Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#581 人の心の温かさに癒される ~「武士の流儀 5」

『武士の流儀 5』稲葉稔 著

清兵衛、すっかり町の生活に馴染む。

 

この週末はずっとエリザベス女王崩御に関するニュースを見続けていた。一つの時代が終わってしまった感、手元にあるポンドはすべてエリザベス女王の姿がある。次に行く時にはチャールズ三世のお姿へと変わっているんだろうな。

 

BBCでは女王の功績をまとめた放送を続けて流している。その中で2020年コロナ禍での女王のメッセージを用い、We will meet again.のコメントの後にエディンバラ公とともに手を振りながら建物に入ろうと背を向ける姿で終わるものがあるのだけれど、これを見る度にうるっと来る。そしてニュースの合間にこの写真と共に女王の生涯を讃えている。なんと威厳のあるお姿だろう。

 

Queen Elizabeth II has died : We're in the same boat now.

 

心よりご冥福をお祈りするとともに、英国の皆様へ哀悼の意を表します。

それにしても、ハリー王子夫妻のなんとも言えない頼りなさを見ていると、この方々はすでに王室を支える立場としてそこに居るのではないのだな、というメッセージを出してしまっているように見える。こんな時こそ王室に生まれた使命を、偉大な家族を亡くしたことを自覚して欲しいと残念にな気持ちに。極東の庶民ですらそう思うんだから、英国の皆さんにしてみればもっと強い思いがあるんだろうなあ。

 

さて、この頃「テレビあんまり見ないんですよー」と答えることが何度かあった。大河ドラマを見ている人が多いようで、今のドラマの話題が何度か出てくる度に話についていけず申し訳なくなる。学校で習う内容もすでにうっすら。鎌倉のこととなると全くわからない。ドラマ的にも面白い作品とのことなのでいつか機会があれば見て見たい。ただ個人的には100%江戸贔屓を自負しているので、やっぱり侍だ!と本書を読んだ。

 

5巻目ともなると、もうすでに馴染み客のような気分で安心して作品を楽しめるのが良い。本書もいつもの通り、4つのストーリーが収められており、与力を引退した清兵衛が主人公だ。果たして今の軍や警察関連の人もそうなんだろうか。長年の勤務から身についた正義感が抜けず、困った人を見たらつい助けてしまうんだ!なんてことがあれば、世の中もっと平和になるよね。アメリカのニュースなど、元軍人の事件もたくさんあるし。

 

 我らが清兵衛は完全に「自分はお節介を焼いているのだ」と理解している。そしてかつての役職のような危険なものではなく、もっと身近な、町名主が登場するような厄介ごとに気が付いたらなぜか首を突っ込んでしまっている。今回はなんと、息子の初恋まで遠くから見守るというか、おぜん立てするというか、どうにか実りますように!と探ってみたりとあれこれ手を尽くす。そんなお父さん、しかも元与力の堅物だというのに、なんともチャーミングで面白かった。

 

4つ目の「板前」という作品はものすごく読み応えがあった。清兵衛は割と酒好きだ。でも深酒はやらない。ちょっと一杯と酔った店で出会った男が、誰とも親しくもせず、ただ一人でぶつぶつと独り言を言っている。一体何を?と近寄ってみると、世の中を非難するようなことをただつぶやいている。

 

「俺が何をしたってんだ」その男、梅三郎は正体を無くすまで酒を飲み、そして店を出た。清兵衛は気にはなれども自分の食事を楽しみ、そしてそろそろと腰を上げた。帰り道のこと、二人の男が倒れた男に暴力をふるっている。思わず止めに入った清兵衛に驚き、暴漢二人は逃げていく。残された男を見ると、なんと梅三郎だった。

 

もちろん清兵衛は梅三郎を助けた。家まで送るも酒で酩酊している状態だったので、改めて翌日に尋ねる。話を聞くと、梅三郎は有名料亭の板前だったと言う。そして襲われた理由もわからないという。ここから清兵衛のお節介が全開となり、梅三郎を自宅にまで迎え入れて助けの手を差し伸べる。

 

清兵衛は相手が武士であれ、町人であれ、貧富に関わらず親身に相手の心に寄り添っていく。なぜそのような状況にあるのか、どうすれば本人含めて廻りも幸せになれるのか、その解決法で長く長く幸せでいられるだろうか。表面の澱を取るのではなく、ずっとずっと良い状態が続くことを常に考えているからこそ、どんどん話が読みたくなる。そしてなぜか読み手の心もちょっぴり癒される。

 

エリザベス女王のニュースや、仕事のあれこれですっかり落ち込んだ気分でいたけれど、清兵衛の情の深さに元気を取り戻せた。