#186 一年で人はずいぶん成長しますね
『髪結い伊三次捕物余話 7 雨を見たか』宇江佐真理 著
伊三次が小者として働く同心、不破の息子の龍之進は見習いとして活躍し始める。
1冊ごとに1年年が進むこの小説、不破の息子の龍之進も有給の同心見習いとなった。
同期の6人のうち、一人は商家から養子に入った者だが他はみな代々同心として働いている家系に生まれている。町人と武士では言葉や生活習慣が異なるようで、そんな様子を垣間見れるのも面白い。
その商家出身の同期、古川喜六はもともと料亭の家の出で同心だった古川家に是非にと請われて養子となった。その町人時代に住んでい本所で「無頼派」という6人組が暴れているという。龍之進たちも6人組で上役から「純情派」というあだ名をつけられた。
無頼派の悪だくみはまだまだ可愛らしいもので、せいぜい夜中に街中を走り回って騒ぐ程度だった。それでも夜中に屋根の上を走られるのはたまらないだろうし、ふざけるにもほどがあるということで「捕えてくれ」という町民の声が番所にも届いていた。龍之進たちは我ら純情派の手で捕まえようと翻弄する。
6巻目あたりから龍之進たちの活躍がメインとなってきており、伊三次らはあまり登場していない。息子の伊与太がすくすくと育っている様子や、妻のお文がまたお座敷に上がっている様子が出てはくるが、龍之進が大人になりつつある様子が今の見どころのようだ。
長く続く作品は非常にゆっくり歳を取る。何年もかかって何冊も出ているのに主人公はまったく歳を取らない作品も多い。一方で読み手は確実に歳を重ねているので、いつのまにか自分が主人公より年上になっていることもある。
その点、この作品は必ず1冊で一つ歳を重ねているので、登場人物の成長が垣間見れる。生まれた子供の成長などは想像がつきやすいだけに知り合いの子の話を聞いているかのような錯覚に陥る。季節も流れるし、世の中の動きも感じられる。前の巻を思い出す時、まるで去年のことを思い出すかのような感覚になるのも面白い。
時の流れを感じながら読めるせいか、登場人物と自分を重ね「登場人物のように自分も前に進めているだろうか」とつい確認したくなってしまった。