#252 深川を歩きたいけれど、今はまだ無理だよね
『損料屋喜八郎始末控え 4』山本一力 著
深川を陥れようとする勢力と戦う喜八郎。
先回のセールの際に購入した1冊。去年の年末に購入しようとしたのだが、なぜか一瞬画面からKindle版が消えていたようでタイミングを逃していた。
主人公の喜八郎は損料屋を営む一代限りの元同心で、今は八丁堀に協力しながら深川の安全のために知恵を絞る。精悍で渋い喜八郎の様子にいつもドラマ化すればよいのにと思わずにはいられない。
今回は損料屋の向いの質屋より息子を預かり商人として鍛えるという役割の他、いつものように降りかかる深川の危険を察知して活躍する。秀弥と喜八郎の仲は相変わらず大きな進展はないのだけれど、二人の間の信頼感はより強固になっているようだ。
秀弥の営む江戸屋はこの作品でも大切な役割を果たしており、密かに人が集まる時に利用されている。使用人もみなしっかりと教育されているので気持ちよく時間を過ごせるだけでなく、絶対に外に内容が漏れない。想像する限り、しっかりと磨きあげられた家屋にセンスのよい調度品が飾られ、乱れのない着物姿でここで働くことに誇りを感じている有能なスタッフたちと、なんとも理想的だ。そこに美しく凛とした秀弥がいる。
今回の敵はなかなか手ごわかった。深川を食い物にしてやろうと裏で操る商人と、いち早くそのたくらみに気が付いた喜八郎との戦いだ。悪役は喜八郎がその悪を見抜くことに気が付いておらず、最後まで戦いは続く。
その中で江戸屋に目を付ける敵に喜八郎はより一層、町を守ることに集中する。喜八郎の下で働く者たちも今回は大変な努力のもとに一歩一歩と真実に近づくのだが、どこかどっしりと構える喜八郎の男気にハラハラするどころか安心して読み進められた。
ところで喜八郎の損料屋は蓬莱橋のたもとにある。蓬莱橋は今は名前を変えて巴橋と言うらしい。一度ゆっくり歩いてみたいと思っているのだが、コロナ禍が終わってからの楽しみとなるんだろうな。
タイトルの「牛天神」は文京区にある北野神社のことで、牛をなでると願いが叶うと言われているらしい。ここにもいつか行ってみたい。