Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#395 魚三昧~「エミリの小さな包丁」

『エミリの小さな包丁』森沢明夫 著

都会から逃げ、海が見える町に住む祖父の元へ。

 

そういえばしばらく包丁研いでないな、と思いつつアマゾンを徘徊していた時にたまたま見つけた一冊。

 

表紙のイラストから、主人公は子供なんだろうなと勝手に思っていた。実際右側に立っている大人の肩くらいの身長で、冷蔵庫と比べてみてもそう背が高いとは思えない。「小さな包丁」というのも子供用の包丁を使って料理を教える内容なのでは?と思わせる要素になっていたかもしれない。

 

が、内容は全く異なるものだった。主人公のエミリはレストランを運営する企業で働いていた。ところが、もうそこには居られないほど心が折れてしまう。普通なら実家に帰るかもしれない。ところがエミリの両親は幼い頃に離婚しており、父はもう別の家庭を持ち幸せに暮らしているというし、母親は何人目かの若い彼氏と同棲していてエミリの入る余地がない。更にエミリはそんな母親を心良くは思っていなかった。兄は高校卒業と同時にアメリカへ移住しており、エミリは独りぼっちだった。兄へ相談すると「祖父のもとへ行け」とアドバイスされる。

 

祖父は海の見える町に住んでいた。対岸に横浜や三浦半島が見えるというから房総半島のどこかだろう。小さな漁港があり、祖父は毎日海で釣りをしてはその日のおかずを手に入れていた。

 

15年ぶりとは言え、エミリを歓迎してくれる祖父。口数少なく、ただエミリのそばにいて、一緒に美味しいものを作り、一緒に食べる。祖父の料理は絶品で、一食ごとにエミリは元気を取り戻していくというストーリー。

 

祖父は読書好きらしく、エミリに朴訥と「生きること」について言葉を残す。たった一言がかなり効く。辛い過去を忘れる方法、一人で耐える方法など、祖父の優しさがじんわりと心に広がる内容だ。

 

なかなか海辺の町とは言え、毎日新鮮な魚を丁寧におろし、季節にあった料理をするなんて簡単ではないと思う。包丁を研ぎ、毎日お魚を下ろしていくうちに、いつしか包丁は小さくなっていた。

 

都会暮らしの人が憧れるような、昭和の雰囲気を色濃く残す静かな空間。テレビもなく、風鈴が揺れて涼し気な音を届け、早寝早起きで地産地消を心がけ、清潔な住空間を保つ。きっと女性の作者だと思っていたのだけれど、検索したらオシャレな男性作家さんで驚いた。

 

個人的には、この本の参考文献が8冊ほど挙げられているのだけれど、それにむしろ食いついてしまった感じ。ほとんどが古い本で今は販売されていないものが多いけれど、この本は是非購入したいと思った。