Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#494 親分、旅にでる!~「東雲の途」

『東雲の途』あさのあつこ 著

遠野屋の生まれ故郷は何処。

 

このところ楽しく読んでいる弥勒の月シリーズ。本書は第4弾目。

 


独特な鋭さと直感で事件を視る同心、木暮信次郎とその叡智に魅せられた伊佐治親分。今回は町人の恰好をした男が大川に打ち上げられ、その調査でとんでもない発見をしてしまう。腹を切りつけられた町人は、よく見ると町人の恰好をした武士であり、なんと自分の腸にに小さな包みを隠していた。人に知られてはならないものを、切り付けられた際、とっさに傷口から押し込んだのだろう。

 

その包みの中には青くきれいな石が入っていた。きっと瑠璃に違いない。しかし信次郎も親分も瑠璃など見たこともない。そこで遠野屋へ鑑定を依頼することにした。やはり遠野屋は事件に必ず絡んでくる。

 

遠野屋を訪れた二人だが、入れ違いで体の大きな武士とすれ違った。信次郎はすぐに以前遠野屋が突然姿を消した時のことを思い出し、その武士にさらわれたのではないかと検討をつけた。

 

信次郎の推測は当たっており、遠野屋の前にまた己の過去が立ちはだかる。しかし4巻で遠野屋は過去と決別すべく、江戸へ出てくる前の話を信次郎と親分に語る。そして瑠璃もまた、遠野屋の故郷とつながりがあることを告げ、一度国に帰ってみると思いを語った。

 

それを聞いた親分、咄嗟に「あっしもお供しやす」と同行を申し出る。親分は箱根より西には行ったことなど一度もなく、人生初の遠出の旅だ。一方の遠野屋も親分のまっすぐで嘘のない言葉をいつも頼りにしている。きっと親分がいるならば、また昔の道へ足を踏み入れることはないだろう。

 

そんな二人の事件の調査と旅物語なのだが、なんとも意外な結末で最後までハラハラし通しだった。信次郎が出てこないせいか、いつもの冷めた物言いもない。その分遠野屋の有能ぶりが際立っているので読みごたえがある。

 

遠野屋の生まれ故郷へは大阪から船で移動した。地名などいくつかでてきて実際にあるような気持ちになり調べてみたが、すべて架空の地名だった。思わず調べたくなるほどに目にありありと浮かぶような情景描写が素晴らしい。そして今回は終わり方もまた素晴らしくて感動ひとしおだった。

 

ああ、なんと楽しいシリーズだろう。早いうちに続きを読みます。