#516 今一番食べたい肉~「海がみえる家 逆風」
『海が見える家 逆風』はらだみずき 著
南房総に嵐が来る。
移動が多いと読書がはかどる。とはいえ、こんなに悠長に移動できるタイミングもそうないのでありがたく隙間時間を読書に割いている。
さて、シリーズもので手持ち最後の1冊となった。
3冊で終わりかと思っていたのだが、どうやら続編が出てきそうな感じだ。しかも、続きが気になるような事件で3巻目が幕を閉じており、ちょっとハラハラな気分が読了後も漂っている。
主人公の文哉は父が他界したことから南房総での生活を始めた。主な収入源は父が営んでいた別荘の管理業だが、食べ物を得るために海で魚を取ったり、野菜を育てて生計を立てている。父の友人から手ほどきを受け、いまやそれなりに生活ができるようになった。
3巻目、南房総を大型台風が襲う。そういえば数年前がまさにそうだった。房総半島のインフラが止まり、交通にも大きな影響があったにも関わらず、お隣の埼玉や東京、もっと言えば千葉の北東部はいつもの通りの日々で、房総半島が被害に見舞われていることはニュースの一つとして認識するに過ぎなかった。今、文哉はまるであの時のように台風通過による破壊力に打ちのめされていた。
管理している別荘も被害はまちまちだが、再建が必要な家も少なくなかった。家を修繕したくとも、直し手が足りない。せいぜいブルーシートをかけて雨をしのぐのが精いっぱいな中で、人の無能さが露見する。
文哉は自足時給のため、幸吉さんという村のおじいさんを先生とし菜園の作り方を学んでいた。どんどん極めた結果、最終的に米を作ろうということになる。水田ではなく、畑でできる米だ。幸吉さんは息子が村を出、妻も他界したことから今は文哉の住む里に降り暮らしているが、もともとは山でびわ農園を営んでいた。その地で早速野菜や米を育てる。
そろそろ収穫という矢先の台風に、文哉はいろいろな意味で自然の驚異や挫折感を味わうも、幸吉さんと心を通わせつつどうにか倒れた稲を収穫し脱穀した。
そしてびわ農園と言えば、今回台風後に新たな脅威が訪れる。それは、いのしし。猪突猛進のいのししは人を傷つけるらしい。それが台風で柵が壊れたびわ農園を荒らす。いのししを退治すべく文哉は動く。
さて、ここでいのししを別の角度から見てみよう。そう、それは食材としてのいのししだ。実は昨日の作品にもいのししが登場していた。
上の作品ではカマイ肉と言われている。頂きもののお肉をふるまうシーンがあり、みなその味に感動していた。
いのししの肉を初めて食べた文哉の感想があまりにも美味しそうで、ものすごく興味がわく。下処理さえしっかりしていれば、生臭さもなく、ものすごく淡泊でいくらでも食べれれるらしい。すき焼きに、ステーキに、文哉はあらゆる方法で食べている。
ジビエといえば野生動物を食するものと理解していたが、そこにいのししが入るという想像すら皆無だったので、ものすごくものすごく興味が湧いている。それにしても村の人々の生きるための食べるための知識の豊富さに驚くとともに、本来の地産地消とはこういうところからスタートしていたのではないかと思うに至った。
一度「食べたい」と思うと頭の中から離れない。調べてみると、やはり山に近いエリアにいのしし肉を提供する店があるようだ。ああ、今いる場所からはずいぶん離れているしなあ。年内にどうにか実現することを祈りつつ、常に機会をうかがっていたいと思う。