Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#665 己の弱さを強みに替える!~「世話を焼かない四人の女」

『世話を焼かない四人の女』麻宮ゆり子 著

個性を認める。

 

本日より本格的に仕事はじめという方も多いだろう。そろそろ本格的に動いていかなくてはなのだが、体が付いて行かないのはなぜだろう。正月気分から抜け出すために、現代が舞台の作品を読んで気合を入れることにした。

 

本作も年末のキャンペーン時に購入した一冊で、タイトルを見てなんとなく購入したように記憶している。本書は短編が4つ収められており、タイトルにある通りにそれぞれを4人の女性がリードしている。そして、それらの話をつなぐのは、女性ではなく斎木という男性である。

 

1話目の舞台は住宅メーカーで、主人公は総務部長を務める闘子。離婚を経験しており、同業であった夫に自身のアイデアを盗まれたことが原因だった。今はこの会社に全力を注いでいるが、部下たちをまとめることに苦労する。

 

2話目は宅配ドライバーの女性が主人公で、宅配業界の厳しさが垣間見える作品だ。私自身はあまり着払いを選択することはなく、荷物はたいてい宅配ボックスで受け取るのだが、人によっては必ず配達員に接触する手段を選ぶ人がいるようだ。女性の配達員であることから嫌がらせを受けたり、大量の荷物を時間内の運ぶのは至難の業。ソフトボールで鍛えた体力が彼女の仕事を助けている。

 

3話目はドイツパンを焼く女性の話。この物語はどのように記すべきか迷うのだが、全体に流れているテーマを凝縮したようなお話になっている。

 

最後は清掃業者を営む女性の話。夫が20歳も年下の女のもとへ走り、夫に替わり会社を運営する。子供も離れていき、今は会社を育てることにすべてを注いでいる。夫の代わりであった頃には社員からもまともに相手にされなかった。ところが、自ら会社のトイレ掃除を毎日行い、掃除について学んでいく。掃除に心の安定を見出すような面もあるが、掃除を通して人が成長する話でもある。

 

全体を通して根底にあるのがメンタルヘルスだ。言葉選びに慎重になるのだが、とても繊細で鋭敏すぎるが故に、何等かの衝撃に対応できなかったり、とあることには特化した才能を見せるも、それ以外には対応ができなかったり、など。症状を正しく表現する言葉を私は知らないが、以前に社内にこのような方がおられた時、適応障害という言葉を聞いたように記憶している。

 

人と違うということで非難されることも多かろう。騒音が苦手、人込みが苦手、話すのが苦手、とコミュニケーションの手段が独特であることから、何等かの改善法を自ら進んで取っている人もおられるようだ。小説の中では、マスクや耳栓で外界を遮断する方法が書かれていたが、周囲が協力すれば社会生活も十分に送れる。その様子がストーリーの全てに溢れており、社会派とも言われるテーマがあったことを知らずに読んだ私は、本書で知ったことが数多かった。

 

心の病を抱える人が身近にいた頃、私は全くその方の行動が理解できなかった。そして今でも疑問に感じていることが多い。当時は知識がなかったからだと思っていたのだが、本書を読んでまた新たな疑問を感じている。詳しくは語らないが、もう少し心理面についての書籍も読んでみたいと思えるようになった。読了後にタイトルの意味について考えたのだが、世話を焼かないというのは、彼らの個性を受け入れているからと理解した。本人も理解し、周囲も理解する。

 

本書の四人の女性は自分の弱さを受け入れているからこそ、強さが発揮できている。自分を知り、受け入れること。そこからがスタートなのかもしれない。