Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#177 いつか解決すると信じて

『ときぐすり』畠中恵 著

「まんまこと」シリーズの4冊目。麻之助の心の傷も少しは癒えただろうか。 

ときぐすり (文春文庫) まんまことシリーズ 4

ときぐすり (文春文庫) まんまことシリーズ 4

  • 作者:畠中 恵
  • 発売日: 2015/07/10
  • メディア: 文庫
 

 

どんどんとコロナ感染者数が増加していることもあり、今年は年末の挨拶回りなどがぐんと減っている。毎年師走もそろそろ終わりが見える頃になるとオフィスの片隅に山のようにカレンダーが積まれ「ご自由にどうぞ」と好きなデザインのものをデスクで使うようにもらったりしていたのだけれど今年は例年の半分以下の量だった。郵送にしてもどこかに感染の可能性が潜んでいるかもと遠慮気味になる。

 

ひとまず新しいカレンダーをデスクに置き、次に手帳をどうしようかと考えた。仕事のものは支給されるものを使っているけれど、プライベートをどうしようか。今までずっと紙の手帳を毎年買ってはいたのだけれど全く使わなくなってしまっていることに気がついた。なぜなら、分刻みのスケジュールで動いているわけでもないのでスマホのアプリで十分だからだ。紙の手帳を持ち歩いている時は、なにかあったらメモしなくちゃ!と常に携帯していたのだけれど、メモすることなどほとんどなく、ただただバッグの中でその重さでのみ存在感をアピールしていた。それで来年は紙の手帳は買わないことにした。B4くらいのノートで十分な気もするのでそれでしばらく試してみようと思う。日記や手帳はなんとなく捨てにくく本棚の奥に置いてはあるけれど見返すこともほとんどない。過去を懐かしむにはまだ時があるということなのかもしれない。

 

この「まんまこと」の主人公の麻之助は妻と娘を同時に失った。お産が原因だった。突然の深い苦しみは麻之助を無鉄砲にしてしまう。ますますお気楽になったり、恐れをなくしてみたり。4巻目に入りやっと麻之助もお寿ずの名を呼ぶことが減っている。

 

時薬。「じやく」と読む。お坊さんに許されている食べ物のうち、午前中に食べることが出来るもののことを指すらしい。読み用によっては「ときぐすり」となる。むしろその方がすんなり意味が通りそうだ。時が薬となって心の中の痛みを取り去ってくれると思うと、少し心が軽くなる。この苦しみがいつかは無くなる。麻之助だけではなく、大切な人との別れを迎えた人、苦しい生活の中にある人は「いつか苦しみがなくなる」のだと思えばこそ、一日一日を耐え明るい方に向かって歩いているという思いにすがれるのだろう。

 

ひたすら麻之助の心に読者も寄り添いたくなってしまうので、時にふと涙する場面がある。思えば10年前の悩みはすでに思い出せないほどで、それこそ手帳や日記を繰り探さなくてはならない。確実に時は薬となって問題を解決してくれている。たまにふと思い出して後悔するようなことを思い浮かべてしまい、しばらく棘となって残ってはいるけれど、それもまた時とともに薄れていく。

 

辛いこと悲しいことに胸が張り裂けそうになっても、時は必ず味方であることをこの本とともに思い出したい。