Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#583 秋の味覚の予習です~「御松茸騒動」

『御松茸騒動』朝井まかて 著

尾張藩の大殿の味。

 

秋がぐっと身近になってきた今日この頃。秋の味覚といえば、芋、栗、南瓜、柿、銀杏、そしてきのこ。これが私のお気に入りだが、人によってはいやいや秋刀魚だろ!とか、そんな甘いものばかりじゃ酒が吞めん!と仰るかもしれない。特に栗には思い入れがあり、栗が出てくると和菓子業界が一層華やかとなるのが良い。ショーケースが黄金となり目にも美味しい。

 

さて、本書は以前なにかのキャンペーン時に購入したものなのだが、購入したことを長く忘れていた。久々に料理エッセイ読みたいなーとKindle内を散策し発掘。料理からはかけ離れるが、著者の作品はいつもほっこりな気持ちになれるので早速読み始める。

 

時代小説に松茸?というより江戸時代に松茸がすでに貴重なものとして捉えられてきたということを知る。そもそも松が育つ国の中でも松茸を愛するのは日本くらいだと聞いたことがある。最近は輸入のものが多いが、産地は日本人が好きだからという理由で茸採りしてるそうだ。きっと高く売れるからということだろう。

 

舞台は尾張、今の名古屋である。主人公の榊原小四郎は尾張藩の江戸詰めとして用人手代の見習いに就いている。昔から賢かったことから、今の藩の面々の生ぬるさが気に入らない。計算もまともにできず、文字すら間違う上役藩士を見る度に「藩を蘇えさせてやる」と心に誓う日々だ。生真面目なことに、毎度上役の間違いに赤で付箋をいれている。

 

そんな小四郎は今、江戸で母と二人で暮らしている。実母は幼い頃に他界、後妻として実母の妹が嫁入りし継母となった。実父は数年前に他界し母子だけの生活のはずだが。父の友人が毎日のように詰めかけてくる。飲んで騒ぐだけで、小四郎は心底鬱陶しいと思っている。父の友はいつも3人でセットのように動き、みな名前に兵衛が付くことから三べえと呼ばれていた。

 

そんなある日、三べえが尾張へ戻る沙汰を受ける。これで解放されたと喜んだのもつかの間、小四郎も一緒に出掛けた先で三べえの一人が己の大小を無くしてしまった。刀は武士の命。もちろん藩からお裁きがあり、小四郎もなぜか同時に呼び出しを受けた。そして、なんと三べえと共に終わりに向かうようにとの沙汰が下る。さらには「御松茸同心」という得体のしれない職務となり、城下で3年暮らすこととなった。

 

話の中心は小四郎が尾張へ着いてからの奮闘記だ。調べてみると松茸は今でも人工に作ることができないようで、より一層その貴重さが伝わってくる。徳川の血筋である尾張藩は、この松茸を上納し時には政治のためにも使っていたようだ。ものすごい数の松茸を収穫しなくてはならないのだが、それが思うように進まない。自然のものなので豊作な年もあれば、全く採れない年もある。小四郎は何もわからないまま、松茸の味すら知らずに山へと向かい、ゼロから知識を蓄えていく。

 

尾張藩の大殿は城下の下々の心を捉えて離さず、蟄居を命じられた後でさえ、人々は大殿のことを忘れない。大殿時代の松茸の生産や、研究について知るにつれ、小四郎にも尾張藩士としても誇りが深く芽生えてくる、というお話だ。

 

ひとまず、本書では松茸の調理法が塩漬けと猪肉との鍋料理くらいなので、松茸が食べたくなってしまうような衝動は抑えられた。もし食べたくでたまらないなんてことになったら、散財を覚悟するところだった。とはいえ、松茸ってどこで買えるんだろう?買ってもどうやって食べるんだろう。網焼き?

 

秋は美味しいものが多いので、ずっと秋でいて欲しい。やっと涼しくなりつつあるし、このまま良き日が続くといいな。