Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#510 ゴールデンウィークのことしか考えられません!~「海が見える家」

『海が見える家』はらだみずき著

長く疎遠であった父が暮らした街のこと。

 

4月になり街にはフレッシャーズが溢れているというのに、私はといえば月末のゴールデンウィークが待ち遠しくて仕方がない。会社に行きたくないのです(涙)毎朝起きることすら辛い今日この頃。リフレッシュが必要だと心身共にひしひしと実感している。

 

今年はやっと例年の賑わいが戻ってきそうだが、この頃また感染者数も増加しているというし、今年も帰省は無理なのかな。そんな気持ちが溢れすぎ、タイトルと表紙から本書を読み始めることにした。海が見える家、GWの間だけでも住みたい気分だ。

 

さて、本書の海の見える家は南房総にある。そして家の持ち主は二人の子供の父親だが、成人した子供たちは父親とは疎遠になりつつあり、とりあえず千葉に引っ越したということだけを知っているに過ぎなかった。そして、その息子文哉が本書の主人公である。

 

文哉は4月に勤め始めた会社をGWが明けてすぐに退社した。しかもメール1本であっさりと辞めた。もうこのあたりだけでちょっと羨ましく思いつつも、今後どうする?と疑問が浮かんで来る。文哉の勤めた会社はいわゆるブラック企業で、辞めたことに対する後悔は全くない。だが、今後への不安は募るばかりだ。そんな時、携帯が鳴った。知らない番号からで、知らない声。それは父が病院に運ばれ、息を引き取ったという連絡だった。

 

長く連絡を取っていなかった父は、想像していたのとは全く異なる姿となっていた。簡易的な葬儀を済ませ、文哉は姉とともに父の住んでいた家を片付ける。

 

それにしてもこの姉がなんとも心がないというか、自分都合で金銭的な損得を重視しており、読んでいて苦い気持ちになる。よく言えばクールで現実主義なのかもしれないが、私には受け入れられないものが多く、お友達にはなれないタイプの女性のようだ。

 

職のない文哉は父の住んでいた家や、周囲の人々から聞く千葉に移ってからの父の生活を聞き、どんどんと父の考えやここでの生き方に思いを寄せていくという話。なんとなく以前に読んだこの小説を思わせる。

 


この小説の主人公エミリも都会での生活が辛くなり、海辺の街に暮らす祖父のもとへ行く。そして海の街といえば、やっぱり魚だ。本書でもおいしそうな話が続くので急にお腹がすいてくる。

 

海に行くことすらめったになかった文哉は釣りだってそれほど経験がない。ところが父の家の中にあった釣竿を持ち出し、家の前の港で釣りをしてみる。それがこの町で生活していくことへの楽しみというか、生きる喜びのようなものに気付くきっかけとなったようだ。

 

たしかに大きく環境が変われば、力が湧いて前向きな考えも浮かぶのかもしれない。文哉の場合はとんとん拍子に周りから救いの手が差し伸べられるので、すんなり街の生活を放棄できる状態にあった。いくら魚を釣れば食費はただとは言え、他にも生活必需品は取りそろえなくてはならない。文哉は父の仕事を引き受け、少しずつ生活を整え始める。

 

大学を出たばかりで社会に出ると確かに戸惑いはあると思う。こんなはずじゃなかったってこともあるし、理不尽に思えることがあるかもしれない。会社で働くとなると「は?」ってことが本当に毎日起こる。そして学生時代であればわけのわからん人は避ければよかったけれど、会社の上司がそのタイプとなると毎日顔を突き合わせることとなる。嫌な人と一緒にいることほど辛い事はないだろう。

 

「会社とはこういうものなのだ」と諦めとともに達観し、我慢しすぎて心の病気になってしまうのであれば文哉のように外に出るのが得策だと思う。会社なんて一人抜けたってちゃんと歯車を回せるようにできている。もし、一人で心を支えきれなくなったなら、この本を読むと良いかもしれない。