Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#291 清々しい神社巡りのお話

 『神様の御用人 1』浅葉なつ 著

力の弱った神様の御用聞きを務めることとなった良彦。

 

Kindle Unlimited、せっかく登録したし7月までは格安価格になっているのでたくさん読みたいと思いながらもなかなか進まずにいるのだが、この頃続けてラノベを読んでいたらおススメにこの作品が上がってきた。

 

御朱印帳を持って神社仏閣を巡る人が増えている。ただの流行りだと言われつつも、その数はどんどん増え、老若男女問わずの「趣味」となりつつある。私は定期的に日本の文化を見直そう!という気分が高まる時があって、学生時代は指導教授の影響もあり和辻哲郎の書籍を読んでいた。その後、しばらくして海外で暮らすようになっていたある日、「見仏記」のシリーズに出会った。みうらじゅんさんといとうせいこうさんの旅を読み、無償に京都に行きたくなったものだ。ここ数年は民芸に関心を持っており、家の中のものを一つ一つ伝統工芸のもので揃えるようにしている。

 

日本文化に関心を持つと無性に旅がしたくなる。そして旅先では必ず鳥居をくぐり、美しい庭を訪れ、説法を聞く。この頃は週末の朝は必ず近所の神社にお参りさせてもらっているのだが、神社の研ぎ澄まされた空間で心が洗われ、「和」な人でありたいという心が高まっている。

 

さて、この手の宗教が題材となる作品が描かれるのは日本独特の寛容さにあると思う。海外だったら「ふざけるな!」とか「冒涜だ!」とかやんややんやと言われそうだが、それはやはり信じる神が唯一無二だからではないだろか。キリスト教であれば天使がいるし、マリア様も信仰されている。しかしやっぱり神は一人。ところが我らが日本人は自然の中に神を見、感じ、八百万の神を祀っている。そこが緩さを醸し出しているのかもしれない。

 

本作品はその八百万の神様のうち、人々が祀らなくなったことでどんどんと弱体してしまった神様から依頼を受ける「御用人」が主人公だ。名を良彦という。良彦には同居する祖父が居た。温和でいつも人を助けてばかりの優しい祖父だった。その祖父が他界したことで、良彦は自分の不遇も相まってなかなか立ち直れずにいた。良彦はどこを取っても並なのだが、野球だけはよくできた。大学へも野球で進学し、就職も野球で勝ち取った。ところが実業団に入りこれからという時期に右ひざに負傷を負ってしまう。回復を待つも、会社の業績もなかなか伸びず、野球で入社した良彦にとっては居辛い日々が続く。きっと良彦は実直で回りの様子に気を配れるタイプなのだろう。野球のできない自分が会社にとって役に立つ存在ではないという思いから辞表を提出した。

 

今は実家暮らしなのでバイトでどうにか凌ぐことができている。ある日バイトからの帰り道、良彦は苦しそうに座り込んでいる老人を助けた。その老人はちょうど良彦のところに行くところだったと言い、祖父の形見という帳面を良彦に渡した。そこから良彦の人生は一転。神様の「御用人」となるというお話だ。

 

一つ違和感があるとすれば、舞台は京都で生まれ育ちも京都という良彦ほか登場人物がみな関西弁ではなく標準語で話していること。京都の若者も「~じゃね?」と言うかもしれないけれど、関西以外の人がこの作品を読んで「ああ、これ京都の話だね」と感じるようなヒントは言葉には皆無だ。軽快なテンポの関西弁に出会いたいという人には少し物足りなさがあるだろう。たまに出てくる神社の名前があるから「ああ、京都か」と思えるような内容だ。

 

神社が大好きという著者の作品だけあって、今まで知ることのなかった神様の名前がいくつも出てくるので読み甲斐がある。2巻も読んでみたい。