたのだろう。幼馴染の奈緒を助けるという目的とは言え、もし想いの欠片が残っていたのなら、ようやく閉じられた蓋がまた開いて気持ちで溢れてしまうだろう。未練が残るものには辛い再会だ。

 

山形の話は切ない。過去とできない思い、どうすればよいのだろう。