Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#467 ストレス対策:もう生暖かい目で見守る以外に方法が見当たらない~「下り酒一番 3」

『下り酒一番 3』千野隆司 著

あきれるほどにひどいオーナー一家のもとで働くということ。

 

あまりにも面白いので続けて3巻も読む。面白いというより読了後の爽快感が半端ないので、自分もパワーアップしてくるような気持ちになれるのが本書のすごい所だろう。

 

 

さて、3巻目でも卯吉は酒問屋武蔵屋で手代として日々商いに勤しんでいる。そして日々お丹とその息子1にいびられ続けている。2巻目で息子2が派手にやらかした後始末を卯吉と分家の手代の丑松、そして卯吉の叔父の茂助、友人の寅吉が暗に活躍し、どうにか収めた。

 

お丹と息子たちは武蔵屋の実のオーナーではあるが、店を切り盛りする才覚は全くない。見栄を飾ることと、何か問題事を押し付けて卯吉を追い出すことしか頭にないので、武蔵屋の懐は先細るばかりだ。そこへ卯吉が1巻目で縁を深くした廻船問屋より新しい六甲の酒を紹介され、ひとまず武蔵屋で扱うこととなった。もちろんお丹は商売を見越して許可を下ろしたわけではなく、失敗して卯吉が窮地に陥ることを期待し、すべての責任を卯吉に押し付けた。ところがこの酒「稲飛」は清々とすっきりした味が特徴で、美酒家の間で話題となる。導入に苦戦した卯吉だったが、軌道に乗った途端、息子1がしゃしゃり出てきて「今後稲飛は俺が担当する!」と安定の”部下の手柄は自分のもの”とばかりに卯吉の手から稲飛を取り上げていく。卯吉には、息子1が見栄の一本やりで仕入れてきた味が悪くて在庫が減らない別の酒が残された。

 

3巻目はその「稲飛」が主役となっている。お丹の実家は武家で、今は弟が家督を継いでいる。このほど弟の上役一家に婚礼があり、祝いの御酒を公方様へお贈りするという話が出た。姉の嫁ぎ先が酒問屋であることから、武蔵屋へ酒の選定の依頼が来る。最終的にどの御酒にするかは上役らが決めることになるが、3種ほどの候補から選定とのこと。俄然やる気のお丹は在庫の中から最も豊富にあった「福泉」を選ぶ。

 

この酒を担当していた桑造という手代は、オーナー一家の卯吉を追い出したいという気持ちに呼応して卯吉に対しての態度がもともと悪かった。恐らく卯吉の商才に気付いており、嫉妬などもあったのかもしれない。そこへ自分が担当の酒が選ばれたわけだから鼻が高い。稲飛は息子1が取り扱うようになり、雑な売り方をしているせいか在庫薄の状態になっていたし、卯吉の手柄になるなんてオーナー一家は受け入れられるはずがない。よって候補から外れたことでむしろ卯吉はほっとする。

 

他の酒を扱うようになれども、やはり自分で育てた稲飛のことは気にかかる。今年最後の100樽が六甲から到着するという予定があるが、またもや船のトラブルが発生。すべてのことが卯吉のせいとなる。相変わらず在庫薄の状態が続くも、お丹は公方様への候補に他の酒問屋が2種提供すると聞いて、「ではうちも」と見栄を張り、期日までに希望の数量すら準備できそうにない稲飛を候補に入れた。もちろんさらに卯吉を困らせることが目的ではあるが、やはり稲飛の味の良さは推すに値する商品だからだ。

 

3巻目では武蔵屋の最悪さに磨きがかかる出来事がいくつも起こるのだが、それがまたどの会社にも寄生していそうな無能上司そのものすぎて、より一層卯吉への同情が膨らみ、感情移入してしまう。更には息子1の妻で若女将の小菊の存在があまりにも軽んじられていることで武蔵屋への嫌悪感がより一層募る。この息子1のような人物に日々接しているので小菊が不憫でならない。

 

この頃会社のストレスを吐き出す先を見失っていたのだが、卯吉の姿に「私だけではない」と仲間意識を感じ始めている。卯吉が一つ一つ問題を解決することで「私もがんばろう」と思う。疑似体験にすぎないのかもしれないが、悪(武蔵屋オーナーたち)の思うようにことが進まない様にも快哉を叫ぶ気持ちになるが、それよりも卯吉のがんばる姿に支えられている今日この頃。