#584 昔々の敬老の日~「武士の流儀 6」
『武士の流儀 6』稲葉稔 著
流儀が見えてきた。
朝晩は秋らしい天気が続き、やっと暑さから解放された感がある。今となっては昔々の話だが、もともと9月15日は敬老の日で休日だった。それが海外から帰ってきたら9月の第3月曜日に移動していて、あれから何年も経っているのに未だに馴染めずにいる。
さて、今日はそんな平日を満喫しつつ、シリーズで読んでいる本書の手持ちの最後の1冊を読んだ。
夏に入って読み始めた本シリーズ、なんとなくだが秋に読むほうがしっくりくる気がしている。というのも派手な捕り物ではなく、庶民のあいだの小さな困りごとを解決するもので、穏やかな読了感があるからかもしれない。
庶民の困りごとを解決するといえば、このシリーズも面白い。
面白いという言葉にはinterestingやfunnyやhilariousなどがあると思うが、こちらはついつい笑いが出るような感じのfunnyさがある。解決の方法も軽くはずむような流れがあり、謎解きのような面もある。
一方で元凄腕与力の武士が解決となると、正攻法で取り組むせいかやはり固さが前に出る。口調も堅いし、町の人々の生活にいきなり武士がやってくるわけだから、問題を抱える側も何やら構えてしまうだろう。そこに高圧感なくやんわりと近寄っていく清兵衛に、人々も好意を抱かざるを得ない。
今回の4つのストーリーも全て清兵衛の人情に溢れており、6巻目は全てがかなりインパクトのあるお話でシリーズにどんどんと深みが増した感がある。1作目は清兵衛の親友で現役与力である勘之助の次男による騒動だ。これがまた切腹ものの手に汗握る展開で、話が前後左右にぐらぐらと揺れる。事件の筋とは別に、このストーリーで清兵衛の人柄や与力としていかに優秀であったのかまでもが垣間見える作品だ。
2作目は善人そのものの武士が浪人となってしまい、生活に困窮している。その原因を聞いて心を痛めた清兵衛夫婦が活躍する。今は清兵衛も引退した身なのでお役目にもつかずに自由な日々を送っているから浪人とそう差はないのかもしれない。しかし、引退と若い働き盛りに浪人となるのはわけが違う。人の痛みを自分事として受け取れる清兵衛の生き方がタイトルにもある「流儀」なのだろう。
最後の一つは一番読み応えがあり、清濁併せ持つとはまさにこれ!な内容だった。貧するが故に心が頑なになってしまうことはよくあるが、武士が矜持として持つ忍耐も辛い生活の中でぷつんと何かが切れてしまえば、後は下る一方ということだろうか。読んでいると寂しい気持ちがふと訪れつつも、これはどう収めるべきかという疑問も残る。
本シリーズ、手持ち分は完読してしまったので、7巻目も近々購入したいところだ。