Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#373 料理人の力強さとは!~「世界出張料理人」

『世界出張料理人』狐野扶実子 著

パリで独立、訪問先での料理。

 

9月も下旬になり秋らしい天気になってきた。秋はとくに好みのスイーツの多い時期で、栗やカボチャのデザートが楽しみでもある。とくに10月に入ればハロウィーン用のものも増え、大好物のパンプキンタルトの登場を待ちわびている次第。

 

さて、長く気になっていた一冊をセールの時に購入した。著者についての前知識も無く、そもそも狐野さんというお名前の読み方すら知らずにいた。(この、とお読みになるのだそうです。)惹かれたのは「世界」と「料理人」というタイトルにあるキーワードで、世界を舞台に活躍しておられるなんて、一体どんなお料理をなさる方なんだろうとKindle版を一気に読んだ。

 

読み始めて気付いたことはタイトルにあった「出張」の存在で、自分のレストランを持たずに依頼者の指定した場所で料理をするというスタイルに「志麻さんみたい」と思った人も多いはず。そもそもどちらが先かはわからないけれど、フレンチを学び、訪問先にて料理を作ると言うスタイルはお二人ともに共通していると思う。現場での経験もあり、見慣れぬキッチンで効率を考えつつ、料理を作る。強いて言えば、志麻さんの場合は行き当たりばったり感が強く、「作り置き」でも味が落ちないものを作られるのに対し、狐野さんは「できたて」を美味しく食べてもらうライブ感がある所に大きな違いがあるだろう。

 

狐野さんはご主人の転勤がきっかけでフランスに渡り、そこで料理を学び始めたという。その後パリのレストランで働き、腕に磨きをかけていった。ご主人は転勤の多いお仕事のようで、パリに拠点を置く狐野さんは日本とフランスを何度も行き来していたことと思われる。

 

さて、私が読みたかったのは「どんなお料理をつくるのか」にあったのだが、本書では本当にさらっとしか書かれていない。どんな食材を使ったのかは書かれていても出来上がりの説明がさらっとしか書かれていないので、「ああ、焼いたのか」とか「なるほど、ソースはこんなのね」くらいしかわからない。コース料理をどんな料理で飾ったのかもわからない。せめて写真があればとは思うのだけれど、プライベートなお食事で提供されたものであることと、パリ時代のデータを紛失されたとのことで絵や写真の掲載は一枚もない。

 

きっと海外を舞台に料理の世界で活躍したいと言う人ならば、そのタイトルに「これだ!」と先人の偉業に教えを乞う気持ちになると思う。そしてその業界にいる人ならば、本書から大きなヒントを得られるに違いない。ただ、私のような一般人にはパリで食材を購入する苦労や、ゲストの宗教や食生活の決まり事に対応する難しさや、クライアントの希望した突飛なリクエストなどは矛先がずれていて、ただただ「すごいなあ」という気持ちになるばかり。

 

気持ちを改め、これをビジネス書として読むのであればまた違った見方が出来ると思う。どのようにビジネスのキッカケをつかんだのか、PDCAサイクルに落とし込んだ対応や、コースのどこに重点を置くのかといったことではヒントが多い。ただし、フランスでの起業の仕方など、一番欲しい!と思うところについてはタッチされていないのが残念。

 

VIPと呼ばれる方々へ料理をふるまうことは、とても光栄でかつ緊張の伴う仕事だと思う。食べた人はその料理とともにその日一日を記憶するだろうし、ホストがその食事で思う結果を得られなければ「料理のせいだ」と責任転嫁もされただろう。それでも真摯に「晩餐」に対峙してきた著者にとっては、一つ一つを鮮明に覚えておられ、伝えたいこと、是非知って欲しい事、失敗したこと、成功したこと、頭の中にいっぱいつまっておられるに違いない。とにかく本当にすごいことばかりが並んでいる。絶対に真似できないし、並々ならぬオリジナリティに溢れた料理人人生なのに、もっと他の魅せ方があったのでは?と思われてならない。もし続編が出るのであれば、そのあたりを上手くガイドしてくれる編集者さんの力で著者の貴重な体験を一般の人にも伝わるように華やかに演出して欲しいと思う。

 

とにかく、すごい人なのにこの内容ではすごさが伝わりきらないのが残念すぎ!!!もっともっと、狐野さんのお料理について知りたくなる一冊。