Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#569 武士のおじいさんの過去 ~「武士の流儀 4」

『武士の流儀 4』稲葉稔 著

武士に二言はなし。

 

積読(つんどく)」という単語、実は明治時代からあるということを最近知った。てっきり平成時代に作られた語だと思っていたのだが、そんなに由緒あるものとは思いもよらなかった。その積読、我が家ではひっそりと隆起が続いており、今はひとかどの山となっている。最初は無印で購入したステンレスのバスケットの中で納まっていたものが、今や1メートルくらい、人の腰ほどの高さにまで成長した。今、バスケットは「積読山」の土台を固定する程度の役目となり、いつ崩れてもおかしくない不安定さ。

 

そもそも、Kindleが手軽すぎるのだ。この数百グラムの中に数千冊の書籍が入っている。必要とするのはバッテリーくらいで、読みたい時に読みたいものを瞬時に「さあ、どうぞ」と目の前に提示してくれる。一方の書籍、まず重い。文庫や新書ならそれほど負担はないが、それでもKindleより重いのではないだろうか。ビジネス書1冊持ち歩くとなると、折り畳み傘とか、ペットボトルとか、小さいながらも重さでじわじわと存在感をアピールするものが更に1つ増えるわけで、疲れてくるとその重さが肩に来る。

 

置く場所もKindleならいつでもダウンロードできるし、Kindle内にダウンロードした冊数によって本体の重さが変わるわけではない。ところが紙だと確実に保管場所が必要となる。

 

鞄の中に潜り込む回数の減った紙の書籍たちは、あと1冊でも置くとバランスが崩れてしまいそうな状態となり、これは早々に山を切り崩す必要が出て来た。人間にとっては窓から吹き込む涼しい夕風は自然の恵みそのものだが、積読山にとっては崩壊の原因になりつつある。ということで、この頃偏っていたKindle読書から積読山が半分の高さになるまで、Kindle→紙→Kindle→紙、と交互に読む習慣をつけることにした。移動の際にはKindle一択だが、紙の本を読もうという意識を常に持とうと思う。

 

さて、本書はそんな取り組み最初のKindle本。待ち時間の多いタイミングに読むことにした。4巻目ともなると、清兵衛がより一層身近に感じる。そしてこの4巻目、4つのストーリーが収められているが、どれも捨てがたい感動の作品になっている。

 

とくに2つ目の「うなぎ」は良かった。

よく聞く話だが、隠居すると日々の生活ががらりと変わる。「会社辞めたら旅行しよう」「趣味を楽しむぞ」なんて言っていたのに、定年退職で会社に行かない生活になった途端に閑を持て余してしまう人もいるという。ただ時間を持て余しているだけなら誰にも迷惑はかけないが、在職中に役職についていたり、大きな金額のお金を動かしていたり、企業の要となる秘密職に従事していたりと、なにかスペシャルな経歴をお持ちの方だと、いわゆる「老害」となり己の力を見せつけようとするからこまったものだ。

 

清兵衛は全くそんな気配もみせず、むしろ与力であったことを隠しているほどだ。幕臣に比べれば与力の身分は低くなるが、町人にとっては与力は身分の高いお方。それでも決して偉ぶるところのない人柄が清兵衛の最大の魅力である。毎日家の周りを散歩に行き、人と話ては問題を見つけ、人助けをする日々だ。

 

ある日、いつもの通りに川沿いをぶらぶら歩く清兵衛の前で、老侍が自身の使用人の頬を打った。なんでも使用人がお届けものを誤って落としてしまったからだという。老侍は激怒しつつ、一人でずんずんと行ってしまう。残された使用人に、清兵衛は思わず声をかけた。

 

使用人は主の殿様は大御番組の組頭を務めた人物だと清兵衛に語った。これは大変な地位だ。風烈廻りの与力など、現役であれば決して同じ場に立つことすらできなかっただろう。そしてあまりの気性に奉公人どころか家族までもが恐れをなしていると知る。今は家督を息子に譲り、築地界隈に引っ越したそうなのだが、あれこれ気に入らないことも多く、その鬱憤が全て家内の者に向けられていた。昔であれば何人ものお付の家来が共に行動していたはずだが、今はこの使用人がお供するのみだし、家の格も今は小規模となり「かつての私なら」とつい昔の栄華にすがってしまう。

 

清兵衛も同じ隠居、何か思うところがありこの殿様に近づいてみることにした。ちょっと不自然な始まりではあったが、二人はどんどんと心を近づけ、やがて酒を酌み交わす仲となる。清兵衛の前では心を開くことができる殿様。自身は変わる、と宣言した。

 

タイトルの「うなぎ」は、その殿様の大好物で、老齢にも関わらず一人で2杯も3杯もうな重を平らげてしまうほどのうなぎ好き。そこでの失敗が清兵衛と殿様を近づけ、殿様の心へぬくもりを通わせるきっかけとなる。

 

4巻目はすべて人情深い話ばかりで、やっぱり江戸はいいなあ!という清々しい気持ちにさせてくれる。手持ちは6巻までなので、ゆっくりと読んでいくことにしたい。