Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#317 会いたい人に会えない気持ち、時が薬となっているのかな

 『かわたれどき』畠中恵 著

麻之助、亡き妻への想いは。

 

 『てんげんつう』を読んだら、もう少し畠中ワールドに浸りたくなった。

 


現在読んでいる長編は「しゃばけシリーズ」と「まんまことシリーズ」の2つで、本書は「まんまことシリーズ」の第7弾となる。いつもは文庫本となりお買い得価格となった折に購入しているのだけれど、今回はポイントもあったのでお値打ち価格になる前に購入。

 

主人公の麻之助は神田で町名主をする家の跡取りで、数年前に妻と子を失くしてしまった。お産の前から妻の体調はすぐれず、残念ながら母子ともにこの世を去った。妻への想いに苦しむ麻之助。しかしそこは友人の清十郎と吉五郎や町の人々、なにより飼い猫のふにに支えられ、今やっと町名主跡取としてお気楽な日々を取り戻しつつある。

 

友人吉五郎は八丁堀勤めの相馬家に養子にいっている。将来的には相馬家の一人娘の一葉を娶ることになっていたが、歳も離れまだまだ若い二人のことを思い一旦婿入りは白紙となったが、吉五郎が相馬家を継ぐことは変わらない。

 

友人清十郎はすでに子宝にも恵まれ、賢い妻に支えられている。かつてはその美男っぷりに町の娘たちからきゃーきゃー言われていた清十郎も今やしっかり落ち着いた。子煩悩なパパなのは今のところ清十郎のみ。

 

このシリーズは「しゃばけ」のように妖が出てくることもなく、場所も神田と町人の世界もかなり異なる。「江戸っていいなあ」な思いが強くなるシリーズで、きっとその当時も意地の悪い人もいれば、嘘をつく人、なまけてばかりの人、自分を尊大に見せようとする人などなど、令和の世の中と変わらない面倒さはあると思う。でも、小説の中に現れる江戸は義理人情に溢れ、どこか温かい人とのふれあいがある。「そうそう、これが日本だよ!」と思える美徳が見える。だからつい、読みたくなってしまうのかも。

 

著者の書籍のタイトルはいつもどういう意味なのかな?と調べたくなるようなものが多い。今回の「かわたれどき」とは、「彼は誰時」と書くらしい。コトバンクによると、

 

「彼(か)は誰(たれ)時」の。あれはだれだとはっきり見分けられない頃》はっきりものの見分けのつかない、薄暗い時刻夕方を「たそがれどき」というのに対して、多くは明け方をいう。

 

とのこと。

 

麻之助の妻への想いに触れるたびに、以前「人生で辛いのは、会いたい時に会いたい人に会えないことと、会いたくない人に会わなくてはならないこと」と誰かに言われたことを思い出す。そんな想いを持つ人におすすめのシリーズ。