#121 全く怖くない妖のお話 〜付喪神編
『つくもがみ貸します』 畠中恵 著
深川の出雲屋には付喪神となった品物があるらしい。
この頃すっかり時代小説に魅了されており、江戸と聞いただけでわくわくしてくる始末。次の楽しみは12月のしゃばけシリーズの発売かとあと2ヶ月も先のことが待ちきれず、同じ著者の作品を読んで待ち構えようという気になった。
今回の作品は舞台は深川で「出雲屋」という一風変わった店である。古道具屋でありながら損料屋でもある。損料屋とは初めて聞く名前だったのだが、要はレンタル屋で布団から食器などなどを貸し出す店とのことだ。その日暮らしの生活で家のものを揃えられない人が多い江戸ではこの手の商売が多くあったらしい。期間限定で借り出されていくわけだが、必ずしも戻ってくるとは限らない。たまには質に出してしまうようなこともあったであろう。
畠中さんの作品らしくやっぱり楽しい仕掛けがあるようで、この出雲屋の中に妖がいるという。しゃばけに比べればまだまだ若い妖なのだが、付喪神というものに宿る妖が出雲屋で今貸し出されんとばかりに待機しているというのだから、また面白そうな話となりそうだと期待感が高まった。付喪神とは100年の間、大切に使われてきた品物に宿る妖とのことだ。
主人公の清次とお紅は兼ねてより店のものが話ているのは知っていた。でも付喪神たちは決して人とは口をきかぬと決めているらしく、話しかけても返事はない。でもやっぱり喋りたいらしく、直接人間に返答するのではなく仲間内と会話することで出雲屋の二人にも聞かせてやろうというのが彼らの意思疎通のやり方であった。喋っているのは掛け軸や根付や人形で、出雲屋の二人の前ではぺらぺらとやっていても二人以外の前では「物」らしく大人しくしている。
清次はお紅を「姉さん」と呼ぶが、実は清次とお紅は実の姉弟ではなく、彼らの親同士が兄弟であった。出雲屋はもともと清次の父の店で、お紅は日本橋にある小玉屋の娘であったのだが、火事で店と父を失うこととなり、親戚筋の出雲屋に落ち着いた。さらに清次は先代の実の子ではなく、知り合いの子を引き取ったとのこと。そんな二人が毎日好き勝手に話をする付喪神とともに店を切り盛りするのだが、次第に付喪神のいる日々こそが日常となっている様子がまた面白い。
日本のホラーは恐ろしいものが多い。怪談話も多いし、怪談といえばアイルランド人の小泉八雲(Patric Lafcadio Hearn)は妻から聞いた民話を書き残してもいる。外国人にしてみると日本の妖はかなり怖かったのではないかと思う。アイルランドの妖精の話とは似ても似つかない。以前海外に居た時に貞子の話になった。「あんな恐ろしいものを想像できるって怖すぎる。」と絶賛?されたこともあった。
一方で妖が害のない愛すべきキャラクターとして書かれているものも多く、著者の作品はその代表例だと思う。おどろおどろしい世界の対局を行くような底抜けの明るさに爽快な気分になる。
結局清次は持ち前の機転に偉い偉い付喪神の情報をもとに数々のトラブルを解決していくというのが第一巻の内容であった。元気の出る物語。