Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#685 マルチレイシャルな人々~『「モザイク一家」の国境なき人生』

『「モザイク一家」の国境なき人生』長坂道子 著

国境。

 

やっと風邪の症状も和らいできた。病院の薬は効きが良く、市販の薬よりも治りが早い。とにかく眠いのが問題で、週末15時間くらい寝たのも良かったかも。

 

さて、本書はKindle Unlimitedで読むことのできる一冊。タイトルの「モザイク一家」というのは、まるでモザイクのように多文化多民族が家族をなしている、ということだ。副題に、パパはイラクユダヤ人、ママはモルモン教アメリカ人、妻は日本人、そして子供は、とある。これは著者の夫の立場から見たもので、ご本人の立場についての説明がない。

 

著者のご主人は、国籍はアメリカ。しかし育った環境はスイスである。両親の世代がすでに多文化であり、そこに日本人の妻を迎えたことから子供世代はどの民族の属するのか、などが語られている。

 

日本は周囲を海に囲まれている環境にあることから、単一民族、単一文化と考える傾向がある。しかし他国と陸続きな場合、文化や言語がミックスする環境にあるようだ。そして日本ではバイリンガルであることがものすごく優位というか、特別な能力とみなされることもある。しかし、ヨーロッパを例に見て見ると、例えばフランスとドイツの国境に住む人は両方の言葉を話せるし、食生活や宗教などの文化背景も混在しているので、いわゆる国境のような境界線というのは引きにくい。

 

著者のご家族の場合、養父はイラクのバグダットで生まれたユダヤ系で、長い間国籍も無かったと言う。そしてやっと取得できたのが、ユダヤ教徒を受け入れたイスラエルである。すると養父の背景にはユダヤイラクの文化があり、養母の背景はアメリカ人でモルモン教の文化背景を持っている。そして本人はスイスで生まれ、それだけでもすでに複雑になっているが、スイスはスイスドイツ語、スイスフランス語と2言語が共通語で、生まれたチューリヒはドイツ語圏である。さらにインターナショナルスクールに通っていることから、ご主人は自身のアイデンティティーをどこに置くのか、本人は自身の所属をどこに求めているのか、家族の歴史を追うことからストーリーが始まっている。

 

日本では貴重な存在とみられるバイリンガルはヨーロッパではよくある話のようだ。もっと言えば2か国語は少ないほうで、3か国語、4か国語、5か国語、それ以上と多言語を同じように扱える人もいるらしい。言語や宗教は所属を位置づけるのに役立つが、著者の作品に出てくる人々は国籍を複数所有する場合もあり、余計に複雑である。

 

つまり、文化も宗教も国籍も複数あり、「私は〇〇人です」とはっきり言いきれない背景を持つ人は世の中本当に多いと言うことだ。逆に日本のように1つ2つで迷うというケースは、むしろシンプルな例と言っても良いのかもしれない。

 

マルチレイシャルな人々は、自分の属する場所を選定しにくい。日本にいる限り、多文化と言えばバイレイシャルを想定する場合が多いが、マルチレイシャルの方々には「所属」という概念が希薄なようにも感じられた。自分は自分で、敢えて1つに絞る必要もないし、1つに絞ったからと言って自分の中の違和感が消えるわけではない。

 

マルチレイシャルな中に日本人が家族として加わり、より多彩となった著者の一家を通じ、世界の広さを感じさせる作品。