Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#573 現代病なのかもしれませんね~「眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話」

『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』小林弘幸 著

むしろよく眠れるようになりました。

 

一度気になりだしたら積読の山の存在がものすごくストレスとなり、カゴから本を全部取り出しダイニングテーブルの上に並べてみた。改めて数を数えて愕然とする。なんとため込んだことだろう!仕事の本など買ったことすら忘れているものもあった。購入しただけで「読んだつもり」になっており、変に満足してしまったに違いない。秋が来る前に紙の本から読んでしまわなくては。読書の秋に、巣ごもり生活が楽しくなる冬に向け、まずはこの山から取り組もう。そしてすでに読むタイミングを逃し、あまり興味の持てない本は思い切って処分することに。本にも賞味期限があるし、もし本当に読みたければまた買い直せばいいことだ。

 

ということで、割と最近購入したこちらから読むことにした。実は本書だが、いつ、どこで、なぜ購入したのか全く覚えていない。きっと疲れが「これを読め!」とでもいったのだろう。

 

本書は「図解」とあるように、簡単なイラストと共に自律神経とはどういったものかを説明している。雑誌などでも自律神経の特集はよく見かけるが、それらよりもはるかにわかりやすく、まとまった内容をチェックすることで自分にあったヒントを得られる。

 

神経には自分の意思で動かせるものと、意思でコントロールが不可能なものがある。自律神経は後者にあたり、心臓を動かすとか、内臓を動かすといった活動を行い、私たちが起きていても眠っていても、24時間絶えず動いている。

 

生を受けてから終えるまで、自律神経は働きっぱなしだから、時に疲れが出てしまうことだってあるだろう。しかも体が健康でなければ、自力でどうにもできない部分は簡単に蝕まれてしまうだろう。

 

眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話: 自律神経のギモンを専門医がすべて解説! | 弘幸, 小林 |本 | 通販 | Amazon

ものすごくシンプルに言えば、自律神経は規則正しい生活をし、身体に負担をかけない生活をすることが大切ということだろう。適度に体を動かし、水分を取り、ぐっすり眠る。現代はそんな生活を送ることが難しいからこそ、不調を感じる人が増えている。

 

本当に小さなことのように思えるのだが、それを習慣づけたり実行するのは割と難しいことだが、肩こりや頭痛が改善するならといくつかやってみようと思ったこと。

1.朝起きたら水を飲む

2.寝る時にラベンダーの香りで睡眠を促す

3.タンパク質を取る

 

たったこれだけのことなのだが、ついつい忘れてしまうのでまずは習慣づけてみたい。それにしても、この本を買ったからには何か思うところがあったからに違いないのだが、知らず知らずのうちに状況は改善したのかもしれない。一つ思い当たることがあるとすれば、一時期ものすごく蕁麻疹で苦労した。ストレスから来るものとのことだったが、市販の薬で乗り越えた。その後、約2か月の山生活で心が癒されたのだと思いたい。しっかり食べてしっかり寝る!これが一番大切ですね。

 

 

#572 雌牛が産む生々しさ~「BUTTER」

『BUTTER』柚木麻子 著

全てを象徴するバター。

 

8月も終盤となってから「そうだ、夏休んでない。」ということに気が付いた。思えばGW以降、土日も休めずの生活だった。8月に入って東京に戻り、やっとどうにか週休1日は確保できている感じだ。夏、全然満喫してないし!出勤時の電車も徐々に日常が戻りつつあるようで、ちらほらと学生さんの姿を見かけるようになった。

 

GW以降、山にいる間は夏の風景そのものが美しすぎて、そこにいることそのものが何よりも気分転換になっていた。ある意味、とても贅沢な夏だったと思う。オフィスにいるより労働時間は長かったのに、緑に癒されて完全にストレスフリー。仕事面ではかなり充実していた。

 

ところが東京に帰ってからというもの、ぷつりと集中力が切れてしまったようだ。仕事から離れてのんびりしたい気分でいっぱいになる。居ても立ってもいられず、急遽数日休みを取って鋭気を養うことにした。自由研究的な意味合いも込めて、お茶でもいれてゆっくり読書して、好きなドラマ見て、あと滞っているあれこれを片付けよう。ということで、まずはKindle Unlimiedでダウンロードした本書を読むことにする。

 

びっくりした。気軽に読もうと選んだのだが、食べ物に関連する小説かなー、「ランチのあっこちゃん」系かなー、とさくっと読めちゃうことを期待していたのに、いやいや、とんでもない大作でした。

 

確かにタイトルが表すように、そこは以前に読んだ作品と変わらず「ああ、食べたい!」と思わせる描写が迫って来る。どうしてもバターが食べたくなるなんてことはめったにない。むしろバターの塊が口の中に入って来ること自体、個人的にはあんまり歓迎したくない。隠し味ならわかるけど、バターがメインになるなんて!それなのに本書ではタイトルになるほどの鍵となる食材だ。最初に出てくる食材であるバターは、いつものバターを特別ステキなものへと昇格させるほどのパワーで綴られている。

 

そのおいしさを伝えるのは、東京拘置所に収監されている女性容疑者だ。梶井真奈子は料理が好き、食べることが大好きでブログでもその知識を披露していた。逮捕の理由は殺害容疑で、付き合っていた男性が次々と世を去った。3人目の事件で梶井は逮捕されている。その事件を追っていた記者の里佳は、インタビュー記事を掲載したいという思いから、足繫く拘置所へ通い梶井の話を聞いた。その大半に食が絡んでくる。

 

私も経験があるのだが、生産地により近いところで食べる乳製品は既製品とはまた異なる味わいを秘めている。単に濃厚なだけではない。むしろ草原を感じるようなさわやかさもある。北海道で食べる生クリームや牛乳やチーズに深い風味を感じるのは、きっと産地だからこそなのだろう。牛乳ビンに油膜が張っている所を見て、ものすごく驚いた記憶がある。梶井も牛乳の産地で幼少時代を過ごし、新鮮な乳製品を味わって育った。よってバターへの思い入れも格別である。それが梶井の男性を惹きつける母性の中に乳牛の姿を彷彿させ、いつしかリンクさせるところがまたすごい。

 

梶井の容姿は決して男性を惑わせるような妖艶なものではない。ぽっちゃりとした色白で、パステルカラーの服を好む。梶井を知る男性は決して梶井の容姿を誉めたりしない。むしろけなすのだが、なぜか彼女のもとを離れられない。パトロンを持ち、優雅な生活をしているようには決して見えず、まるで乳牛のようにのっそりと草を食んでいるかと思えば、時に闘牛のような荒々しさを見せる牛、そのものである。

 

梶井には人が心の底に隠していることを見抜く力がある。そして里佳のことも、恋愛が上手くいっていない、家族の問題がある、料理ができない、などほんの少しの会話から人物像を把握したらしい。最初に里佳に食べさせたバターのレシピはバターご飯だ。炊き立ての白米の上に有塩バターをのせ、そこに少しだけ醤油を垂らす。アツアツのうちに、だがまだバターが完全に溶け切る前に食べる。バターは高級なものがいいと、フランスのエシレを指定するところもまたにくい。普段料理もせず、それほど食に関心のない里佳が、拘置所の帰りに小さな炊飯釜を買って帰る。梶井が語る食べ物はすべて絶品に聞こえてくる。そして里佳はなんと1度炊いた分のご飯では足りず、バターの魅力に引き込まれてしまう。なによりもシンプルかつ高尚な旨味を秘めるレシピだろう。

 

巻末まで読み、参考文献を見たことで梶井にはモデルがあったと知った。先ほど検索してみたところ、詳細に誤差はあるとは言え、姿かたちまで梶井そのものに見える。人と人との距離感、心の滓、愛情の欠片が万華鏡のように次々と異なる形で表れ、ストーリーはどんどんと深みを増して来る。

 

殺人事件の悲惨さとは対照的に食へのこだわりが生を表す。それもとんでもない魅力で生きていること、生々しい性愛までをも見せつけてくるので、最後まで緩い緊張感と共に読み終えた。終わりがなんとももどかしいのは、このモデルになっている事件が解決に至っていないからだろう。本人は今も拘置所にいるとのこと。

 

ああ、バターケーキが食べたい。近所のあの店に行ってみよう。そうだ、カルピスバターも買わなくちゃ。

#571 四国ならありうる!~「鈴の神さま」

『鈴の神さま』知野みさき 著

鈴を守る幼き神。

 

この頃ちょっと喉が痛いとか、体がだるいと「ついに来たか…」と感染の不安に襲われる。ついに周囲でも注意に注意を重ねていた人たちが、夏休みの移動で気が緩んだのか、次々と倒れて行った。初期のような重症状の報道は少なくなったように感じるが、やはり病気は辛いので感染対策を怠らずにいなくては、と気を引き締める。

 

さて、そんな週末、ちょっと体調が優れなかったこともあり家でごろりと横になりながらドラマを見たり、本を読んだりゆったりと過ごしていた。本当ならば紙の本をたくさん読まなくてはならないのだが、やっぱり手軽なKindleを選んでしまう。

 

さて、本書。カナダで時代小説を執筆しておられる著者の現代を舞台にした小説だ。今まで3種類のシリーズものを読んできた。

 

本書は章によって時代の前後はあるものの、せいぜい古くても昭和初期なのでなんとなく想像の及ぶ範囲だろう。舞台は四国で、恐らく香川県ではないかと思う。

 

四国と言えばお遍路さんで有名だが、太古の秘密のような言い伝えが多くあると聞いたことがある。このストーリーも鈴を守る神と地域のふれあいがテーマになっており、アニメやラノベにありそうな人との距離が近く、どこかコミカルで可愛らしさに溢れる神様が主人公だ。

 

1話目に登場する冬弥はピアノが好きな中学生。音楽一家に育ち、本当はコンクールに出る予定だったが指の怪我で断念。気持ちを切り替えるために四国に住む祖父の家で春休みを過ごすこととなる。

 

祖父は高野町というところに住んでいた。人里から少し離れた所に祖父の家はあり、代々受け継がれているものだという。祖父の家の敷地は広く、遠く山側まで伸びている。

 

祖父の家に滞在している時のこと、突然の来客があった。小さな子供で仕立てのよい着物を身に付け、どこか言葉遣いが古めかしい。それが冬弥と鈴の神様の出会いだった。最初は祖父の説明も半信半疑。ところがお付の人の存在や、周りの人には彼らが見えないということに気付き、神様だ!と開眼する。

 

鈴の神様は冬弥の一族が所有するある山の上に住んでいる。山へと続く一本の細い道を登ると、そこに古く小さな神社がある。町の人の信仰もあり、冬弥の一族は私有地にある神社を町の和菓子屋「雛屋」の一族と共に大切に守っていた。ただ、祖父母の時代に東京へ移住した冬弥の母親や冬弥自身はそのことに深く関心を持たずに過ごしていた。

 

冬弥が高野町を訪れた時、新幹線を乗り換え瀬戸大橋を渡っているから、降りた駅は恐らく坂出か高松だろう。高野町はそこからバスで1時間で、商店などのある街から少し距離があるようだ。そして、海の描写は出てこないことから、きっと香川から徳島方面に向かった先に高野町はあるのでは?と想像している。なぜそんなことを考えていたかというと、「行ってみたい」という気持ちがむくむくと湧いてきたからだ。いつか四国をぶらっと旅してみたいと思っているところだったので、なおさら興味が湧いたのかもしれない。

 

一体著者はどんな背景からこの小説を思いついたのだろう。実在しそうな鈴の守り神。人の温かさもさることながら、幼い神様の心根の優しさに引き込まれていく。スピリチュアルすぎず、ファンタジーすぎない読みやすい小説。旅した気分にさせてもらいました。

#570 さて、調味料を買いに行こうかな ~「からだ思いのグルメ調味料 選び方・使い方」

『からだ思いのグルメ調味料 選び方・使い方』岩城紀子 著

グラホの調味料。

 

今週末こそ調味料を買いに行こうと思っている。そこで早速こちらで予習することにした。今買いたい調味料は、醤油、味噌、味醂など日本人の家に必ずある必需品たちだ。あと出汁もあってもいいな。いずれにしても重たいものなので、ちゃんと考えてから購入しなくてはならない。

 

日本の発酵食品は育った地域それぞれの味があり、南は甘さが強いなどの特徴がある。初めて九州に行った時のこと、煮物が甘くて驚いた。見た目はいつもの煮物と変わらないのに、砂糖やはちみつなど想像できる糖分とは異なる甘さで、それがトリガーとなりなかなか箸が進まなかった。同様に食べ慣れない味だとその調味料を最後まで使い切る自信がない。しかも結構な量が入っているものなので、せっかくなら最後まで美味しく食べたい。

 

ということで、本書の登場である。

2022年夏現在、グラホで販売されている56種の調味料を中心とした食材が掲載されている。

味わい深い「三ツ星醤油」

このように、商品の説明とともに、グラホで取り扱うに至った経緯や味のおススメなどがある。

 

巻末にはレシピ集もあり、単なる商品カタログではなく、しっかり楽しみ尽くすための工夫がある。著者は関西の方なので、ラインアップを見ると関西の人には馴染みのある商品が多くならんでいる印象がある。逆に関西以外の人であれば、知らない商品がものすごくたくさん並んでいることとなり、食べてみようかな?という気になるだろう。

 

とは言え、先に書いた九州の煮物のように、想像する味を大きく超えるものも中にはあるに違いない。簡単な味の説明はあるのだが、調味料なのでそのままで食べる時、煮たり焼いたりと加熱する時の味の変化はどうなのか、食材別の違いなどについてももう少し説明があったら購買意欲が倍増したかもしれない。

 

例えば、ヨーロッパの料理についての本を読んでいると、詳細にわたって調味料を指定してくることがある。イギリスのお菓子の本なんてお砂糖の種類がうるさいくらいにくどくどと書かれていたりもする。レシピ側からアプローチすると、逆にはっきりとした調味料の指定ができるのかもしれないが、調味料側からだとちょっぴりぼんやりなところが残念。とはいえ、巻末のレシピが絶賛至極な使い方なのかもしれないので、購入の際にはぜひ作ってみたいと思った。

 

関西のお宅では何種類ものソースがストックされているというし、私の実家ですらお醤油は数種使い分けている。友人は味噌に凝っており、郷土料理の再現などを楽しんでいる。調味料は、それ一つで「私色に染めてあげるわ」的な魅力もあるが、混ぜ合わせることで生まれるハーモニーもあるわけで、それを発見していくことも料理の楽しみの一つかもしれない。

 

まずはいくつか購入して、ドレッシングレシピも開発したい。マンネリ気味のスープにそえる隠し味も欲しいところだし、この頃お気に入りの刺身のアレンジものも楽しみだ。

 

この頃はマルシェにも小規模生産で有機無添加、オーガニック加工品が並ぶことが多く、週末は貴重な野菜が手に入る青空マルシェが最近のお気に入りだ。ふと「逆にマルシェこそがグラホのライバルになるのかもしれないな」と思った。自分の「好き」を知っていて、味の基本がある人であれば、著者のようにお気に入りを選ぶことは可能だ。そんな人たちがSNSなどで発信すれば、まさに著者と同じ様な活動をすることになる。各自のライフスタイルに合わせた調味料を選ぶには、まずは自分自身を納得させることが何より大切だ。「この味なら使い倒せる!」と自分が納得、そしてリピート必至な調味料に出会えたら、きっと料理の幅は広がるのだろう。なので、グラホはそのお手本を示す存在とも言えるだろうし、美味しいものはみんなが大好き。料理を楽しみ、食事を美味しく頂きましょう!

#569 武士のおじいさんの過去 ~「武士の流儀 4」

『武士の流儀 4』稲葉稔 著

武士に二言はなし。

 

積読(つんどく)」という単語、実は明治時代からあるということを最近知った。てっきり平成時代に作られた語だと思っていたのだが、そんなに由緒あるものとは思いもよらなかった。その積読、我が家ではひっそりと隆起が続いており、今はひとかどの山となっている。最初は無印で購入したステンレスのバスケットの中で納まっていたものが、今や1メートルくらい、人の腰ほどの高さにまで成長した。今、バスケットは「積読山」の土台を固定する程度の役目となり、いつ崩れてもおかしくない不安定さ。

 

そもそも、Kindleが手軽すぎるのだ。この数百グラムの中に数千冊の書籍が入っている。必要とするのはバッテリーくらいで、読みたい時に読みたいものを瞬時に「さあ、どうぞ」と目の前に提示してくれる。一方の書籍、まず重い。文庫や新書ならそれほど負担はないが、それでもKindleより重いのではないだろうか。ビジネス書1冊持ち歩くとなると、折り畳み傘とか、ペットボトルとか、小さいながらも重さでじわじわと存在感をアピールするものが更に1つ増えるわけで、疲れてくるとその重さが肩に来る。

 

置く場所もKindleならいつでもダウンロードできるし、Kindle内にダウンロードした冊数によって本体の重さが変わるわけではない。ところが紙だと確実に保管場所が必要となる。

 

鞄の中に潜り込む回数の減った紙の書籍たちは、あと1冊でも置くとバランスが崩れてしまいそうな状態となり、これは早々に山を切り崩す必要が出て来た。人間にとっては窓から吹き込む涼しい夕風は自然の恵みそのものだが、積読山にとっては崩壊の原因になりつつある。ということで、この頃偏っていたKindle読書から積読山が半分の高さになるまで、Kindle→紙→Kindle→紙、と交互に読む習慣をつけることにした。移動の際にはKindle一択だが、紙の本を読もうという意識を常に持とうと思う。

 

さて、本書はそんな取り組み最初のKindle本。待ち時間の多いタイミングに読むことにした。4巻目ともなると、清兵衛がより一層身近に感じる。そしてこの4巻目、4つのストーリーが収められているが、どれも捨てがたい感動の作品になっている。

 

とくに2つ目の「うなぎ」は良かった。

よく聞く話だが、隠居すると日々の生活ががらりと変わる。「会社辞めたら旅行しよう」「趣味を楽しむぞ」なんて言っていたのに、定年退職で会社に行かない生活になった途端に閑を持て余してしまう人もいるという。ただ時間を持て余しているだけなら誰にも迷惑はかけないが、在職中に役職についていたり、大きな金額のお金を動かしていたり、企業の要となる秘密職に従事していたりと、なにかスペシャルな経歴をお持ちの方だと、いわゆる「老害」となり己の力を見せつけようとするからこまったものだ。

 

清兵衛は全くそんな気配もみせず、むしろ与力であったことを隠しているほどだ。幕臣に比べれば与力の身分は低くなるが、町人にとっては与力は身分の高いお方。それでも決して偉ぶるところのない人柄が清兵衛の最大の魅力である。毎日家の周りを散歩に行き、人と話ては問題を見つけ、人助けをする日々だ。

 

ある日、いつもの通りに川沿いをぶらぶら歩く清兵衛の前で、老侍が自身の使用人の頬を打った。なんでも使用人がお届けものを誤って落としてしまったからだという。老侍は激怒しつつ、一人でずんずんと行ってしまう。残された使用人に、清兵衛は思わず声をかけた。

 

使用人は主の殿様は大御番組の組頭を務めた人物だと清兵衛に語った。これは大変な地位だ。風烈廻りの与力など、現役であれば決して同じ場に立つことすらできなかっただろう。そしてあまりの気性に奉公人どころか家族までもが恐れをなしていると知る。今は家督を息子に譲り、築地界隈に引っ越したそうなのだが、あれこれ気に入らないことも多く、その鬱憤が全て家内の者に向けられていた。昔であれば何人ものお付の家来が共に行動していたはずだが、今はこの使用人がお供するのみだし、家の格も今は小規模となり「かつての私なら」とつい昔の栄華にすがってしまう。

 

清兵衛も同じ隠居、何か思うところがありこの殿様に近づいてみることにした。ちょっと不自然な始まりではあったが、二人はどんどんと心を近づけ、やがて酒を酌み交わす仲となる。清兵衛の前では心を開くことができる殿様。自身は変わる、と宣言した。

 

タイトルの「うなぎ」は、その殿様の大好物で、老齢にも関わらず一人で2杯も3杯もうな重を平らげてしまうほどのうなぎ好き。そこでの失敗が清兵衛と殿様を近づけ、殿様の心へぬくもりを通わせるきっかけとなる。

 

4巻目はすべて人情深い話ばかりで、やっぱり江戸はいいなあ!という清々しい気持ちにさせてくれる。手持ちは6巻までなので、ゆっくりと読んでいくことにしたい。

#568 あの”美味しいものしか売ってないショップ”にはこういう背景があったのですね~「裏を見て「おいしい」を買う習慣」

『裏を見て「おいしい」を買う習慣』岩城紀子 著

グラホの創設者が語る食。

 

ついに東京の日の出の時間が5時代になったようだ。夏の間、山で暮らしている間に身についた4時起きだが、太陽と共に活動することで一日を長く使うことができるだけではなく、朝の散歩→朝ごはんがおいしい(いつもは食べない)→気力が生まれる、と心身共に健康な生活となり、山生活の恩恵を享受していた。日の出と共に畑に出る山の生活も少しずつ落ち着くのだろうか。収穫も終わって一息ついているところかな?まだまだ暑い日は続くけれど、秋の、そして冬の準備を始める時期が迫ってきている。

 

山へ行く前のこと、2か月ほど家を空けることが予想されたので、冷蔵庫内の大半のものを処分した。戻って以降、我が家の冷蔵庫にあるのは山の近くの道の駅で購入したものが少し、あと調味料は塩と胡椒があるくらいだ。普段は手弁当生活なのだが、この暑さでお弁当が傷んでしまうことを危惧した結果、8月は家で料理することなく過ごしてしまい、調味料一式が無いままに数週間過ごしていることになる。

 

9月からはまた弁当生活を復活させたいし、そろそろ温かいものも食べたくなってきたので調味料を購入する気になった。家の近くにはオーガニックショップが数件、各地の郷土調味料や珍しい調味料なんかを扱うショップもある。せっかくだから美味しいもの、体に良いものを選びたい。そこで、ふと「そうだ、グラホに行こう」と思い立った。

 

グラホことグランドフードホールは東京だと六本木ヒルズの中にある。コロナもありでこの頃は近場で購入することが多かったのだが、オープンした頃に何度か足を運んだ。今では人気商品もいくつかあるようだが、私はお惣菜をメインに購入することが多かった。ちょうど少しでも料理の腕を磨きたい!と思っていた頃で、見ごたえ食べ応えのあるお惣菜を堪能してはアレンジ料理を考えたりするのがものすごく楽しかった。そんなグラホ、今は何が人気なのかな?と検索している時、創設者の方の書籍があることを知った。現在は2冊の書籍があり、こちらは1冊目にあたる。そして今回はKindle版ではなく、2冊を紙版で購入。紙版ならいつでもパラパラ楽に商品をチェックできるからね。

 

タイトルにもなっている「裏」というのは、食品のパッケージの裏に書かれている「食品表示」のことだ。これが外国だと栄養素まで書かれていることが多いが、日本の場合は名称、原材料名、賞味期限、保存方法などの注意事項が書かれている場合が多い。著者はこの「裏」が大切だと言っている。グラホには1種1品の原則があり、店内での商品の競合はさせない方針のようだ。著者が本当に気に入ったもののみを取扱っており、ピュアにおいしいものとは余計なものが入っていないスッキリとした味わいだ。だから、高い。食品を長持ちさせるような添加物、利益を出すために原材料を安く抑える場合もある。大量に、安価にと企業側の経営的な「うまみ」に集中した食品は消費者の手に届きやすくはなるが、せっかくの食材も体に優しくはないものへと変容してしまっている。著者はその現状を知っているからこそ、裏のラベルを見て、真に良いものかどうか見極めろ、と言う。

 

著者は祖父母と共に3世代同居の家庭だったそうだ。祖母がお料理上手で、祖父の仕事のお客様などを自らもてなしていたとあり、なんとなく関西の戦後を舞台とする食のドラマを思い出してしまった。著者の祖母は「いいもん食べると舌がきれいになる」という言い方をしているが、昔はそれぞれの家庭で食育を行っていた。著者のお宅ののみならず、それぞれの家庭の味を伝えるには、それを理解できる味覚を作り、健康に味わえる体をも作る。そんな古き良き日本の暮らしが遠くなってしまったことに危機感を感じた著者は、「本当に美味しいもの」のみを集めたグランドフードホールを作ってしまう。

 

本書はそのグラホを立ち上げるまでの話と、立ち上げてからの商品開発の話が中心となっている。やはりビジネスだから利益は出さなくてはいけないし、繁栄させなくてはならない。実際にグラホに行ってみるとわかるのだが、大きなくくりで言えば「スーパー」になるだろう。でも一般の高級スーパーとは一線を画する。とにかく、今のところは唯一無二の存在で、食のセレクトショップのような存在と言えるだろう。

 

グラホは迷い用がない。例えばパンケーキに合わせるメープルシロップが欲しいとする。成城石井や紀ノ国屋に行けば数種の中から選ぶことができる。しかしグラホには1種類しかない。買うものさえ決まって入れば、1点しか物がないからそれを買わざるを得ない。しかも味はグラホお墨付きとあれば、例えあまり口に合わないとしても、何等かの貴重なストーリーが商品の背景に潜んでいる。それを堪能しながら食べるだけでも、なんとなく深みが増すというものだ。

 

店内もちょっとわくわくする作りになっている。それほど広くはない店内、シックな感じにまとめられ、まるでヨーロッパの街角のグローサリーストアに来たかのような気分になる。食べ物だけが特別なのではなく、空間そのものが特別だから、いつものスーパーで「買い出し行ってきた。疲れた。」のような感想はまず出ないだろう。それどころか、スーパーとひとくくりにはせず、「グラホ行ってきた!今日はこんなの買ってみた!」といつもの行動が一段階上の体験をしたような気持ちになれる。

 

帯に「2020年5月21日カンブリア宮殿で大反響」とある。テレビにもお出になっていたのか、と本書を読んで知った。きっと番組を見た人ならもっと共感できるだろうし、一度でもグラホに行き、「このショップのコンセプトが気になる!」と感じた私のような人には謎解きとなる1冊。でもKindle版でもいいかな?開発裏話が知りたい人用。

#567 わかりやすい英文を書く難しさ ~これなら通じる技術英語ライティングの基~

『これなら通じる技術英語ライティングの基本』平野信輔 著

英作文の注意事項。

 

英国のハリー王子とその妻が電撃的に「ロイヤルやめる。アメリカ行くわ。」と発表してから、なぜかあの二人のゴシップネタを好んで読んでいる自分がいる。そして定期的にチェックしているのがこちら。

 


ロイヤルニュースはいくつかにまとめられているのだが、その分類が面白い。Newsの項目の帯を見ると、上から'Latest Headline'のすぐ次に'The Queen'があり、ちょっと後ろの方に'Prince Harry'がある。ではその嫁は?というとUSの項目の帯の最後方だ。一応トピックとなっているだけでも関心度の高さがうかがわれるが、それでもキム・カーダシアンより後ろとは随分と軽く扱われているのだなーということがわかる。女王陛下のニュースの帯にはそのほかのロイヤルファミリーの活動や、他国のロイヤルファミリーも登場するが、ケンブリッジ公爵夫人はFemaleの帯に別に項目が設けられており、女王陛下に続き、ケンブリッジ公爵夫人の記事が並ぶ。

 

このロイヤルニュースを読みながら、気がつけば英文を読むことにそれほど抵抗感がなくなるというプラスの効果に気が付いた。さて、この勢いで仕事もがんばるぞ!と思ったのはいいが、同じ英語でも技術英語となると一気にハードルが高くなる。さらに技術を英語を読むのではなく、自分が書くとなると、これがどえらい苦難となっている。仮に技術英語を読むにあたってのハードルの高さが東京タワー並みだとしたら、技術英語を自ら作成するハードルの高さは富士山とかヒマラヤとか、宇宙から目視できるレベル。もう無理なんです、ムツカシスギル。

 

そこで、今は英作文関連の書籍や技術系の英文の書籍を見つけては購入しては読み込んでいるのだが、本書はその中でも表紙の文字が優しそう!という理由から一番最初に読み始めた。

 

私は翻訳や通訳の世界に明るくはないのだが、それぞれ専門分野があるらしいという話はちらっと聞いたことがある。例えば医療や科学など、深いところまでしっかり把握せずには言葉を介す役割に達せない分野などがそうだという。確かに普段文芸小説を翻訳している方が物理の翻訳をすることになったら、かなりたくさんのことを調べながら作業に当たらなくてはならないだろう。政治が専門の通訳の方が、ジェンダーレスなファッションアイコンの通訳となれば知らない単語が山のように出てきて憂鬱になるかもしれない。

 

しかし私は薄い知識しか持ち合わせていないので、とりあえず今は吸収するのみ!とライティング系の書籍に没頭することにした。まず本書は技術英語に特化せず、英文ライティング全般に通ずる問題点を非常にわかりやすく説明されている。

 

本書は平野先生が生徒のダイゴロー君にレッスンする形式で進められており、二人の会話を通して基礎を学ぶことができる。ダイゴロー君は理系の単語もすいすい操っているから、そもそもの英語レベルは高いはず。平野先生は普段英文を書かない人にもわかりやすく説明することを目標にしておられるので、技術系の文章を使いながら「英作文とは?」を読み進むにつれて身に付けることができす。

 

私は日→英だと日本語に引っ張られてしまい、無駄に言葉を重ねてくどくどと長い文章を作ってしまうことが多い。そして後で読み返して、自分でも何を言いたいのか分からなくなることが大半だ。そのわけわからんっぷりの理由がまさにこれ。


上記、最終的にどう整理したかというと、まず第一に日本語を修正している。直した文章がこちら。

 

安定した充電のためには端子をきれいにして下さい。

 

ものすごーくシンプルになった。なぜこうも文章がコンパクトになったかというと、かぶっている部分を省いたから。完全に誰もがわかりきっているような部分や、動詞と名詞とでかぶってる内容なども一つにした。その結果が上である。こうなると英訳するのもがぜん楽になる。

 

第1部はこういった間違えてしまいがちなポイントを指導している。第2部では英文法の指導だ。これがいい感じでまとまっていてとてもためになった。例えば助動詞がつくとイメージががらりと変わるが、それが現在形と過去形で意味が若干変わってくるなど、小説だったらさらっと流してしまいそうだけれど、技術系では絶対に流せないポイントに絞った説明がある。

 

「エラーが発生するかもしれない」と「結構な確率でエラーが発生するかもしれない」ではユーザーの気を付けなくては、な気持ちにも差が出てくる。全く気が付いていなかった技術英作文のポイントがいくつもあり大変ためになった。

 

手元に参考書を置き、いざ英訳を始めてみる。そして暇を見つけては技術英文の本をぱらぱらとめくり、ウォーミングアップも忘れない。ああ、無事に仕事が進みますように。