#711 ジュエリーが欲しい~「七つ屋志のぶの宝石匣 18」
『七つ屋志のぶの宝石匣 18』二ノ宮知子 著
赤い宝石とは。
気分転換にマンガを。今、唯一読み続けている作品はいくつかあるが、割と定期的に出てきてくれる唯一の作品かも。その割には記録に残し忘れているので書いておくことにした。
著者の作品の特徴は何といってもプロフェッショナルな上にずば抜けた能力のある人が登場するところだ。私のような完全凡人には「天才ってこうだよねー」と想像させるようなちょっと突飛な行動をする主人公の姿を見るのが面白い。
本シリーズはジュエリーがテーマで、その筋の天才たちが山のように登場する。ジュエリーの世界は著者の代表作でもある「のだめ」に見るクラシック音楽の世界よりも一層専門性が高まるだろう。そしてそこに従事する人も少ないはずだ。
主人公のしのぶは、今は受験を控える高校生で母の実家である銀座9丁目にある質屋に暮らしている。祖父母が生きていた頃から質屋の仕事を見てきていたので、たまに店番を勤めたりもしているが、なかでも宝石の鑑定については独特の能力で石の持つ価値を見抜く。
しのぶには宝石に漂う気が見え、そこから石の種類なんかを判別しているらしい。そしてしのぶの側には顕定という「質流れ品」がある。いや、居る。まだ祖父が存命の頃の話だ。近くの北上家という名家がある日忽然と消え去った。家は火事となり、家族の消息も分からない。顕定は北上家の祖母に連れられ質屋にやってきた北上家の跡取だった。祖父は顕定の祖母の願いを聞き入れ、顕定を預かり家族のように暮らしてきた。どうやら北上家の消失には宝石が関連しているらしいと知った顕定は、密かに実家の謎を追い求めるために宝石業界へと飛び込んだ。宝石店デュガリーの外商として、北上家に伝わる「赤い宝石」を探すべく裕福な家々の宝石に家宝の存在を探すというストーリーだ。
宝石というか、ジュエリーがテーマであることに惹かれて読む人は多いだろう。特別な世界観があると思うし、なにより石自体は本来自然により作られるものだから大量生産などできるはずもない。ガラスやプラスチックで似たような姿を生むことはできても、全く同じ鉱物を人の手で生み出すことは相当難しいことだろう。だから、高い。高いからなかなか手元に置くことができない。だからこそ購入する時は失敗したくないので、本書から少しずつ情報を得て楽しんでいる。
ジュエリーにはアート的な価値もあり資産にもなるわけだが、絵画とは違い、人が作り上げた芸術ではなく自然が作り上げた石自体の価値が物を言う。そこに人が介在するとすれば、ジュエリーの土台を誰が作ったかとか、「誰が所有していたか」などのバックグラウンドが箔をつける。5月には英国で戴冠式が行われるが、その時のジュエリーに興味津々なのは私だけではないと思うが、それこそ王族が所有しているジュエリーは価値が付けられないほどに高価であろう。
そんな西洋のジュエリーが江戸の商売である質屋と結びつくろころも面白い。伝統や本物や真の価値という言葉がぴったりの作品で、今の使い捨ての世とは逆の方向にある世界に見えた。
これからも続きが楽しみです。