Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#830 鸚鵡の言葉~「村田エフェンディ滞士録」

『村田エフェンディ滞士録』梨木香歩 著

トルコ滞在記。

 

週末、寝ても寝てもなかなか体調が戻らない。朝は起きれず昼になるとまた眠くなる。ところが14時過ぎ当たりから完全に目が冴えてまた眠れないので、少し散歩をしたりして体調を整える努力をしてみた。

 

この出張の間に読書の習慣が滞ってしまった。少しずつ体調回復、読書回復に努めたい。ということで、梨木香歩さんの本を読み進めることにした。

 

先週読んでいた本とは登場人物が知人というつながりがある。

 

 

本書の主人公村田は、今トルコへ留学している。トルコと日本の国交を深めるためのもので、トルコ側からの招待により実現した企画である。村田は考古学を学んでおり、その学生時代の友人には先の作品に出ていた高堂や綿貫がいる。卒業後の道はそれぞれで、高堂はすでに他界。綿貫は物書きとして生きている。村田は大学に残り、考古学の研究を続けることにした。

 

そしてこの度、その国策の留学に村田が選ばれた。当時の留学はそう簡単なものではなく、学府に選ばれたものや政府の意向が強いもののみがその切符を手に入れることができたようだ。加えてその頃は海路での移動である。例えばヨーロッパへ行く場合には数々の経由地で給油をし食料を得、ゆっくりと目的地まで進んでいく。

 

村田も同様に海路で苦労しつつのトルコ入りであった。トルコにはすでに日本人の商売人がおり、その人物の助けもあり無事に生活を始める。村田の下宿先はイギリス人婦人の経営する宿で、そこにはすでに3人の男性が住んでいた。一人は家のあれこれを手伝うモスリムの男性、そして考古学を学ぶドイツ人とギリシャ人だ。そしてある日、そこにオウムが加わった。オウムは言葉を話すが、このオウムはまるで意思を持って話せる言葉からタイミングを見て発話するようなところがあり、いつしか下宿に欠かせない存在となる。

 

前作同様、やはり村田にもなにか見えない世界が押し寄せてくる。トルコは遺跡も多く、歴史や神話とつながる世界が確かにあり、村田が住む家も遺跡として扱われなかった過去の遺跡を積み重ねたものだったらしい。

 

村田はギリシャ人とドイツ人の考古学者仲間との交流からも知識を高めていく。そして未開の世界での生活についても彼らから暮らしについてを学んだ。当時のトルコは独立の兆しのあった頃のようで、政治についての背景も見えてくる。

 

恐らく村田はトルコでの生活を綿貫へたまに書き送っていたようだ。綿貫は村田の文才ではその貴重な経験がしっかりと語られないと自身が代筆する気でいるようだ。村田の留学は数年のことであったのだが、非常に濃厚な時間が流れており何年もの月日が流れたような気になる。

 

そして昭和初期と言えば戦争があった。トルコもその流れから身を隠すことはできず、若者たちの未来は大きく変わった。時は経ち、日本に戻った村田はトルコでの日々が忘れられない。若かった自分が考古学に燃え力強く生きていた頃、それはどんどんと遠のいてしまった。自身も結婚し、子をなし、社会の軸となりつつあるが、心をトルコへ残してきたかのようである。

 

帰国後の村田はまず綿貫を頼った。住むところや荷物を送るのに一人暮らしの綿貫は丁度良い。それからの日々が切ない。彼らの人生を想像しながら読書をしていると本当に彼らが実在していたような気になる。読書後にはすっかり彼らに共感し、まるで見て来たかのように昭和の時代を過ごしていた気持ちになった。

 

あと1冊、関連書籍があるはずなので近く続きを読みたい。