Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#706 折り返し点を過ぎました~「居眠り磐音27~29」

『居眠り磐音27~29』佐伯泰英 著

若先生の日々。

 

この頃楽しく読んでいる時代劇のシリーズもの。気が付くともう折り返し地点を過ぎていた。

 

 

佐々木家の養子に入ってからの磐音の生活は剣術中心である。佐々木道場の若先生として指導をする他、道場の仕事も引き受けている。おこんも速水家へと養女に出てから佐々木家へ嫁ぎ、今や道場を支える立場となった。磐音の生活で最も変化があったことと言えば、深川に暮らしていた浪人時代とは異なり、南町だけではなく幕府からまでも頼りにされるようになった点が挙げられるだろう。もともと佐々木家は密かに将軍家を支える立場にあり、養子となった磐音もその縁と絆が日に日に深くなっていく。

 

磐音が江戸から関前に戻り、藩の悪政に嵌めら親友がみな世を去った。このことは多くの人間の人生を変えた。藩の悪政というのはほぼ金が原因で、私欲を貪るどうしようもない輩のせいで、多くの未来ある者たちが命を落とし、関わる全ての人々に深い傷を残している。渦中にいた磐音自身も最終的に友に刀を振ることで、心身ともに空っぽになった。

 

しかしこの出来事が磐音に迷いの無い剣術を授けたことは間違いない。そして真の辛さを経験した者のみが持つ優しさを磐音は持っている。磐音の人柄に魅了された人は多く、佐々木道場が広く名を知られるようになっても、道場内外で身分の分け隔てなく交流ができるというのは磐音の心根の広さがあるからに他ならない。

 

この3巻は大きな波もなく、ゆったりとした結婚後の磐音の生活が描かれている。まだ子には恵まれてはいないが、磐音を慕う多くの人が常に集まってくるような生活だ。新しく普請したばかりの佐々木道場には毎日道場破りのような者がやって来るが、中には次代の家基を殺めようとする動きも加わり、日々緊張が続く。今のところ挑戦者たちは勝を見ることはないが、負けを認められない者からの因縁は続きそうだ。

 

それにしても面白いのが武村武左衛門だ。磐音が江戸に来てから出会った中で最も古い友人の一人であり、出会いのきっかけはおこんがいた今津屋の用心棒であった。南割下水に住み長くお役には付いていない。酒が好きで、働く気持ちも緩く、ダメを絵に描いたような人物なのだが武士としての矜持はある。武左衛門が失敗する度に柳次郎と磐音は彼を助ける。子供4人の大家族で武左衛門が頼りの貧乏生活であるが、全く役に立っていない。そのせいか妻や子はしっかりしていて、長女は佐々木道場に奉公に出ている。

 

武左衛門が出てくる度に「このタイプは勘弁だなあ」とついつい思ってしまうのだが、柳次郎も磐音も深い情で武左衛門に接している。もし私の周りにこのようなタイプの人がいたら、きっと遠巻きに関わりを持たないようにするだろう。そして磐音らの温かい対応に「もっと心を広く持たねば」と反省するのである。