Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#507 浅草も今は桜の時期ですね~「江戸は浅草 4」

『江戸は浅草 4』知野みさき 著

六軒長屋の真一郎の活躍。

 

2022年春の新年度のはじまり、早いものです。あいにくの雨でスタートとなった関東だが、桜は満開。よき1年となりますように。

 

先日仕事で使う書籍を購入しようと出かけたのだが、ついふらっと時代小説のコーナーに立ち入ってしまった。今はとにかく我慢の時。未読本の残数が50を切るまで新しい本は買わないぞ!と決めたはずなのだが、やはり行けば必ず欲しい本に出会ってしまう。今回は今まで読んでいるシリーズものの続巻を発見してしまい、ついKindle版を購入。買ったからには早く読まねばと早速読書を楽しんだ。

 


毎度驚いてしまうのだが、著者の知野みさきさんは現在バンクーバーに滞在しておられるらしい。大学からは北米での生活が続いておられるようで、さらには銀行での監査のお仕事も務めておられるとある。日本に居ながらにして江戸に想いをはせるにも難しところがあるというのに、文化や環境が全くことなる外国にてこのような想像力!!素晴らしすぎます。

 

さて、本シリーズ、前に読んでから約1年ということで、内容が一部思い出せないところがあったりして前の3冊をちらっと確認しながら読み進めた。

 

主人公は六軒長屋に住む面々で、中でも元矢師の真一郎の人柄がとてつもなく魅力的だ。今は長屋の家主である久兵衛の用心棒なんかもやりつつ生計を立てている。真一郎が恋する多香も重要人物。裏の顔が多々あり、昼は安田屋で矢取りを、夜はひっそりと寺にこもり面を打つ。そして生い立ちにもなにやら影があり、滅法強い。そこがまた神秘的な妖艶さを生んでいる。真一郎の相棒ともいえる大介は牛若と言われるほどに美形で笛を吹く。その大介が恋焦がれるのはお鈴という胡弓弾き。お鈴は目が不自由なので何かと長屋のみんなに助けられている。鍵師の守蔵はとにかく渋い。生真面目で仕事に対するプライドがものすごく、口数は少ないが一本筋が通った生き方に長屋の面々も頼りにしているところがある。それぞれのキャラクターがものすごく生き生きとしており、読んでいるうちに仲間意識が湧いてくるのが不思議だ。

 

長屋の話といえば「おけら長屋」があるが、こちらの六軒長屋も共同体のような深いつながりがあり、互いを信じ、まるで家族のように一致団結する。すべての長屋がこのように和気藹々とした親密感あふれるものではなかったと思うが、読者を惹きつけるのはそれが昔の良き日本を思い出させるからではないだろうか。

 


さて、4巻目には4つのストーリーが収められている。どれも風合いの異なる話でかなり読みごたえがある。

 

大介は廓で育った。幼馴染の冬青は尾張屋で春を売る。このほど身請けの話があり、大店へ嫁ぐこととなった。冬青は大介に想いを寄せているのだが、一定の収入すらない大介には身請けなど無理な話だし、そもそも大介が冬青と所帯を持つなど考えてもいなかっただろう。その冬青の切ない思いから4巻目は始まっている。

 

長屋の温かさという意味では、六軒長屋の裏にある鶴田屋の宿泊客のお話もおすすめだ。じんわりと慰められていくようなストーリー。

 

面白かったのは大介の亡くなった師匠の友人で、今は刀師となった行平が受けた不思議な経緯が書かれた物語だ。王子に住む行平のもとへとある商人が訪ねてきたという。もと浪人だったその男は、娘が浪人に嫁ぎ、その婿が士官が叶った記念に刀を慎重したいと前金6両を持ってやってきた。気難しい行平は自分が気に入らなければ刀を作ってやることはない。だが、この老人の話は受けることとし、いざ刀を作り受け取りの日を待っていた。

 

ところがいつになってもその老いた商人は受け取りに来ない。待ちくたびれた行平は刀を持って商人のもとを訪ねることにした。久方ぶりの江戸、もともと浅草に住んでいた行平は六軒長屋のすぐ真裏にある鶴田屋に宿を取り、羽を伸ばす計画だった。

 

しかし、わかったことは商人はすでに他界しており、行平のもとに訪ねてきた日というのはちょうどその商人の命日だという。それではいったい誰が刀を所望したのだろう。それを探すべく、真一郎が動く。大介は怖がりなので「もしや幽霊では」と一人おびえている。一方久兵衛はいつか妖を見てみたいとはりきっているので、幽霊の登場を心待ちにしている。

 

ああ、本当に面白かった。浅草、久々に行って団子でも楽しみたくなる。しばし日頃の憂さを忘れるほど堪能できたので、気分爽快大満足。本書のおかげで良い週末を迎えられそうだ。