Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#568 あの”美味しいものしか売ってないショップ”にはこういう背景があったのですね~「裏を見て「おいしい」を買う習慣」

『裏を見て「おいしい」を買う習慣』岩城紀子 著

グラホの創設者が語る食。

 

ついに東京の日の出の時間が5時代になったようだ。夏の間、山で暮らしている間に身についた4時起きだが、太陽と共に活動することで一日を長く使うことができるだけではなく、朝の散歩→朝ごはんがおいしい(いつもは食べない)→気力が生まれる、と心身共に健康な生活となり、山生活の恩恵を享受していた。日の出と共に畑に出る山の生活も少しずつ落ち着くのだろうか。収穫も終わって一息ついているところかな?まだまだ暑い日は続くけれど、秋の、そして冬の準備を始める時期が迫ってきている。

 

山へ行く前のこと、2か月ほど家を空けることが予想されたので、冷蔵庫内の大半のものを処分した。戻って以降、我が家の冷蔵庫にあるのは山の近くの道の駅で購入したものが少し、あと調味料は塩と胡椒があるくらいだ。普段は手弁当生活なのだが、この暑さでお弁当が傷んでしまうことを危惧した結果、8月は家で料理することなく過ごしてしまい、調味料一式が無いままに数週間過ごしていることになる。

 

9月からはまた弁当生活を復活させたいし、そろそろ温かいものも食べたくなってきたので調味料を購入する気になった。家の近くにはオーガニックショップが数件、各地の郷土調味料や珍しい調味料なんかを扱うショップもある。せっかくだから美味しいもの、体に良いものを選びたい。そこで、ふと「そうだ、グラホに行こう」と思い立った。

 

グラホことグランドフードホールは東京だと六本木ヒルズの中にある。コロナもありでこの頃は近場で購入することが多かったのだが、オープンした頃に何度か足を運んだ。今では人気商品もいくつかあるようだが、私はお惣菜をメインに購入することが多かった。ちょうど少しでも料理の腕を磨きたい!と思っていた頃で、見ごたえ食べ応えのあるお惣菜を堪能してはアレンジ料理を考えたりするのがものすごく楽しかった。そんなグラホ、今は何が人気なのかな?と検索している時、創設者の方の書籍があることを知った。現在は2冊の書籍があり、こちらは1冊目にあたる。そして今回はKindle版ではなく、2冊を紙版で購入。紙版ならいつでもパラパラ楽に商品をチェックできるからね。

 

タイトルにもなっている「裏」というのは、食品のパッケージの裏に書かれている「食品表示」のことだ。これが外国だと栄養素まで書かれていることが多いが、日本の場合は名称、原材料名、賞味期限、保存方法などの注意事項が書かれている場合が多い。著者はこの「裏」が大切だと言っている。グラホには1種1品の原則があり、店内での商品の競合はさせない方針のようだ。著者が本当に気に入ったもののみを取扱っており、ピュアにおいしいものとは余計なものが入っていないスッキリとした味わいだ。だから、高い。食品を長持ちさせるような添加物、利益を出すために原材料を安く抑える場合もある。大量に、安価にと企業側の経営的な「うまみ」に集中した食品は消費者の手に届きやすくはなるが、せっかくの食材も体に優しくはないものへと変容してしまっている。著者はその現状を知っているからこそ、裏のラベルを見て、真に良いものかどうか見極めろ、と言う。

 

著者は祖父母と共に3世代同居の家庭だったそうだ。祖母がお料理上手で、祖父の仕事のお客様などを自らもてなしていたとあり、なんとなく関西の戦後を舞台とする食のドラマを思い出してしまった。著者の祖母は「いいもん食べると舌がきれいになる」という言い方をしているが、昔はそれぞれの家庭で食育を行っていた。著者のお宅ののみならず、それぞれの家庭の味を伝えるには、それを理解できる味覚を作り、健康に味わえる体をも作る。そんな古き良き日本の暮らしが遠くなってしまったことに危機感を感じた著者は、「本当に美味しいもの」のみを集めたグランドフードホールを作ってしまう。

 

本書はそのグラホを立ち上げるまでの話と、立ち上げてからの商品開発の話が中心となっている。やはりビジネスだから利益は出さなくてはいけないし、繁栄させなくてはならない。実際にグラホに行ってみるとわかるのだが、大きなくくりで言えば「スーパー」になるだろう。でも一般の高級スーパーとは一線を画する。とにかく、今のところは唯一無二の存在で、食のセレクトショップのような存在と言えるだろう。

 

グラホは迷い用がない。例えばパンケーキに合わせるメープルシロップが欲しいとする。成城石井や紀ノ国屋に行けば数種の中から選ぶことができる。しかしグラホには1種類しかない。買うものさえ決まって入れば、1点しか物がないからそれを買わざるを得ない。しかも味はグラホお墨付きとあれば、例えあまり口に合わないとしても、何等かの貴重なストーリーが商品の背景に潜んでいる。それを堪能しながら食べるだけでも、なんとなく深みが増すというものだ。

 

店内もちょっとわくわくする作りになっている。それほど広くはない店内、シックな感じにまとめられ、まるでヨーロッパの街角のグローサリーストアに来たかのような気分になる。食べ物だけが特別なのではなく、空間そのものが特別だから、いつものスーパーで「買い出し行ってきた。疲れた。」のような感想はまず出ないだろう。それどころか、スーパーとひとくくりにはせず、「グラホ行ってきた!今日はこんなの買ってみた!」といつもの行動が一段階上の体験をしたような気持ちになれる。

 

帯に「2020年5月21日カンブリア宮殿で大反響」とある。テレビにもお出になっていたのか、と本書を読んで知った。きっと番組を見た人ならもっと共感できるだろうし、一度でもグラホに行き、「このショップのコンセプトが気になる!」と感じた私のような人には謎解きとなる1冊。でもKindle版でもいいかな?開発裏話が知りたい人用。