Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#751 今年読んだ中で一番感動した作品(マンガ)~『用九商店1~5』

『用九商店1~5』ルアン・グアンミン 著

今年読んだ本No.1です。

 

雨の朝です。今、ものすごく時間に追われる日々にあり、逃げ場は「これが終わったら旅がしたい」と妄想することで、行き先は海外なら台湾一択だ。気分転換にと台湾の旅行の本を探していたところ本書に出会い、今年一番「読んでよかった本」に上げたい作品である。

 

本作は原語では「用九柑仔店」でドラマ化もされているそうだ。著者のお名前は漢字だと阮光民さんと書く。画力も素晴らしいが、ストーリーの構成が感動的で登場人物の一人一人が生き生きとしている。台湾好きの方には知ってて当然!くらいの作品で「え、今?遅いわー」かもしれないが、台湾好きではなくともこのストーリーには人生を考えさせられるものがあるので一読の価値は大いにある。

 

主人公の楊俊龍(ヤン・ジュンロン)は祖父が倒れたとの知らせを受け、久々に故郷へ戻った。台北の建設会社で開発部門で働くが、心は満たされずにいた。そんな折の故郷行きで、俊龍の心は変わっていく。祖父は万屋「用九商店」をたった一人で切り盛りしていた。まるで昭和の商店のような佇まいで、日常の食品から雑貨までなんでも売っている。俊龍は祖父を自分が暮らす台北の病院に転院させ、用九商店も売却しようと考えての故郷入りだったのだが、かつての知り合いに出会い用九商店がこの地域の大切な存在であることを知り、継ぐことを決める。

 

時代設定はそう古くはないはずだ。しかしゆったりとした時の流れが「良き古き地代」を思わせる。地域の交流があり、変わらぬ日常の感覚がなんとも温かい。私は台北にしか行ったことがないが、コンビニも大型スーパーもデパートも、日本と変わない光景だった。AIの登場で人と人のコミュニケーションも今後減る一方であることを予想させるが、この町は逆である。人と触れ合うために万屋がある。互いを想い、助け、共に笑い、共に泣く。かつての日本もきっとそうであったと思うのだが、暮らしにおいての人とのふれあいはもっとディープで、そこに自分たちの居場所があったはず。そのせいか本書も読めば読むほど郷愁感が押し押せてくる。

 

著者の祖父が万屋を営んでいたそうだ。巻末にそのことが少しだけ書かれている。場所は雲林県斗六市嘉東里。早速調べてみるとこんなページが出て来た。左側にある街の写真には廟がある。本書でも廟の話があるので「懐かしい!」と既視感。そして斗六市は台中より南で、赤い線を引いた部分だ。

 

用九商店は台北より南に3時間のところとあったが、まさに著者の祖父の居た場所がモデルになっているのだろう。

 

店を継いだ俊龍の生活は大きく変わる。小さな小さな町を支えるため、用九商店は毎日店を開けている。そして少しずつ「今」を取り入れ、どうにか素晴らしい伝統を残していこうと活躍する。

 

俊龍がかつてこの街に住んでいた頃、俊龍の両親は台北で働いていたようだ。祖父母と暮らし、街の子供たちの中には親友もいた。その頃を思い出すと心の棘がうずく。俊龍には阿忠という親友がいた。二人でバイクに乗っていた時のことである。トラックが二人を襲い、阿忠は片足を失った。俊龍も軽傷を負ったが、バイクを運転していた俊龍は親友を怪我させてしまったことを悔いていた。その苦しみに耐えられなくなり、両親のいる台北へと赴いた。

 

数年ぶりの帰郷にも関わらず俊龍は依然と変わらず街の一員となる。かつても友もみな、俊龍の周りに戻ってきた。祖父も退院し、用九商店を新たに作り上げるには「人」のぬくもりが最も大切な糧となっている。

 

とにかく温かい。がんばる力をくれる作品です。現在は5巻まで出ており、Kindle Unlimitedで読むことができる。本当は1冊だけチラ見くらいの気分でダウンロードしたのだが、1巻読んだだけで映画1本見たような充実感に襲われた。結局5冊全部を読み終え、この感動とリスペクトをどうにかしたい!という気持ちで備忘録として書いているところ。いつでも読みたいのでKindle版を購入しなおし、ドラマ版があるならばそれも見てみたいし、台湾語の原語の作品も欲しくなってきた。

 

俄然一人台湾ブームを繰り広げているのだが、言葉も勉強してみたいし、文化も学びたいしと台湾のことを考えるだけでこころがほんのり温かくなっている。ああ、台湾!