Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#646 元気なおばあちゃんが夢を追い続けるお話~「マジカルグランマ」

『マジカルグランマ』柚木麻子 著

元女優のおばあちゃん。

 

12月、日本はやはり「年末」が何よりもパワフルなイベントのような気がする。他国はやっぱりクリスマスが圧倒的な存在感を持っているようだし、日本とはまた異なる厳粛さがあるようだ。そしてアジアの国では旧暦で御祝するせいか元旦にそれほど意味がない。よって日本の年末年始の休みというのが「よくわからん」らしい。

 

12月に入り、急遽アジア圏への出張2本立てが決まったのだが、1本目を終え「やっぱり日本の師走は独特だなあ」と改めて実感し、さらにその独特さを心地よいものとして楽しんでいる。お正月に向けての準備もワクワクするし、その少し手前にあるクリスマスも心が華やかになって更によい。お仕事でも挨拶廻りなどで久々にお話したりとちょっと浮足立ったようなそわそわワクワクが続きそう。

 

さて、そんな中で移動中に読んだのがこちら。Amazonの50%ポイント還元で自分史上最も本を買うという経験をし、本書はその中の一冊だ。定期的にギフトカードを買う様にしているので、カードの残高があったことも爆買いにつながった。多分300冊くらい一気に購入したと思う。時代小説の20冊以上のシリーズとなっているものもいくつか購入したし。Kindleがパンパンにならないか心配だ。

 

で、まず本書を読んだのにはなんとなく明るい気持ちになりたかったから。まだまだコロナ禍が完全終息とは言い難い上にインフルエンザまで蔓延しつつあるという。海外への移動中も予防はぬかりなく、でも勝手のわからない国にいるので移動と予防でなんだか疲れてしまった。

 

主人公の正子は75歳のおばあちゃんだ。昭和初期、女優として活躍した過去がある。夫は映画監督で、息子が一人いる。義両親は文化的価値のある邸宅を息子夫婦に残していき、正子は今でもそこに住んでいる。が、夫との交流は皆無だ。たまに必要事項だけをLINEする。

 

正子には女優時代に憧れた先輩紀子ねえちゃんがいる。紀子は大女優として80代になった今でも銀幕の世界に生きるが、正子は結婚と出産を機に映画の世界からは遠ざかってしまった。しかし、正子には密な欲望があった。それは、だれよりも目立ちたい、評価されたいという欲。

 

75歳になる直前、正子は友人の勧めでオーディションを受け、かわいいおばあちゃん役を獲得する。そこから急上昇に見えた正子の人生だったが、家庭内別居中の夫が死後5日経った頃に発見された。もともと離婚を願い、一日も早くここから出たいと考えていた正子には夫の死に全く悲しみを抱けなかった。一人息子とともに葬儀を取り仕切るが、表舞台に立つ機会が増えていた上に夫が名のある監督であったことから、マスコミが葬儀へ押し寄せる。

 

そのマスコミの前で正子は大失態をやらかした。とはいえ、本人は思っていたことを口にしたまでで、まったく悪いことをしたとは思っていない。それがきっかけで女優業もぱったり途絶え、また正子の日々の奮闘が始まる、という話。

 

映画監督であった夫を慕ってやってきた娘を同居させたり、ご近所さんとの縁が深くなったり、毎日毎日が前進している。75歳という年齢も今やまだまだ体を動かせるわけで、気持ちがわかければ正子のようにガツガツと欲望を満たしていくのかもしれない。

 

結構なボリュームで、読了後は「ばあちゃん、すげーな」という感想の一言につきる。しかし、高齢者の悲しい面や卑屈な面ではなく、「まだまだがんばれる」という明るい面に、まずはずっと元気でいなくてはと考えた。正子はやはり昭和初期に青春時代を過ごしているせいか、なんでも手作りでさっと料理をこしらえる。出来あいのものよりおいしそうだし、やっぱり食べ物って大事だよね。

 

ところで、本書内で「マジカル」という意味の言葉を知った。魔法のようなとか、神秘的なという意味から派生しているのだが、例えば「マジカル・ニグロ」という表現。正子が大好きな映画「風と共に去りぬ」に出てくる黒人のお手伝いさんがそうであるという。wikipediaによると、

 

マジカル・ニグロ(Magical Negro)は特にアメリカ映画において白人主人公を助けに現れるストックキャラクター的な黒人のことである。しばしばすぐれた洞察力や不思議な力を持った存在として描かれるマジカル・ニグロはアメリカにおいて長い伝統を持つキャラクター類型である 。

とある。こうあって欲しいみたいなステレオタイプに加えて、他者のサポートに回る黒人で、サポートされる側は白人らしい。

 

タイトルの「マジカルグランマ」もその例で、いつもにこにこ、優しくみんなを愛し支えるおばあちゃん、という絵にかいたようなおばあちゃん像を指している。最後まで読んでいくと、実は社会派な面も隠された作品であることに気が付くはず。

 

さて、これから2本目出発します。