Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#487 日記のような昔の日々~「彼女の家計簿」

『彼女の家計簿』原田ひ香 著

昭和時代に綴られた家計簿。

 

以前によんだ著者の本はお金の使い方に関する小説だった。

 

こちらが大変ためになり、お金の使い方について考える良い機会を与えて頂いたことから、著者の別の作品も読んでみることにした。タイトルに「家計簿」とあったので、こちらも類似の内容を期待して購入。たしかこちらもセールの時に購入したように記憶している。

 

家計簿、私は今年から羽仁もと子さんのものを使っている。そのうち家計簿自体の評価もしてみたいと思っているが、2か月使ってみて実感することは、本当に必要なものだけで生活するためにいくら必要なのかが見えてきた、という点が大きい。上の本を読んだこともあるが、購入した物の価値がその金額以上の価値があるかどうかを意識するようになり、衝動買いは大きく減っている。去年まではセールだ、ポイント還元だと、その度に「これは後で使うから」と先々を見据えたつもりであれこれ購入していた。それが家計簿を替え、そのショッピングのやり方に大きなプラスがないことに気が付いてからは、ネットショッピングの量がぐっと減っている。

 

家計簿のお話ならぜひ読んでみたいと期待しつつ読み始める。本書に出てくる家計簿は、確かにお金の記録でもあるのだが「日記」の意味合いが強い。そしてこの家計簿を記録した人はすでに他界している。

 

主人公の里里はシングルマザーで、娘と二人で暮らしている。両親は離婚し、父はすでに他界。母とは疎遠が続いている。里里の母はぬくもりというものを持たないような人だった。父に対しても、里里に対しても、愛情表現することは無かったと言って等しい。それが母娘の間に距離を生む。

 

ある日、そんな母から便りが届く。中には古い家計簿が入っていた。母は自分には関係がないと言い、里里はその家計簿を受け取った。送り主はその家計簿を記録した人物から譲り受けた土地で、女性支援のNPOを運営しているとのこと。建物の老朽化に伴い、ビルを建てることになったこと。それにあたり、荷物の整理をしていた際にこの家計簿が出て来たこと。遺族の方の元に送りますとし、いくつかあった家計簿の一部を祖父宛に送ったようだ。祖父はすでに他界しており、そこには今、里里の母が一人で住んでいる。

 

書かれた時期は昭和10年あたりで、戦前から戦後に渡っている。時代が時代だけに、食料を調達することは難しく、配給だけではどうにもやっていけない頃だろう。そのせいか、記録の大半は日記のようなその日の記録がつづられていた。

 

本書は5代に渡った一族の女性が登場する。里里の曾祖母、祖母、母、そして娘。頑なな心を少しずつ解いていくようなストーリーは、タイトルの「家計簿」ではなく、家系譜のような面が強い。書いた人は里里の祖母に当たる人で、幼い母を通して家を出たと聞かされていたが、家計簿に残された言葉にはぬくもりがある。

 

女性が家計をやりくりするために作られたであろう家計簿には、生活の様子だけではなく、主婦の日々の心の声も綴られていた。その声が聞けなかった里里の母は、愛情を受けなかったことで心を閉じてしまっている。女系というのもおかしいが、里里の家族たちがどのように生きてきたのかを垣間見るだけではなく、問題点について過去を遡りその芽を摘む様子に、読み手も心を傾けずにはいられない。

 

大人になっても子供の頃にうけた傷というのはなかなか癒えない。年を重ねる毎にうまく対処する方法を身に付けたり、他人に同じ様な思いをさせてはなるまいという気遣いなどを学ぶだろう。ときぐすりが効くならば良い。喪失感や絶望感はなかなか埋まらないだろう。ただ、一つでもあかりが見えたら、人の心は大きく変わるに違いない。

 

そしてもう一つの読みどころ、NPOの存在も忘れてはならない。里里に手紙を送った人物もこの家計簿を通して自分の過去と向き合っている。ちょっと驚くような流れなのだが、ここにも考えさせられるものがあった。未婚の人や子供のいない夫婦に対する、子に恵まれた人たちの言葉が重い。

 

昨今のウクライナのこともあってか、戦争の表現が出てくると心がきゅっと緊張した。やはり戦争なんてあってはならない。