『本所おけら長屋 16』畠山健二 著
万松、今宵も大活躍。
数年前の話になるが時代小説が好きになり、書店でPHP文芸文庫の中からいくつか見繕って購入した。その中の一つが本書で、1巻目のあまりの面白さにその時出ていた作品すべて購入して以来、次作はいつかいつかと待ちわびている。
本書は義理人情、笑いあり涙ありがすべて入った豪華な時代小説だ。舞台は江戸、深川で「長屋」という集合住宅に住む人たちの日々のドラマが描かれている。長屋というのはもともと庶民の暮らす集合住宅で、井戸の両端に向い合せに平屋が立ったもの。建物はいくつかの間取りに区切られ、各世帯が生活している。このおけら長屋はとにかく人情と馬鹿で有名で、馬鹿を背負うのは万松という二人組だ。
16巻でも万松は健在で、とにかく会話が面白すぎる。まるで落語を聞いているかのようなようで、切り返しがウィットに富んでいる上にテンポも良い。なのでついつい引き込まれて丸め込まれる江戸の人々に「それは仕方ないねえ。だって万松だもの。」と同情したくなる。
この頃はこの万松にも色恋の話が出てきており、そこがまたなぜか笑いを誘うのだが、真摯で裏の無い登場人物の心にいつもほろりとしてしまう。今回の作品は「女性」の存在が大きな鍵となっている。女性の強さ、弱さ、したたかさが男を走らせるような内容だ。
そう言えば14巻までは文庫版を購入していたのだけれど、コロナの折、買いに行くことがなかなかできずで15巻よりKindle版を購入している。全く問題なくいつも通りに笑えるのでこのままKindle版で買い続けようかと思う。
それにしてもこれほど満足できる読了感を与えてくれる作品はそうない。今回もたくさん笑ってスッキリした。