Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#533 海辺に立ちたくなりますね~「ふうらい秘剣」

『ふうらい秘剣』風野真知雄 著

冬馬、第3弾。

 

ついにGWも明け、早く日常に戻りたくてうずうずな人もいれば、やっと一息つける!とこれから休みいう人もいるだろう。私は一足早く、GW後半からいつものオフィスではなく地方を満喫しつつお仕事再開。今年はカレンダーの並びが良かったので、ストレスや日頃の毒気が十分に抜け、新たな気持ちで日々を送れますように。

 

さて、Kindle Unlimitedに登録した本を結構なスピードで読んでいるので早めにメモを残していきたい。

 

シリーズ3弾目、冬馬は相変わらず釣りに精を出すもなかなか上達しない。無心になっていると鯛が釣れたりするのだが、3巻目に至ってはなんと酒屋のご隠居を釣り上げた。一応しっかりと目定めて針を飛ばしたつもりだったのだが、針は目の前の水場になかなか落ちてこない。すると冬馬の後ろから「痛い!」と声が...。振り返るとご隠居らしきご婦人の手になんと冬馬の針が刺さっていた。

 

ご隠居を背負い、急ぎ自宅に戻って手当をする。それからご家族にもお詫びをと家まで送り届けるのだが、着いたところは江戸でも3本の指に入る大店の酒屋であった。さっぱりな気質のご隠居は、自分の趣味の茶道を教えてみたいと「怪我のお詫びなら茶道の生徒になれ」としばらく冬馬はご隠居のもとへ通うこととなる。

 

その間にも本職のふうらい指南に生徒が訪れるのだが、今回の生徒さんはとても想いの深い武士、そして同心の下っ引きには縄の扱いを教える。武術には流派のようなものがあるのだが、冬馬は若い頃に見聞の旅に出ており、見たものをどんどん吸収し、半ば独学で収めてしまった。よってもともと学んでいた流派の他にも多くの手を扱うことができる。

 

今回訪れた武士の生徒は先行き短いことから、心残りである家に伝わる秘伝を復活のために力を貸して欲しいという。家に伝わる剣術なのだが、祖父が早世したことから代々続く技が断絶してしまったという。唯一巻物が残されているのだが、何のことだかあまりに抽象的で本人にも検討が付かないらしい。もともとその武士も剣術には長けた人物なのだが、今や体が病で言うことを利かず、冬馬とともに巻物の言葉を頼りに家に伝わる技を再現する。

 

今の東京はずいぶん埋め立てられているが、江戸時代は日比谷あたりも海に近かったという。深川あたりを小舟で行き来し、海辺で釣竿を垂らす人も多かったようだが、今の地図しか知らずにいたので、冬馬が日比谷で溺れる少年を助けるところで「日比谷で溺れる?」と海の位置が気になったので調べてみた。

 

(東京湾事務所HPより)

 

ああ、なるほど。確かに江戸城が海沿いならば日比谷も海の目の前だ。釣りライフを最重要視した冬馬が八丁堀を選ぶわけですね。海まで歩いてすぐだし。一つ一つ調べつつ、歴史を確認しながら時代小説を読むことが楽しくなってきた。なんだか海に行きたい気分だ。

 

どうやら3作目で本シリーズは終わりのようなのだが、まだまだ続きそうなすっきりしない流れとなっている。これはもしかして別の名前でシリーズが続いていたりするのだろうか。著者の作品はテンポよく話が展開し、すいすいと楽しく読める。そして色恋沙汰は薄めで、その代わりにちょっと滑稽な江戸の様子がこれでもか!と詰め込まれている。もっともっと読みたい気持ちが止まらない。他にもシリーズ作品がたくさんあるので、また長期のお休みの時に一気に楽しみたい。

 

Kindle Unlimitedには読みたかった作品が多く、移動の際に嬉々として書籍を選んでいる。しばらくは時代小説が続きそうな予感。

#532 本当なら団子でも食べながらまったりしたいのですが~「雨の刺客」

『雨の刺客』風野真知雄 著

冬馬、第2弾。

 

GW中の移動は大変かと思いきや、混雑にも巻き込まれることなく本日からお仕事です。機内ではゆっくりとこちらを。Kindle Unlimited、キャンペーンの期限まで堪能したい。

 

さて、元火盗改めの矢沢冬馬は、「ふうらい指南」などという看板を掲げて同心の街、八丁堀のど真ん中にある北島町で一人気楽に過ごしている。火盗改めを辞職したことになんの未練もないが、大きな盗賊一味を捕らえられなかったことだけは今でも心残りだ。

 

その盗賊らがまた動き出したという情報があり、長官自ら冬馬へ秘密裡の調査を依頼した。冬馬はかなりデキる同心で、武術だけではなくあらゆることを踏まえて予測をし、確実に罪人を取り押さえる能力が高い。こうして釣りに没頭する日々でもその力は一切衰えていない。2巻目ではその様子がはっきりと表れており、ただただかっこいい。

 

今回はなんと馬をも手懐けてしまった!釣りにハマって毎日のように釣り場に行くもなかなか成果が見られないのだが、砂浜で暴れ馬を御しきれない青年が落馬するところに出くわし、なんとその馬が逃げようとするところへサッと飛び乗り御してしまう。

 

馬の持ち主はどこかの若様で、冬馬に指南を受けたいと長屋までやってきた。どうやら友人と賭けをすることになり、どうしても馬を乗りこなさなくてはならないという。身なりだけではなく下屋敷も立派なところを見ると、恐らく大変よいところの若様に違いない。冬馬は快諾し、乗馬のコツを教え込むこととなった。

 

この若様がまたカリスマがあるというか、リーダー気質もさることながら、勇ましいところがある。互いに信頼が生まれるのは、お互いに似たところがあるからだろうか。やはり能力の高い人は、同じように能力の高い人を見抜くことができるのだろう。

 

さて、本シリーズでは団子屋が頻繁に出てくる。1巻で指南した清八が営む団子屋には読んでいるだけで心惹かれるほどに美味しいそうな草団子がある。甘すぎない上品な味で、しっかりした団子はむしやしないとしても最適なようで、ふうらい指南で出会ったものたちが次々と集まってくる。

 

そう、団子は人を寄せるのです。お土産として今まで団子を持参して嫌な顔をされたことは一度もなく、むしろ歓迎されることの方が多い。生菓子だけれど気取ってはなく、餅菓子の中でも手軽に食べられるところも良いのだと思う。時代小説を読んでいると団子が出てくる度にどうしても欲しくなってしまうのだが、清八の出す団子は思わず浅草あたりまで買いに行こうという気にさせるほどに頭から離れなくなる。今は遠出しているので、早速宿泊先の近くを検索したのだけれどなかなか団子屋が見つからない。団子欲を早く満たしたいのだがコンビニでは味気ないし、専門店も近くにないようで仕方なく地元の餡のお菓子を食べている。

 

そんなほっこり団子の話にお腹を空かせていたら、どんどんと盗賊一味の手が見え始める。最終的には武士の情に涙するのだが、最後まで相手を敬う心を持ち苦悩するところがまた悲しみを誘う。武士の美学というのだろうか、戦う間柄であってもどこか人としての敬意を最後まで持ち続ける清らかさを令和に暮らす私たちも持っていたいものだ。

 

冬馬のようにさらりと仕事をこなし、ものすごい集中力と精神力で物事にあたるタフさが欲しい今日この頃。5月病にならずにがんばれるかなあ。冬馬を見習っていってまいります。

#531 そろそろ仕事の準備など~「ふうらい指南」

『ふうらい指南』風野真知雄 著

元火盗改め、引退後にも大活躍。

 

実はGW後半は仕事の予定があり、本格的な休みは今日で最後。最早社会復帰かと重い足取りで朝から準備に精を出した。

 

さて、この夏は出張を多く控えており、それも長期となる予定だ。いつもは長くても5泊程度だったが、最大で1か月を超えるとなるとこれは本格的な準備を考えねば。直前に準備しているようでは間に合わないのでスーツケースから簡易的に料理するためのグッズまで、欲しいもの必要なものを検討してみた。

 

小分けのケースやガーメントケースなどはたいてい無印で調達しているのだが、5/9までセールと知り、早速チェック。必要なものをいくつか購入する。

 


さて、昨日のうちに読んでみたいKindle Unlimitedの本をダウンロードしておいた。本書はすっかりファンになってしまった風野真知雄さんの作品だ。

 


上の作品があまりに楽しく、ちょうど他の作品も読んでみたいと思っていたところだったのでありがたい。気分を盛り上げるにも早速読書を始める。

 

明日から仕事かとこちらは重い雲に包まれたような気分なのに対し、本書の主人公は無く子も黙る火盗改めを引退したばかりの元同心だ。矢沢冬馬は家督を息子に譲って引退し、今や兼ねてより憧れていた釣三昧の日々を満喫している。が、釣りの成果はほとんどなく、むやみに海に竿ををおろしているような状態だ。でもそれが楽しくてたまらない。40代にして早々に引退したのは、事件を取り締まる際に後ろからの殺気に刀を振るったところ、同僚が傷を負ったことにあった。しかし、冬馬は決してその勘が外れていたとは思わない。なぜなら冬馬はあらゆる武術に精通しているからだ。

 

その腕を買われて指導者への道を勧められるも、釣りを楽しむのだと道場に縛られる生活を受け入れなかった。が、ある日道で襲われる女性を助け、その女性に合気道を教えることになったことから「ふうらい指南」の看板を掲げて武術を教えることとした。

 

本書でまた一つ江戸について知ったことがある。同心はみな八丁堀に住むのかと思っていたが、火盗改めである矢沢家は小石川にある。火盗改めと町廻りの同心はなかなか仲間とは言い難いものがあり、住むところも異なったようだ。冬馬は釣りに便利な海に近い土地に移り住みたいとあれこれ探すも、やっと見つかったのは北島町。そこは八丁堀のど真ん中で、火盗改めならば絶対に選ばない場所だった。が、便利を考え、冬馬は飄々と暮らしている。

 

この「ふうらい指南」にはちょっと変わった生徒が多い。冬馬は道場などを持っていないので、指南はもっぱら砂州や神社だ。生徒が練習している間は川や海に釣竿を傾ける。そして、滅多に魚がかかることはない。釣りのほうはさっぱりだが、冬馬には教える才能があるらしく、生徒たちはめきめきと上達する。

 

そして合間に火盗改めの仕事もこなしていた。息子はまだ心許ないところがあるが、誰よりも武術の心得がある冬馬は上からも一目置かれ、むしろ火盗改めを離れた所にいることから秘密裡に調査を依頼され、冬馬の日々は指導に、調査に、団子屋通いにと忙しく、さっぱり釣りは上達しない。そこがまた笑えてしまう。

 

そして初めての生徒であるおあきの存在が冬馬の心の片隅で時に大きくなったり、支えとなったり。こういう人情溢れるところが風野作品の醍醐味だろう。

 

シリーズ3作なのでこれから続きを読みます。楽しみ。

#530 Kindle Unlimitedのキャンペーンに乗っかってみました~「口入れ屋おふく 昨日みた夢」

『口入れ屋おふく 昨日みた夢』宇江佐真理 著

助っ人として稼業の口入れ屋を盛り上げる、おふく。

 

ああ、なんということか!このタイミングでKindle Unlimitedが2か月99円のキャンペーンを実施するだなんて!通常は月980円なのでこれは相当大きなキャンペーンだと言えるだろう。2コインで2か月あれこれ読み放題だなんて嬉しすぎる、と早速登録してしまいました…。ああ、溜まりに溜まった書籍はいつ読み終えられるのだろう。

 

だが読みたかった小説がたくさんあるので、それを1冊でも多く読めれば良しとすることにした。早速、長く読みたかった本書をダウンロードする。

 

宇江佐真理さんの作品は「髪結い伊佐次シリーズ」の他、短編もいくつか読んでいる。

 

 

残念ながら、髪結い伊佐次は著者の他界により未完となっている。その当時にリアルタイムで本作を読んでいたファンの方はショックを受けたことだろう。あとがきで病を患っておられたことは記されているが、すでに世を去られていることを知りつつも残念でならなかった。著者の書く世界に惹かれ、その後もできる限り著者の作品を読みたいと考えているところでの本キャンペーンにありがたく乗った理由は本書を読みたかったからだ。

 

さて、口入れ屋だがこれは今で言うところの人材派遣で、江戸時代からあったビジネスが今でも脈々と引き継がれていることに、日本がこうして豊かになれたのは何百年も前から商いの基盤が育てられていたからだろうと感じずにはいられない。

 

おふくの父は双子で、あまりにそっくりで他人には見分けが付かないほどだ。しかも、二人は何をするにも同時だからより一層周りを混乱させている。叔母はあえて二人に同じ着物をあつらえて面白がっているところもあり、本業の口入れ屋の商いにもそれなりにプラスとなっている。おふくの母親は幼い頃に病で亡くなり、その後は父の実家である口入れ屋「きまり屋」に一室をもらい暮らしていた。

 

おふくは実は出戻りだ。猛烈に恋焦がれて勇次という男と所帯を持つも、1年余り共に過ごした頃、忽然と姿を消した。すでに勇次が去って5年が経つが、おふくは心の整理が出来ずにいる。

 

ちょっと話は横にそれるが、ものすごく好きな人をあきらめるのに5年が長いのか、短いのか。個人的には5年はありうると思う。その人の不在は些細なことでも心を波立てる。すぐに次に移れるのならば、それはラッキー。唯一効くのは「ときぐすり」だが、即効性がない事が問題だ。実にゆっくり時は流れ、気が付くと5年ということもあると思う。


さて、おふくはまだまだ癒えない心をもちつつ、実家の稼業を手伝っている。例えば半月だったり、1週間だったり、期間の短いものなんかも口入れ屋としては扱いに困る。あとは女中が居つかないような仕事のきつい商家なんかもなかなかに難しい。そんな時こそがおふくの出番で、身の回りのものだけを風呂敷に包み依頼先へ出かけていく。

 

大体が一癖も二癖もある依頼先なので、稼業を手伝うおふくも知らず知らずのうちに忍耐力が付いたのかもしれない。そして辛さは優しさを生む。行く先々での問題ごとに触れるおふくの温かさに読み手もついほろっと来る。

 

江戸には恋心を悩ませるシステムがあった。妾や多妻、身分や親の決め事で実らぬ恋もあっただろう。それがひっそりと根底に流れており、より日常感を強めているように感じた。誰が悪いわけでもなく、社会の仕組みが恋心に優しくなかった、という感じだろうか。だれもが感じる、だれもが経験する心の重りを江戸の人も感じていたんだなーと切ない気持ちにもなる。市井の生きる様が見事に書かれたストーリーだ。

 

おふくがその澱をも承知の上で女中として人に仕えている様子から逞しさこそが生きる知恵と思える一冊。ひとまず5月、6月はKindle Unlimitedを最大限利用させて頂きたいと思う。

 

#529 GWもやっぱり時代小説を読んでます~「雲の果」

『雲の果』あさのあつこ

弥勒の月シリーズ、第8弾。

 

さて、GW中盤となりました。「この飛び石が無ければねえ」と毎年思うのだが、無ければ無いでとてもとても困ってしまう人もいるのかもしれない。病院とか銀行とか郵便とか、この時期に有給取得なんて無理!な方もたくさんおられるだろうし、そもそもサービス業の方ならば人が休む時期こそが稼ぎ時なのでお忙しいことだろう。一方で会社勤めである程度休みを自分でコントロールできる方は有休使って10連休を満喫しておられるはず。コロナさえなければ、きっと海外旅行だの、イベントだので賑わっていたのだろうと考えると、早く元に戻らんかなと思わずにはいられない。

 

さて、近所のスーパーとカフェに行くくらいしか予定もなく(そういえばいつもより混んでなかったからみんなお出かけしているのかも)、優雅に読書三昧の日々を送っている。昨日は初めて近所のカフェに行き、豆を買った。それが思わず声が出るほどに美味しく、ものすごく実りのある気分になった。コーヒー一杯でとても幸せになれるなんて素晴らしい。この満足感とともに何を読むべきか。そう、これしかない!とシリーズの続きを読むことにする。

 

本書は「弥勒の月シリーズ」の8巻目なのだが、読む順番を間違えてしまい6→9→7→8巻目の順で読破した。1冊で1つの大きな事件が片付く展開なので読む順番を間違えてしまったことで大きな変化はないとはいえ、事件の順番など変な感じで頭に残ってしまうのが嫌で、本書を読んでから9巻目を読み直した。

 


8巻目、これは「つながるな」と思った。未来が予見されるストーリーとなっている。同心の信次郎は、常に森下町にある小間物問屋、遠野屋の主人である清之介の過去から「お前は血を呼ぶ。」と今や真っ当な商人となった清之介がまた殺しの世界に戻ると言う。その度に伊佐治親分に注意されるのだが、にやりと笑うだけで絶対にその言葉を取り消すことが無い。当の清之介は商人として生きる道が自分を救ってくれたと決して二度と刀を握らないと誓っている。亡くなった妻がこの道に導いてくれたと今も独り身を貫き、遠野屋の身代を大きくすることに熱中する日々だ。

 

さて、「つながる」と思った理由はこうだ。まず、今回は遠野屋の不幸からストーリーから始まった。先代の時代から番頭として勤めていた喜之助が亡くなった。この頃は清之介が番頭に引き上げた信三が店をまわしてはいたが、喜之助も筆頭番頭として店の奥を守っていた。それがある日、ぱったりと倒れ、そのまま数か月でこの世を去った。見送ったのは清之介一人で、息を引き取る前、喜之助は清之介は遠野屋に来るべきではなかったと言う。その言葉が清之介の心に深く深く刻まれる。

 

同じ頃、江戸でも事件が起きていた。雨が降ったことが幸いし、被害は小さく収まったが女が一人火事に巻き込まれた。信次郎と伊佐治親分が調べると、火事が原因ではなく腹を刺された所へ火を放たれたことがわかる。現場からは珍しい柄の布が一枚、それが事件を紐解くきっかけとなる。

 

伊佐治親分は着物だの帯だのに詳しくはない。もちろん、簪や紅などの小物にも詳しくない。が、妻と嫁は遠野屋が取り扱う品の良さを知っていた。加えて、この頃遠野屋が新しく始めた若い職人の品を廉価で販売する催しについても知っていた。いつもは絶対に手に入らない遠野屋の品だが、廉売ならば自分たちの手にも届く。立て続けに子を亡くした嫁を元気づけるためにも、どうにかしてその催しに呼ばれたい。ついては、日頃家を顧みない伊佐治親分なのだから遠野屋にお願いして引き札を手に入れて嫁を元気づけろ、と妻から一言食らってしまう。嫁のためとはいえ、妻のためとはいえ、公私混同を嫌う伊佐治親分だが、今回は冷や汗をかきつつ清之介に頭を下げに一人で遠野屋に赴いた。

 

もちろん遠野屋は快く伊佐治親分の願いを聞き入れるどころか、もともと招待するつもりだったと引き札を渡す。安心した親分は、それから滞っている火事事件について遠野屋に語った。不審な点がいくつかあること。家の持ち主はすでに他界しており、その子供たちも全く知らないこと。そして、伊佐治親分は自分よりも詳しいはずと現場に残された布を清之介に見せる。

 

さて、「この布の手触り、どこかで見たことがあるが思い出せない」と清之介は過去の記憶を辿るがいつどこで手にしたのかどうもはっきりしない。そこで帯屋の知り合いに尋ねるとし、一日布を預かった。布を前に考える。そして、思い出した。それが遠野屋の中であったこと。持ち主は無くなった喜之助であったこと。それは帯であったこと。しかしなぜ喜之助がその帯を持っていたのか、それどころか喜之助の生い立ちから来し方まで、何ひとつ自分は喜之助のことを知らなかったことを思い知らされる。

 

なんとここでまさかの喜之助!喜之助は先代を主とし、清之介のことを長く嫌っていた。あからさまに態度に出してまで清之介を蔑んでいたが、遠野屋が大きくになるにつれ少し心を入れ替えたようではあった。しかし、喜之助は人とうまく折り合える質ではなく、遠野屋の中でも親しくしていたものはない。それがより一層喜之助を謎の人物と知らしめている。

 

翌日、仲間の三郷屋が訪れた。自分ではどうもわからないが、先代である父ならわかるかもと知恵を限る。三郷屋の先代によると、これはとある村でごく少量だけ作られる織物ではないかとのことだった。その織物の歴史が解決へのまさに糸口となる。基調な素材から作られたその織物は今や廃れてしまったと言い、江戸では手に入れることもままならないそうだ。

 

それにしても喜之助はなぜ、というあたりがなんとなくこれからも続くのではないかと思うのだがどうだろう。9巻目以降でまた姿を現すのでは?と若干期待している。10巻目も早く購入したいところだが、ひとまず手持ちの書籍を読まなくては。

#528 衣替えしたら急にオシャレに目覚めました~「マダムが教えてくれたこと」

『マダムが教えてくれたこと』ユニカ 著

おしゃれをすることについて。

 

本日は出勤の方もいればお休みの方もいることだろう。5月の頭は割と海外でも公休日にあたる国が多く、今回はしっかりと有休を取った。いつも飲んでいるコーヒーを頼み忘れてしまい、今日は近所で焙煎しているというショップに買いに行く以外は家でのんびりしたいと思う。

 

さて、この週末は家のことをどうにかせねば!と衣替えから手を付けた。ここ1年袖を通していない服を処分することにし、状態の良いものは人にゆずったり、綿素材のものはじゃきじゃきと切ってウエスにしたり。ここ数年新しい服を買うことがめっきりと減ったので作業は1日であっという間に終わったけれど、夏服を出してみて「さて、これどんなコーディネートにしようかな」と困ってしまった。

 

一昨年あたりから日本のアパレル企業がコロナ禍の打撃で苦戦を強いられているというニュースを聞き、積極的に日本ブランドのものを買っている。ささやかな応援にしかならないが、少しでも衰退を防ぐことができたらと思う。在宅勤務で外に出る機会が減ったことや、ショップ自体がクローズしていたので主にネットで購入してたわけだが、届いてみて「なんか違う」なものも確かにあった。というより、半分くらいはそうだったかもしれない。色や素材からくる違和感の他、明らかにサイズがマッチしていない。特にパンツの丈は最も悩み深い。返却すれば良いのだが、それも面倒と結局そのまま手元に置くことにした。思っていたのとは違うけど、さすが日本ブランドは形がきれいなので着ればなんとかなる。ふむ、今年はこれらをどうやって着こなすべきか。そこで本書を読んだ。

 

ファッションの本を読むとき、出来る限り世代に関係なく読むようにしている。小中高生がターゲットのものはさすがに目を通すことはないが、ティーンからシニアまで、素敵に見えたものは手にすることが多い。この頃はむしろシニア対象の本を好んで読んでいる。いまや70代や80代の方のファッションは昔の「おばあちゃん」風ではなく、自分の長所短所がわかっているからか完全にフィットした着こなしをしておられる。むしろ意外なアイデアがものすごく多くて取り入れたいワザが多い。

 

最近読んだ本ではこちらがあるが、エレガントさに憧れの溜息がもれる。

 

さて、本書はカフェでバイトしている主人公が素敵なマダムのファンとなり、自分なりに研究する。そしてその知恵を自分のライフスタイルに取り入れていくことで輝き始めることにフォーカスが当てられている。そもそも、年配の女性をつい「マダム」と形容したくなるのは、その女性がエレガントでオーラを醸し出す美しさがあり、独特な個性に加え、堂々と人生を楽しんでいる自分らしさに溢れているからではないだろうか。思わず目が行くような、かっこよさ。マダムと呼ばれるのは相当誇ってよい事のはずだ。だって普通に暮らしていたなら「おばさん」とか「おばあちゃん」ならまだしも、「あのいつも一昔前のスタイルで若作りしてるおばちゃん」なんて言われたら悲しすぎる。

 

本作に登場するマダムは白髪をベリーショートにカットし、いつも素敵なファッションでカフェに現れる。優雅にコーヒーを飲みながら新聞を読み、その姿が20代の主人公の目を惹きつける。サービングの際に少し話をするのだが、その短い瞬間に学びを得、主人公も魅力的なマドモアゼルに育っていく。

 

例えば、マダムは恐らく70代~80代だと思うのだが、ピンヒールで登場することも多い。例えばこちら。

靴のお手入れってつい忘れがちで、本当に傷んで初めて修理に出したりすることも多い。pointed toeの靴、確かに先が傷むんですよね。エナメルなんて特にそれが目立つからちゃんと手入れしなくては、と思うのだけれど、なかなかそこまで手が回らない。こを読んで、自分のシューズボックスのずさんさを思い出し「連休中に手入れしよう」と気合を入れた。

 

「先っぽ」は私にも刺さるキーワードだ。ここでは髪の毛先の手入れが挙げられているが、爪もキレイにしなくては。よく祖母が言っていたことだが、私が無造作に髪をまとめていると「若いっていいわね。年を取るとこれでもか!ってほど清潔を意識しないとダメなのよ。髪を束ねた時におくれ毛一本あっただけでキレイに見えないの。たった一つでも整っていないと不潔に見えてしまうからオシャレにもお金がかかるのよねえ。」と言っていた。当時はそんなものかと思っていたが、本書を読んでいるうちに昔の記憶がよみがえってきた。そういえばFPの書籍にも美容代が年を加えるごとに増えていたのを思い出す。

 

確かに素敵に見える人は清潔感がある。髪一つにしてもルーズ感の出し方によってはただただだらしなく見える場合もある。あの差は何だろう?多分、清潔に見えるかどうかのギリギリのラインを自覚し維持する、と理解した。これについて例としたのは英国王室に嫁いで速攻アメリカに渡ったあの方で、結婚報道が出た当時は才女でハーフブラックというバックグラウンドから来るたくましさもあり、きっと見事に公務をこなすだろうと思っていた。ところが今や残念な結果となっている。しかも渡米後の彼女はルーズに髪をまとめることが多いが、それよりきれいにシニヨンでまとめたほうが似合うと思う。ルーズなまとめ髪はあまり彼女を輝かせていないのではないだろうか。

 

さて、そして気を付けてもなかなかできないのが姿勢。

気にしている時はしっかり背筋は伸びているが、ちょっと油断すると猫背になってしまい維持するのが大変だ。実はこの頃整体に通い始め、これが少しずつ正しい姿勢を維持するのに役立っている。何事も毎日の積み重ねなので、エクササイズを続けたいところだ。それにしてもやはり姿勢は大事なんだということを再認識させられた。モチベーション維持にもなってよかったよかった。

 

そして、これから何を買うか問題。マダムは40年前の服を今でも大切に身に着けている。これは素敵だ!自分にぴったり!なものも歳を追うごとに似合わなくなることがあるが、それでも大切に着られるような選び方はできるはず。そしてその素敵な着こなし方を40年間アイデアを出しつつ自分の一部にする作業は楽しいだろう。今、その時代の服を購入することは絶対に無理なわけで、洋服も一期一会。これからは必ず実物を確認して購入することに決めた。

 

そういえば、これまた英国王室の話になるがキャサリン妃は今年40歳になられたそうだが、学生時代の服を今でも公務で身に着けておられるそうだ。体形を維持していることもすごいけれど、これこそイギリス!親世代、祖父母世代の服を手直しを加えて今でも着ている人によく出会ったが、アンティークを楽しむ感覚でお洋服も経年で育てていこうと決心した。それにはまず、長い時間耐えられる素材を吟味し、しっかりした裁縫で作られたものに限る。2022年の服を2052年にも着られるように、自分の目も育てないとな。

 

ああ、やっぱりファッションって楽しい。

#527 香り立つような小説でGWをスタート~「花を呑む」

『花を呑む』あさのあつこ 著

弥勒の月シリーズ第7弾。

 

待ちに待ったゴールデンウィーク、曇り空でも気分は爽快。カレンダー的には5/2と5/6が平日となるが、有休を取得して10連休という人も多いだろう。

 

今年の連休にやりたいことはすでにリストアップしてあるが、詰め込みすぎな気もする。前半はひとまず衣替えを済ませること。全体的にはがっちり英語のブラッシュアップを考えている。それからいつもよりゆっくり読書ができそうなので難しめの本も読みたいし、Netflixをどうするかも考えよう。

 

さて、昨日は唐突に命令されたオンラインミーティングの参加により、すっかり体力を使い果たして帰宅した。でも当分休みかと思うと心が弾み、「そうだ、あれだ!」と早速本書を読み始めた。

 


この頃楽しんでいる本シリーズ、なんと順番を間違えて6番目の次に9番目を読んでしまった。その間を埋めようと早速第7弾を読む。

 

本シリーズの特徴とも言えるが毎回表紙がものすごく美しい。表紙にはたくさんのメッセージが込められているが、今回は真っ赤な花や櫛、そして美しい庭の見える部屋があるので女性の存在が大きな意味を成しているのかしらと想像しつつ読み始める。

 

伊佐治親分の縄張りにある大店で奇怪な事件が起きた。なんと主が幽霊に殺されたと言う。主とお内儀は20ほども年が離れているのに、なんと妾まで囲っていたという強者だ。その妾もひどい姿で主と同じ日に亡骸が見つかっている。お内儀が家のものと朝の準備をしていた時だ。お付きの女中がお内儀が愛用する遠野屋の紅を鏡台に片付けようと引き出しを開けた時、いきなり中から手をつかまれ引き込まれそうになった。全力で腕を引き離すと手には髪の毛の束が現れる。恐ろしさに二人は大声を上げた。奥から手代が何事かと駆け付け大騒ぎとなるが、隣の部屋で寝ている主の部屋はひっそりとしている。不思議に思い襖を開けると、主は口にたくさんの牡丹の花を詰め、ひっそりと息を引き取っていた。そして足元には女の幽霊が立っていたという。この頃足が遠のいていたという妾が主を恨んで呪った、というのが事件の軸だ。

 

こんな怪事件が起きている間、なんと同心の信次郎は家でこんこんと寝込んでいた。伊佐治親分にまで病をうつし、それでも治らず1か月余りも寝込んでしまった。伊佐治親分はかろうじて回復し、さっそく現場に顔を出すも、とにかく異様な背景に解決の糸口を引き出せない。一方で親分にはこれが幽霊の仕業とは思えず、悶々としながら信次郎の回復を待っていた。

 

さて、そうこうしているうちに回復した信次郎は面白い事件があったのに見逃したと駄々をこねていた。しかしお江戸の事件は相変わらず次々と湧き、二人は別の事件にあたることになる。一見いつもと変わらない質の事件かと思う伊佐治親分だが、信次郎の目には、これまたいつもの通り、事件と事件の間の闇がはっきりと見えていた。

 

信次郎がかねがね事件の先には遠野屋があると言うが、口に出す度に伊佐治親分に窘められる。しかし今回もやっぱり遠野屋につながってしまう。今回は亡骸から遠野屋の小判の包み紙が出てきてしまう。この事件の少し前、遠野屋の清之介のもとへ、武士である兄の使いがやって来た。500両用立てて欲しいという。用途は以外な内容だった。それを聞き入れた清之介だが、この金が他人の手に渡ったことが容易に想像がついた。

 

こうしてまた3人は犯人捜しに翻弄する。どんどんと事件同士のつながりがつまびやかになる所は息をのむテンポで進んでいく。まるで伊佐治親分の手下たちと一緒に江戸の中を小走りしているような気持ちになる。

 

それにしても牡丹にそんなに強い香りがあっただろうか。著者の見事な世界に引き込まれつつ、牡丹の香りに包まれるような気持ちになる。一向にはっきりと香りが思い出せないでいるのに、甘い香りにむっと包まれるような、濃厚な香りを身にまとった人とすれ違う時に感じる「! この香り!」と一瞬心が香りに持っていかれる時のように五感ごと物語に引っ張られていく。牡丹はちょうど今が時期だろうか。「あとで花屋さんに行こう」と読了後まで花に呑まれたままだ。

 

ひとまず、9巻を先に読んでしまったとはいえ、7巻はそれはそれでちゃんと楽しめた。よし、この勢いでGWを満喫してやるぞ。