Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#325 クリスティ文庫2弾目 Linksは海沿いのゴルフ場のことを言うんですね

 『ゴルフ場殺人事件』アガサ・クリスティー

ポアロシリーズ第2弾。

 

明日から連休かと思うと気持ち的にはワクワクなのだけれど、まったくもってオリンピック感がないのはなぜだろう。街中を歩いていても祭りモードもなく、ひっそりといつも通りの暑さに包まれているだけの夏に見える。7月の連休の後はお盆までまた普通の日々を送るわけだけれど、今年はその間にオリンピックがある!とはあまり思えないのはなぜだろう。

 

とりあえず、夏を満喫するためにも「夏読書」のテーマを決めておいてよかったなと思う。この夏は大人買いしたハヤカワ文庫のアガサ・クリスティーシリーズを出版順に読むことにした。本書は2作目にあたる。

 

本作の基本情報はこちら。 

Title: The Marder on the Links

Publication date: March 1923

Translater: 田村義進

 

和訳のタイトルは「ゴルフ場」だけれど、英語でLinksという表現があることを知った。じゃらんゴルフによると、 

リンクスとは、海沿いに存在し、自然の地形を利用した平らで砂地の多いゴルフ場のことを指します。ゴルフ発祥の地と言われるスコットランドでは、ゴルフコースのことをリンクスと呼びます。リンクスと認定されるには、小さく深いバンカーを数多く設置するなど、いくつかの定義を満たしている必要があり、海沿いの地形を利用したコースというだけでは不充分となります。

 

なるほど!2弾目の舞台はイギリスではなくフランスで、ポアロヘイスティングスは依頼を受けたフランスの別荘地Merlinvilleを訪れる。富豪からの手紙で助けを求めるものだったのだが、二人が訪れた日に送り主の死を知るところから始まる。この地名、検索してみても架空のもののようで、飛行機メインではない当時で言えばイギリスのドーバーからフランスのカレー間を船で移動するのが主流で、このMerlinvilleはカレーから車で1時間半くらいらしいので海沿いっぽいと言えばそうとも言える。

ポアロはベルギー人なのでフランスでも知名度も高くパリ警察でも知られた人のようだ。現地の警察ではポアロが事件解決の一助となることに喜ぶ者もいれば、すでに引退した古いタイプの調査だと目の敵にする者もいた。しかしポアロは自分のペースで絡まりを解いていく。

 

それにしても今回は1弾目に比べて翻訳の違和感をずいぶん感じる読書となった。まず、ポアロヘイスティングスが年の差を超えた友人であるという設定はわかる。ポアロが今やイギリスに拠点を移しているので二人の仲もより近いものとなっているだろうということも想像がつく。が、アガサが作品中の登場人物の年齢を詳しく書いてはいないとは言え、1弾目でのヘイスティングスは30歳、ポアロは引退したばかりというから少なくとも50歳以上60歳未満であろう。とすれば、親子くらいの年の差がある。

 

なぜ年齢が気になったのかと言うと、たとえ二人が一緒に暮らす友人関係で、ポアロが外国人で英語を母国語としないベルギー人であり、英語は日本語よりも敬語のバリエーションが少ないという事情があるとは言え、二人の会話に差異が無さすぎるように思えた。つまりどちらが話しているのかわかりにくいほどに口調が一緒。ため口なのは良い。でも、たとえ家族の会話の場面でも、小説の中では口調の違いにキャラクターの個性があり、家族4人で会話していても口調で話者がだれでどんな気持ちかがすぐにわかる。でも本作ではそんな個性が表にあまり出ず、ただぞんざいに会話している感がある。なんだろう、互いにあんまり関心がなく友達未満風なのだ。そして、フランスの警官が登場し、話者が増えることでやっと誰が話しているのかわかるという状態だったので、何度か戻って読み直した。1弾目にあったポアロは紳士でヘイスティングスが大尉であるという設定は?

 

次に、やたらと「ムッシュー」が出てくる。例えば、殺人が起きたお屋敷の人への尋問の間、「はい、そうです、ムッシュー」「私は家政婦です、ムッシュー」のように、英語の場合はそれが敬語になる場合もあって、軍隊では SirやMadameと語尾に着けるような感じだと思うのだけれど、話す度に「ムッシュー」が登場してきて正直うざい。それ、全部まるまる訳す必要があったのかなとどうしても思えてしまった。「 」内の会話の中に必ず登場するので非常に読みにくいし、おそらく語順の通りに訳していると思うのだけれど日本語感覚だと非日常的では?と感じるところもあった。翻訳家の田村さんはとても多くの推理小説の翻訳作品があるので私の読書力の弱さのせいかもしれないしそういう設定なのかもと思ったけれど、英国のシーン、フランスのシーンでも場所が違う感がわかりにくく、「もっとこうだったらな」と思ってしまうところがいくつかあった。とはいえ、ずいぶん前の翻訳なので昭和はこういうスタイルの翻訳がメインだったのかな、とも思えた。

 

ストーリーとしては1弾目に加えて少しダイナミックな感じがある。エセックスの田舎の時間より英仏を行き来するという場所の移動も多いし、登場人物も一風変わった影のある人々が多い。ヘイスティングスは相変わらず美人に弱く、もしかするととんでもなく女運が良い人なのかな?という気もしてきたり。彼に女性を女神だの天使だの言わせることで007のヒロインがみんなできる美人であるという前提みたいなものをにおわせているのかもしれない。と、思ってみることにした。

 

クリスティーの研究家であれば、2弾目から幅が広がったというかもしれない。2弾目を読むと1弾目は滋味な良さに感じられたかも。

 

評価:☆☆☆

おもしろさ:☆☆☆

読みやすさ:☆