#332 「館」のほうがミステリー感増しそうですよね
『邪悪の家』アガサ・クリスティー 著
スタート前は賛否両論だったオリンピックも日本のメダル数が増えるにつれてお祭りモードになったような気がする。都内はさーっと雨が降ったけれど今週は30度超えの暑い日が続き、選手の皆さんもコンディションの維持が大変だったことだろう。
そんな最中、相変わらずクリスティの夏を満喫している。今回は第6弾で語り手としてヘイスティングズ大尉が戻ってきた。南米の牧場や妻はいったいどうしているのだろう。ポアロがヘイスティングズに妻がいるというコメントが一瞬出てきてたので結婚生活はまだ続行していることと信じたい。
6弾目の基本情報はこんな感じ。
Title: Peril at End House
Published: February 1932
Translator: 真崎義博
翻訳者の真崎さんはWikipediaのページもある方で翻訳学校でも教鞭をとっておられる方とのこと。1947年生まれで明治大学文学部英文学科卒だそうだ。今回はとてもとても読みやすかったのだけれど、今まで読んできた6作品をそれぞれ別の方が訳しておられるせいか、ポアロの人物像がものすごくふわっとした感があると思うのは私だけだろうか。
この6弾目で言えば、おそらく50代以上のポアロと30代のヘイスティングズとの会話部分、ポアロの口調が妙に若い。むしろヘイスティングズのほうがおっさんくさいところもあり、二人が親友としてとても近い関係であることを会話の中から滲み出させようとしているのはわかるのだけれど、ポアロはヘイスティングズにとって20歳以上歳の離れた外国人だ。友人関係が築けないわけではないけれど、そんなポアロの設定であれば言葉にもっと特徴があっても良い気がする。まあ、文中フリガナとしてフランス語を入れているけれど、例えばそれが近隣諸国の人が日本語を話しているという設定ならば語尾に「アル」とか「ニダ」を入れているマンガがある。それは極端だとしてもフランス語話者の話す英語の特徴を会話文に入れるのはきっとプロの翻訳家でも大変難しいことに違いない。
ストーリーはタイトルにあるようにエンドハウスで起こる危険な出来事をポアロとヘイスティングズが解いていく。和訳はPerilを邪悪、End Houseを家とシンプルに訳しているのだけれど、館のほうがミステリーっぽい気がする。舞台はコーンウォールの海沿いにある町で、二人は今回バカンスで滞在している。ホテルでお茶をしていたら庭に若い女性が現れ、ホテルから見える岬に立つエンドハウスに住んでいるという。祖父が持っていた建物でそれを継いだとのこと。
その女性の友人もホテルに来ていたようで、友人に合流しようと席を立った時に帽子を忘れていった。よく見ると帽子には穴が開いており、そばに弾丸が落ちていた。どうやら彼女は狙われているらしいということに気づくポアロ。彼女の安全を求める二人が逆に事件に巻き込まれてしまう。
前々回はプライベートが大変なことになっていたクリスティだけれど、前作、そして前作以上に本作へとどんどん巧妙になっていて読む楽しみも増したように思う。かならず最後で「!」と思う点が出てくるのでこの後も楽しみ。
評価:☆☆☆☆
おもしろさ:☆☆☆☆
読みやすさ:☆☆☆