Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#120 万松、今回も大活躍

 『本所おけら長屋 15』畠山健二 著

本所にある「おけや長屋」」には人情がたっぷりつまっている。

本所おけら長屋(十五) (PHP文芸文庫)

本所おけら長屋(十五) (PHP文芸文庫)

 

 いつもは文庫で購入していたのだが、今回よりKindle版を購入することにした。この作品もどうやって知ったのかあまり覚えていないのだが、とにかく面白すぎて15巻まで発売日はいつかとそわそわしながら楽しみに待ち続けている作品の一つである。

 

江戸は本所のおけら長屋に住む全員が主人公で、それぞれ強烈なキャラクターである。とにかく明るい人々が互いに支えあって暮らしており、みんなまるで家族のような親しさにいつもどこかで涙してしまう。

 

ここまで書いて思ったのだが、時代小説を読み始めた頃はまだ海外にいた頃で、一時帰国の時に本屋で出会ったものが面白く、そこから読み始めるようになった。海外にいると小さなことにふと日本が恋しくなり、寂しさが止まらなくなることがある。当時私が住んでいた家は上空が主要空港への通り道となっていたようで、時に空港へ向かうJALANAの飛行機が見えた。それを見るだけで辛かった。あれに乗れば帰れるのに!と空を見上げながら悲痛な気持ちになったものである。

 

そんな時に読む時代小説の義理人情は、自分が日本人であるという本質を喚起させる役割があったのかもしれない。外国での生活に馴染もうと努力し、外国語を駆使して生活し、どうにか現地の生活に慣れていく。いつ何があるかわからないし、想像すらできない事件が起こることもある海外生活では、家に居てもどこか気が抜けず神経過敏で緊張したような状態が続いていたのだが、時代小説の義理人情に触れている時は心が解けてぽっと温かくなったものだ。心のふれあい方や気の使い方は日本と海外では違いがある。私は日本人でこういう感性を持つ民族だから、現地に馴染めなくてもしょうがないと開き直るきっかけにもなった。とにかく破天荒な万造と松吉のコンビ、万松の開けっ広げな明るさがちょっとしたロールモデルになってから、ますますおけら長屋が楽しみとなり、海外生活を乗り越えることができた。

 

この「本所おけら長屋」は登場人物がみな普通の江戸の人たちで、やんちゃな人もいれば、実直な浪人、切磋琢磨する職人、悠々自適なご隠居や、家を支える母親たちが住んでいる。人との距離感が絶妙で、おけら長屋に関わる人々はその魅力に引き込まれてゆく。もちろん読者も心が弱っている時などは特に柔らかく温かいものに包まれたような気持ちになる。15巻では浪人鉄斎が郷里の因縁を持つ青年と対峙する話と、お咲の実家のおばの初恋の話に涙した。

 

ということで、15巻も楽しく読んだ。今、おけら長屋には2つほど恋愛がらみのネタがあるのだが、どのような形で成就するのかが今後の楽しみ。