Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#495 見通す力が熱い!~「冬天の昴」

『冬天の昴』あさのあつこ 著

蜘蛛の巣のように絡まった事件を解く。

 

すっかり春めいた都内、日中はコートもいらない陽気だ。とはいえ、肌は痒いし鼻はムズムズ。

 

最近読んでいるこちら、あまりの面白さにすぐに続編を読み始めた。


前作で伊佐治親分は遠野屋とともに、清之介の生まれ故郷である西へと向かう。江戸時代、西へ向かうには森下町からであれば東海道を使う。品川を通り、川崎方面へ向かい、今の神奈川の方へ抜けていく。伊佐治たちも同じルートで西へ向かうが、同心信次郎の指示で1泊目に品川を選んだ。日本橋から品川までは10kmもないわけで、半日で到着する距離だから親分はまた「旦那は一体なにを」と思ったわけだが、信次郎は泊る先も指定してきた。それが旅籠「上総屋」で、女将のお仙はどうやら信次郎とも関係があるようだ。

 

本書はそのお仙の話からスタートする。もともとお仙は武家の娘であり、元は藤枝という名だった。嫁いだ高橋家は勝手方で、子に恵まれないまま10年を過ごしたある日、夫市之介が躯となり帰宅した。女郎と心中したと告げられた。その後、高橋家は取り潰しとなり、藤枝は夫が心中した先の女郎屋にて汚した座敷の肩代わりとして引き取られていく。

 

夫が心中したという女郎屋は「べにや」と言った。べにやの主が他界した時、藤枝は遺産を受けた。その金をもとに品川で「上総屋」を開き、名をお仙と改めた。そこで信次郎と出会ったわけだが、親分や遠野屋に迷惑千万といわれる信次郎がお仙には愛おしい人として映るようだ。

 

久々にお仙を訪ねた信次郎は、「江戸に来て手伝ってもらいたい」と奇妙な願いを告げる。実は信次郎の下の者がまるでお仙の夫の時と同じ様な様子で命を落としたという。しかも全く事件そのものとその部下の人柄がそぐわない。そこで信次郎は過去にもあった類似の事件を探ろうとしたわけだ。

 

遠野屋は今日も変わらず美味い茶を入れる。商いも順調で、多業種とともに始めた新しい試みもうまくいっている。前作で己の過去を信次郎と親分に語ってからと言うもの、3人の間はより強固な信頼感で結ばれ始めているようだ。

 

タイトルは今の春めいた季節にそぐわない真冬の事件だ。その研ぎ澄まされた季節にぴったりの鋭利な謎解き。ああ、もうこれだから時代小説は止められない止まらない!続きを読みたくてうずうず。