Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#547 考える音が聞こえてきそうな緊迫感~「剣客定廻り 浅羽啓次郎 奉行の宝刀」

『剣客定廻り 浅羽啓次郎 奉行の宝刀』志木沢郁 著

仲間の裏切り?

 

久々に東京に戻った途端に雨。今週は日の差す地域にいたせいか恵の雨に感じられる。たまの雨だと涼しいなーと心地よさを楽しめるが、梅雨となるとやっぱり鬱々としてしまいそうだ。

 

さて、西から東への移動でも新幹線でパソコンを開くとやはり酔う。今回も早々に片付けて本を読んだ。本シリーズは現在Kindle Unlimitedも含め全3巻だ。本書は最終巻で2巻目まであまりに楽しく読んだ。続きがでればと期待しているところだが、現状ではその情報はないようだ。読み進めるにつれて「もうすぐ終わっちゃう!」と読むのがもったいないと感じるほどに良い作品。

 

 

啓次郎は上から特に取り立てられることはなくとも、周囲より「あいつはデキる」と認められているところがある。同心としてはまだ若い20代後半であることも非常に目立つが、啓次郎が賢いということが鼻につくという同僚もいるようだ。

 

ある日、友である吟味方同心の渡部八郎とともに八丁堀を歩いていた時のこと、ものものしい声が聞こえて来た。早速二人が駆け付けると、仲間の同心が若者に襲われそうな気配だ。仲間の同心とはいえ、すでに老齢で十手を持って対峙しているが勝ち目はなさそうだ。啓次郎と八郎はその若者を捕らえ近くの番屋に連れていくのだが、襲われていた同心の側になんとなく「おかしい」と感じられる雰囲気があった。

 

それは啓次郎だけではなく八郎ですら感じた違和感であったので、啓次郎は若者から話を聞いてみようと思い立つ。後に八丁堀の役宅を訪れた若者は「兄の敵。勤め先の後妻を殺した疑いをかけられた上に獄中で病死した兄は、決してそんな非道をするものではない。」と罪を擦り付けた同心を襲ったということだった。

 

啓次郎はこの件をどう扱うか考えたが、手放したくとも手放せないような内部の闇が見えてくる。元同心で今は半身不随となった義父にも、指導の役割にある梅田にも啓次郎は相談した。最初は疑い程度の気持ちだったが、時期に闇が露呈し始める。そのうちに啓次郎を潰そうという圧力がどこからかかかって来て、啓次郎の周りに嫌な雰囲気が流れ始めた。

 

ついには啓次郎に助けを求めた若者が殺されてしまう。しかもその調査にも加われない。敵はこれで啓次郎の内々の調べは終わるに違いないと考えたことだろう。しかしこれがむしろ殺された後妻の事件の謎へと導いていく。

 

とにかく最後まで啓次郎の頭がものすごいスピードでぐるぐると回っていく様子が感じられるほどに早いテンポで進んでいく。どう考えても隠し切れない事情に蓋をしようとする側と、蓋される前に暴こうとする側との知性の戦いだ。啓次郎が事件の芽をみつけた頃になると、そろそろ終わりが近いのかと読み終えるのが寂しくなるような心持になる。

 

やっぱり時代小説はいいですね。気分すっきり。